7月(2021年) 新書類②
⑤牧野愛博『金正恩と金与正』(文藝春秋、2021)
興味本位で読んだ本です。ただ、北朝鮮という国がどんなものか、少しわかった気がします。
印象的だったのは、現在の北朝鮮は、金正恩氏による単純な独裁政権ではないということ。作者の牧野氏は、金正恩にはそれだけの力もカリスマ性もないと言い切っておられます。同時に、金正恩氏の取り巻きの、政権への影響力も増しているとか。相対的に、というところでしょうね。
これ、ある意味では厄介なことだとも思えます。何故かというと、単純な独裁政権なら、その独裁者との対話(実現すれば、ですが)のみによって問題解決(拉致問題や核問題など)に導くことができるかもしれない。しかし、かつてに比して、独裁者の力に制限がかかっているなら、事はそう単純ではないということです。もちろん、独裁政権がいいというわけでは断じてないですが。
近くて遠い国の現実を見るには、うってつけな本でした。
⑥仁藤敦史『藤原仲麻呂』(中央公論新社、2021)
藤原氏です。ただし、奈良時代の、ですが。
藤原氏の祖は、大化の改新で活躍した
仲麻呂は、四兄弟のうちの武智麻呂の子にあたり、兄の
従来の理解では、あるいは上の文を一読する限りでは、仲麻呂は王朝に対して反逆を起こしたという風に見えますが、実際はそう単純ではありません。状況から見るとむしろ孝謙天皇(上皇)側の方が……と思います。詳細は本書でどうぞ。
⑦一ノ瀬俊也『東條英機 「独裁者」を演じた男』(文藝春秋、2020)
東條はかなり有名な人物ですよね。先月の近衛文麿と同じくらいの知名度はあるでしょう。戦後において、戦争責任をほぼその身におしつけられた人物といっても過言ではないと思います。
では実際どうだったかという疑問から、図書館のOPACで貸し出し中の文字が消えた瞬間に借りに行ったのが本書です。
まもなく8月15日が来ますが、きっと今年も戦争に関するテレビ番組が報道されることと思います。多分一度は東條の映像も出ると思いますが、同書を読んで思ったのは、当然のことながら、戦争責任はただ一人に負わせられるものではないこと、そして、とはいえ、東條の戦争責任は回避されるものではないということ、です。さすがにここで、批判をしようとは思えません。仮に現在の国民、政府をそのままあの時代に移して戦時に対応しろと言われたら、多分あまり変化はないとおもうので。それに、「戦争責任を持つ東條」というのは、彼の一側面に過ぎないからです。
76年目の終戦を前に、当時の社会に思いを馳せる事ができたような、そうでもないような、不思議な気持ちです。やや分厚いですが、戦争に至った経緯について、振り返るのもよいでしょう。
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