第34話 覚醒者クエスト[覚醒者編]
"怪獣王"の騒動後、オレはMP値を回復させるために宿屋でゆっくりと休んでいた。
【覚醒者クエスト】は18時から6時の耐久戦ということで、徹夜になることが分かっていたのもあり併せて仮眠もとっておいたのだ。
——時刻が17:55となりました。【覚醒者クエスト】開始5分前となりましたので、専用ダンジョンへと移動します。
休んでいた部屋の中で眩しい光に包まれると、オレはそのまま【覚醒者クエスト】の専用ダンジョンへとワープした。
♢
ワープ後、急な暗闇で辺りが見えづらかったが、徐々に広い空間でお城のような内装になっていることが分かった。
床にも壁にも一面大理石が敷き詰められており、暗がりの中壁に灯されていた蝋燭の灯が不気味に揺れている。
「なんか魔神王の城より、魔神王の住処っぽい雰囲気だな」
ダンジョンの特有なのか、寒いと感じるくらい冷え切っているその空間で、準備運動のため身体を少し動かしてみる。
「うん、寒いけど身体は今のところ大丈夫そうだな」
身体を動かしながらもう一度今回の【覚醒者クエスト】の内容についておさらいしておこうと思う。
○【覚醒者クエスト】《限定クエスト》
→真なる覚醒者を目指し、己の全てを賭けよ。
※達成条件:18時〜6時までの12時間生存。
[注意事項]
①強力敵が留めなく襲いかかります。
②時間経過毎に敵の強さが増していきます。
③全てのアイテム使用は禁止されます。
④全てのスキルに再使用時間が適用されます。(再使用時間30分)
⑤ クエスト失敗の場合は全ステータスが1にリセットされます。HP全損時は命の保証はありません。
⑥【覚醒者クエスト】への挑戦は一度きりとなります。
⑦上記以外の事項も起こる可能性があります。
「とりあえず敵は強くなっていくけど、こっちはアイテムも使えないし、1つのスキルを再使用するのに30分もかかっちゃうってことだな……」
何度見返しても、まさしく理不尽の権化である。
でもやると決めた以上、クリアすることしか頭になかった。オレはゆっくりと深呼吸をしながら、静かに"その時"を待った。
——18:00定刻となりました。【覚醒者クエスト】を開始します。
システムから告知が出てすぐ、周囲に甲冑を着た騎士が複数同時に出現した。
「は?……なんだよこの数」
まさかのその数……ザッと50体。
しかもオレのレベルが40なのに対し、全員がレベル50を超えているという衝撃的事態だ。
「さすがに多すぎだろ……この状態でアイテムの使用禁止とか」
甲冑の騎士たちがオレの姿を捉え、一斉に襲いかかってきた。
幸いにも甲冑の騎士モンスターの攻撃パターンは単調だったため、よく見ていれば回避すること自体は難しくなかった。
オレは回避と同時に装備している【黒刀-星刃-】で攻撃をする。甲冑を着ていようが今のレベル差程度であれば、問題なくダメージを与えることができた。
ただ、攻撃をする際にどうしても隙ができてしまうため、別の甲冑が襲ってきた際に反応できるよう常に集中し続けながら動くのは至難の技だった。
(これ、思ってる以上に神経使うな……)
敵を倒して数が減っていけば、休憩を取りながら攻略できたかもしれないが、まさかの倒すと同時に新たな1体が生み出されるという鬼畜仕様だ。
うまくやりくりし続け、早くも30分が経過した頃、この状況に変化が生まれた。
オレを囲む甲冑の騎士50体に加え、黒いフードを被った魔法使いのモンスターが更に50体追加されたのである。
……そして黒フードの50体のレベルは60だった。
「敵の数は合計100体かよ……これはまじでやばいかもな」
言葉ではそう言ったが、心が躍るほど難易度の高い状況に久しぶりに巡り会えたことで、オレの口元は自然と笑っていた。
♢
——【覚醒者クエスト】開始から6時間が経過しました。
システムからそう告げられたこの時点で、オレの残りHP値は30%となっていた。
「……くっ……敵の数が多すぎるっ!!」
敵の数はついに600体にまで増え、この時にはさすがのオレも笑顔を見せる余裕は無くなっていた。
そして何よりも状況を悪くしていたのは、ダンジョン特有の冷気だ。この冷気が極度に激しくなっており[状態異常:凍結]を引き起こしていた。
○[状態異常:凍結]
→寒さにより動きが鈍る。AGI(素早さ)が−40%になる。
……素早さが下がるということは、回避力も下がるということだ。
このままでは、あまりにも戦いづらいため、やむなく状態異常とダメージを受ける前に戻すことができるスキル【
[状態異常:凍結]は解除され、HPは全回復したがここで思わぬことが起こることとなった。
——スキル【
非情にもシステムから告げられた現実は、心を蝕んだ。アイテムも使えない以上、回復する手段を完全に失ったことになる。
「スキルまで制限するのかよ?……さすがにやりすぎだろ」
ここから先は安易にダメージを負うわけにはいかない。少しでも休憩を取りながら戦闘を安定させるため、今度はスキル【
(……敵に気配を察知されなければ、きっと勝機はあるはずだ)
——スキル【
「……またかよ!!!」
このままではジリ貧になっていく一方だった。
疲労で頭は回らず、手の内が無くなっていく状況に焦りしかなかった。
(くそ。どうすれば……考えろ!考えろ!!)
(失敗したら……死ぬかもしれないんだぞ)
(強くなろうなんて思ったのが、間違いだった……)
(オレはあのままでも充分最強になれてただろ……)
絶望的な状況に長時間居続けたことで、オレの心は折れそうになっていた。
(……そもそも何でこんなクエスト受けようなんて思ったんだ?)
思い返してみても、パッとは出てこない。
疲れ果てたオレは、少しの間目を瞑った。
(もう……いいかな……これで終わりで)
周囲は大量のモンスターで溢れかえっているはずだが、まるで自分1人しかいないような感覚——それほどの静けさを体感していた。
そんな中ふと、懐かしい声がオレの頭の中で聞こえてきた。
——「今の私がイザナくんと一緒にいても足手まといになるだけだから。だからいつかイザナくんの隣に立てるように私も強くなるよ!」
(……かなで)
——「あのね、私ね……イザナくんのこと大好きなの!」
(……かなで!)
「そうだ。オレが強くなろうって思ったのは……」
——かなで。キミがいてくれるから。
最初はただ "最強" であればいいって思っていた。でもいつの間にか、オレの中でかなでの存在が大きくなっていたことに気が付いた。
「かなでがオレの隣に立てるほど強くなるっていうなら……その隣でもっと強くなったオレが、かなでを護れるようにならないと……だろ!!!」
閉じていた瞳を開き、大きく2回深呼吸をする。
(かなで……オレもオマエのことが大好きだよ)
オレは折れかけていた気持ちを再び鼓舞し、無尽蔵に増え続ける最恐の敵たちに向かっていった。
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