覚醒者編
第33話 海獣王とビーチボール[覚醒者編]
——レベルが40になりました。
——規定のレベルに達したため【覚醒者クエスト】の受注が可能です。
オレがシステムからそう告げられたのは、攻略が第5階層へと突入した頃だった。
「ついにずっと気になってた【覚醒者クエスト】か。一体どんな内容になってるんだろうな」
一度受注してしまうと、取り消しはできないと表示されたが、自分の力を慢心していたオレは当然【覚醒者クエスト】を受注した。
○【覚醒者クエスト】《限定クエスト》
→真なる覚醒者を目指し、己の全てを賭けよ。
※達成条件:18時〜6時までの12時間生存。
[注意事項]
①強力敵が留めなく襲いかかります。
②時間経過毎に敵の強さが増していきます。
③全てのアイテム使用は禁止されます。
④全てのスキルに再使用時間が適用されます。(再使用時間30分)
⑤ クエスト失敗の場合は全ステータスが1にリセットされます。HP全損時は命の保証はありません。
⑥【覚醒者クエスト】への挑戦は一度きりとなります。
⑦上記以外の事項も起こる可能性があります。
——あなたは全てを賭けて、このクエストに挑みますか?【YES / NO】
「……これ、ラスボスの魔神王クエストよりキツくないか?」
正直今の時点で、オレはかなり強い方だと思っていたが、それでも【覚醒者クエスト】の内容には焦りしかなかった。
(……でも、やめるわけにもいかないよな)
悩みに悩んだが、どう考えてもこのクエストに参加しない手はなかった。
「……よし、やってやるよ……【YES】だ。」
——【覚醒者クエスト】を受注しました。
——【覚醒者クエスト】開始まで10:57:23です。
(……残り10時間以上もあるなら、どこかでゆっくりしておこうかな)
オレはせっかくなので第5階層を少し堪能することにした。
♢
第5階層は【海上都市シークォーツ】と呼ばれ、海水浴の楽しめる砂浜もある観光地の1つとなっていた。
NPCたちの中でも有名らしく、多くの人で賑わっていた。
「さすがは観光地だな。プレイヤーもNPCもいっぱいすぎだし……」
砂浜を歩いていると、突然水着を装備したプレイヤーに声をかけられた。
「ねえねえ、おにいさん!ちょっと私と一緒にビーチボール大会の決勝に出て欲しいんだけど……どうかな?」
(……うん?これ逆ナンってやつか?)
自意識過剰なオレはそう思うことにした。
「ちょうど暇だったし、別にいいけど?」
「やった!一緒に出るはずの人が来れなくなっちゃって困ってたのよ……私はリザよ。あなたは?」
「オレはイザナ。よろしく」
少しわざとらしく谷間を見せてアピールしてくるところはそそられなかったが、水着のサイズが小さいのか、カップに収まりきっていない大きなのおっぱいには不覚にも鼻の下が伸びてしまう。
「で?ビーチボール大会ってルールはあるのか?」
おっぱいから視線を逸らし、参加するからにはと一応ルールの確認をしてみる。
「一応男女2人ペアで、スキルも魔法もガンガン自由に使っていいから、思う存分楽しめるわ」
(なるほどな。確かにこれなら全力で楽しめそうだ)
ただのビーチボールとは違う展開に、少しだけワクワクした気持ちになっていた。
♢
ビーチボール会場に移動すると、対戦相手はまさかの人だった。攻撃魔法職ギルド【Wizard's】のギルドマスターである "ゴッドファザー"とほむらのペアだったのだ。
これにはほむらも驚いている様子だった。
「ほむらさん?知り合いですか?」
「はい、イザナ……あっちの男性とはフレンドなんです」
ほむらの様子から何かを悟ったらしく、ゴッドファザーが色々と聞いているようだ。
「彼はものすごく強いので、遠慮はいらないですよマスター」
「ほぉ。この私が最強の【
どうやら、向こうも本気で来るようだ。
「あちゃ……なんか本気にさせちゃったかな。優勝狙えるかな」
「優勝か……。そう言えば、リザさんはなんでビーチボール大会で優勝したいんだ?」
肝心なことを聞けてなかったのでオレはリザさんに確認してみた。
「実はこの大会で優勝すれば【オンラインNOW!】のCMに "ビーチガール"って形で出演できるらしいの。それをキッカケに芸能界デビューして・・・」
……とのことらしい。
(それの手伝いってことね。もう気付いてたけどやっぱ逆ナンじゃなかったのな)
少し残念だが、出ると言ってしまった以上やるしかない。
両者握手の元、リザさんのサーブからで試合が始まろうとした……その時!
会場付近の砂浜で急に悲鳴が上がり始めた。
最初は何に対しての悲鳴かが分からなかったが、みんなが指差す海辺の方を確認すると、その正体が明らかになった。
——"海獣王"だ。
"海獣王"とはいわゆる "海のヌシ" とも呼ばれ【オンラインNOW!】の隠れボスモンスターの1体だ。
かなり強力であることが公式からも発表されるほどで、希少な存在でありながらプレイヤー全員が危険視していることで有名な存在だった。
本来はクエスト等で出現するはずだが、名所の盛況さにそそられてやってきたのだろうか?
「このままじゃ、周囲にも被害が出るわ。早く避難しなきゃ」
リザはそう話すが、あまりの人の多さと、中にはパニックに陥っている者もおり移動するのは難しそうだった。
「マスター。何とかならないですか?」
「クソッ。魔法を使いたくても海の方までだと距離がありすぎる。もう少し近付かねば……。ほむらさんも一緒に攻撃を……!」
ほむらとゴッドファザーもこの状況には対応しきれないようだった。
(……あーぁ。せっかくの休息のつもりだったんだけど、こればかりは仕方ないな)
オレは右腕を一回転させながら周囲を見渡す。ちょうどリザさんの手にあるボールに目がいった。
「リザさん!そのボールオレに向けて投げてくれる?」
「え?こ、これ?こうでいいの?!」
リザさんがこっちに向けてボールを投げてくれる。
(スキルも魔法も使用していいビーチボールってことは、ある程度耐久性が高いってことだよな……)
オレは【覚醒者クエスト】開始までの時間がまだ8時間以上あることを確認し、同時にMP値の回復まで充分に時間があることを理解した。
リザさんが投げたボールが、オレに向けて宙を舞っている間にオレは口を開いた。
「スキル【マナコントロール】【剣聖ノ閃滅】【
桁違いのオーラがオレの周囲に纏われ、それを全て右手に集約させる。
そしてその状態で、リザさんからパスされたボールに向かってジャンプ……そしてサーブした!
ボールは韋駄天の如きスピードで海の方まで飛んでいき、破壊そのものを宿したかのような威力で海を真っ二つに割りながら突き進み "海獣王" に向けて一直線に飛んでいった。
グガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
迫ってくるボールに恐怖を感じたのか、巨大な叫び声をあげたが、その後直撃すると同時に "海獣王" の巨体を見事なまでに貫いた。
"海獣王"はそのまま海の中に沈んでいき、浮かび上がってくることはなかった。即死である。
ビーチボールで海を割り“海獣王"を貫くというあまりにも異次元な光景であったが、運良くそれを目にしたのはリザさんと、ゴッドファザーとほむらの3人だけだった。
「ほむらさん……彼は一体なんなんだ?!」
「あはは……だから言いましたよ、強いって……」
「強いなんて次元じゃないですよあれは……この世界は攻撃魔法職業が最強のはずなんだ……それをあんな芸当ができるなんて……彼は常軌を逸している!!」
自身が全プレイヤーで最強だと思っていたゴッドファザーにとって、この光景は随分とショックだったようだ。
「イザナくん……あなたは一体……何者なの?」
「ごめんなリザさん。ここでお別れだ」
あまり目立ちたくなかったオレは、未だにパニック状態である人混みに紛れ込み、砂浜を後にした。
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