第29話 雷と閃光[第2階層編]

 周囲では【レイドクエスト】に参加中のプレイヤーたちの悲痛な叫び声と、辺りに響き渡る蜂の羽音が共鳴していた。



 そんな中オレは大きく一歩を踏み出した。



「イザナくん、だめ!行かないで!」


 かなでの声を後ろで聞きながら、振り返らずに


「大丈夫だから。」


 と一言答えた。



 オレは鞘から抜いた【黒刀-月影-】を握る手に力を込め、口を開いた。



「【雷を纏う者ライトニング】【神域ゾーン】発動。」



雷を纏う者ライトニング】のエフェクトにより、オレの身体に青白い雷光が発生し、うるさい羽音をかき消すかのように“バチバチバチッ!!"という大きな音が鳴った。


 そして同時に発動させた【神域ゾーン】はオレの瞳から青白く光のオーラを放たせた。



 後ろでパーティーメンバーたちが息を飲む中、オレは "キラービー" たちに向けて一気に攻撃を仕掛けた。



 みんなが目で追うことのできないスピードで移動し "キラービー" の背後から【背面強襲バックスタブ】を使用し一撃で仕留める。

 そして倒した虫が消滅する前に"それ"を踏み台として利用することで、まるで宙に浮かびながら攻撃を繰り出しているかのような現象を起こしていた。



「あの雷光って……イザナくんだよね?」


「ええ、間違いないわね。」


「ほんとめちゃくちゃっすね、イザナくんって。でもこれならもしかしたら。」


「1人で《キラービー》を全滅させれるのか……?」


 かなで、ほむら、ルイ、タケルは宙に浮かび上がる青白い雷光を見つめながら、そんなことを口々に話していた。



 初撃から20秒ほどで【雷を纏う者ライトニング】のリスクによりHP消耗が激しかったため、オレは一度スキルを解いてかなでの近くまで戻ってきた。



 少し遅れて攻撃を受けた順番に "キラービー" たちは激しいエフェクトと共に消滅していき、合計2万匹がたったの20秒ちょっとで完全に消え去ってしまった。



「ほんとに倒しちゃった!」


 かなでの驚きの言葉を聞きながら、オレは残りHPが100を切っているのを確認した。



 ……さすがに【雷を纏う者ライトニング】の副作用は大きいな。



「イザナくん、今回復するね!【超回復ハイヒール】!」


 かなでに【超回復ハイヒール】をかけてもらったことで、心許なかったHPが全快した。



「ありがとう、かなで!あとはボスだけだな。」



 しかし "女王蜂" は仲間を全てやられたことで、完全に怒りモードに移行していた。ただでさえ超巨大な見た目が更に数倍大きくなり、複眼は真っ赤に変化して歪な光を放っていた。



 ……【緊急クエスト】でわざわざ半分以上って指定があったのは、この怒りモードにさせないためだったのか。



 今更気付いてもどうしようもない。

 と、同時に【世界クエスト】が出ている以上、こうするのが最善手だったとしか思えなかった。





 "女王蜂" はスキル【威圧プレッシャー】を使用した上で【麻痺の粉】と【猛毒の粉】を散布してきた。



 オレを含めて全員がその場で膝をつかされ、全く動けなくなる。



「うぅ……これ毒?……苦し……いよ。」


 隣でかなでが苦しそうにしている。

 他のプレイヤーたちも同じような状態だった。




 周囲のプレイヤーも全員動けずにいる中 "女王蜂" は、ここぞとばかりに広範囲攻撃を繰り出そうとしていた。





 ……【影武者シャドー】。





 オレが心の中でスキルを使用すると、【威圧プレッシャー】と【麻痺の粉】そして【猛毒の粉】の効果を受ける前の状態になった。




 ◯【影武者シャドー

 →5分間に1回だけ使用可能。受けたダメージや状態異常を無効化(影武者に受けてもらう)し、元の状態に戻す。




 オレは1人だけ立ち上がり "女王蜂" の前まで移動する。

 "女王蜂" は広範囲攻撃を止め、オレの前に向き直るとまるでちっぽけな存在であると言わんばかりに、嘲笑うかのような仕草を見せた。



「正直オマエのその仕草とかはどうでもいいけどさ、かなでを苦しめたのは間違いだったな。」




 オレは怒りを内に秘めながら、システムに向けて言葉を発した。




「サブ職業の情報隠蔽を解除。」





 —サブ職業の情報開示が承認されました。サブ職業を開放します。



 —サブ職業:固有ユニーク職業【剣聖】が開放されました。

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