告白編

第31話 ギルド実装と各々の道[告白編]

 オレはみんなの元に合流し、一緒に第3階層へ向かった。


 第3階層【盟約の都市アルカナ】はNPCたちの人通りもかなり多く、商業で活気に溢れ1日中賑わっているような街だ。



 ただ【盟約の都市アルカナ】に到着するなり、他のプレイヤーたちが一目散にとある建物へと駆けていく姿がたくさん目に映った。



 ……なるほどな。ギルド機能の実装か。



 "ギルド" とは、もはや知らない人は少ないと思うが、攻略を進めていく中で集まる組織の1つだ。

 パーティーより大規模で長期的に活動する団体で、同じ志を共にする者同士で集まることが多い。


 そして、ギルド同士で対戦するイベント……いわゆる "ギルド戦" というコンテンツもあり、それは非常に盛況な盛り上がりを見せるイベントの1つだった。



 みんなどうするつもりなんだろう……と考えていると、タケルが急にパーティーメンバーに向けて話を始めた。



「実は、みんなに話しておきたいことがあるんだないことがあるんだ。」



 みんなが注目する中、タケルは少し間を置いてから、続けて話を始めた。



「第3階層に来て、ギルド機能が実装された。本当はみんなとこのままパーティーも組んで行きたかったんだけど……第2階層の時点で既に募集者を集めているギルドがあって、そのギルドのβテスターたちからうちに来ないかって誘われたんだ。だから、そこに加入しようと思う。」


 βテスターたちが主導になって創るギルドは、以前にも存在しており最強ギルドの一角を担っていたのだった。


 ギルドの名前は【Beater'sピーターズ】だ。タケルが誘われたのは恐らくここに間違いないだろう。



「そうなんだ……。タケルくん行っちゃうんだね。」


 かなでが少し寂しそうに答える。


 少し気まずい雰囲気が流れる中、今度はほむらが話し始めた。



「実は、私も行きたいところがあるの。このゲームを始める前に掲示板で見つけてたところで、私自身の目的のために行かなきゃって思ってるの。」



 どうやら、ほむらには何か目的があるようだった。詳細は話してくれそうになかった。


「そんな……ほむらちゃんまで。」


 かなではますます悲しそうな表情を見せていた。


「いやあ、まさかみんなもそう考えてたなんて驚きっすよ。」


 今度は気まずくなる前に、ルイが話し始める。


「実は僕、ギルドを創ろうと思ってるんっす。初めてパーティー組んだ時に、タケルくんに声かけられたの嬉しかったんっすよね。だから僕はタケルくんみたいになれるように、ギルドマスターになるんっす!」



 そう語るルイの目は輝きに満ちていた。

 もう随分前から心に決めていたのだろう。



「そうなんだな。オレは特に決めてないから、しばらくソロで活動すると思うけど。かなでは?」


 かなではかなり落ち込んでいる様子で


「私も決まってないよ……。」


 とだけ答えた。



「じゃあ、みんなしばらくお別れだな。今までパーティーリーダーの俺についてきてくれてありがとう。進む道は違っても、またパーティー組んでみんなで遊ぼうな。」


 タケルの声かけにみんなが頷き、そこからオレとかなで以外は別れて行ってしまった。



「さてと……どうしようかな。」



 かなでの方を振り返ると、頬に涙がこぼれ落ちるのが目に入った。


「かなで?!」


「う、ううんごめんね。なんか……私ずっとみんなと一緒にいれるって思ってたからかな。あはは……なんでみんな離れちゃうんだろ……ぐすっ……。」


 オレはかなでの涙を拭いながら、


「大丈夫。完全にお別れってわけじゃないし、きっとまたすぐに出会えるはずだから。」と伝えた。


「うん……。そうだよね。」


 しばらくの間涙が溢れていたが、オレの言葉を聞いて、少しずつ落ち着きを取り戻した様子だった。



「あのさ、かなでさえよければオレと一緒に来るか?」


 個人的にはどんどん攻略していきたいという気持ちもあったが、今のかなでを放っておくことはできなかった。


 きっとかなでは "行く" と答えると思っていたが、その答えは予想とは逆だった。


「ううん、今の私がイザナくんと一緒にいても足手まといになるだけだから。だからいつかイザナくんの隣に立てるように私も強くなるよ!」


 かなでにも新しい決意ができたらしく、その固さは表情からも読み取れた。



「分かった。じゃあ……ここでお別れだな。何かあったらいつでも呼んでいいからな。」



 最後に "元気でな" と告げ、オレはかなでと別れた。




「待って!イザナくん!!」



 そのまま去ろうとするオレの背後から、かなでの声がし、振り返ると同時に真っ直ぐ走ってきたかなでは、そのまま "ギュッ!"と抱きしめてきた。



「あのね、私ね……イザナくんのこと大好きなの。」




 かなでの突然の告白に、柄にもなく顔に喜びが出てしまった。


 抱きしめているため、その表情までは見えなかったが、耳まで真っ赤にして一生懸命に伝えてくれているのは分かった。


 ただ、オレが告白の返事をしようとする前に、かなでが続け様に話し始めた。



「返事は、今欲しいわけじゃないの。私が強くなって、また次にイザナくんに会えた時に……その時にもらえたら嬉しいかな。」



 オレの返事は当然 "YES" なのだが、かなでが今を望まないのであれば……と、ここでは返事の代わりに "ギュッ"と抱きしめ返しておいた。



「ありがとう、イザナくん。」



 かなではそれだけ言うと、オレから離れてとびっきりの笑顔を見せた。



 オレはこの時のかなでの笑顔を、一生忘れないだろうと思った。それくらい尊く、可愛いと心の底から感じるものだったのだ。




 今度こそオレたちは別れ、別々の道に進んでいった。




 きっとまた出会い、共にパーティーを組む日を心待ちにしながら。


 かなでへの返事を、オレ自身の気持ちをきちんと告白できる日を夢見ながら……。

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