7月(2021年) 新書類

 今月は結構読んだ本が多いので(近況ノートで報告したとおり、書く方をお休みしていたのもあって)、項目を分けたいと思います。


①『藤原彰子』 人物叢書  服部早苗 (吉川弘文館、2019)

 名前は聞いたことがあるでしょう。あの藤原道長の娘で、一条天皇に嫁ぎ、二人の子(後一条天皇、後朱雀天皇)を産んだ、藤原氏摂関政治の全盛の立役者です。あの紫式部が仕えた女性でもあります。

 ただ意外と知られていないのは、。それから、一条天皇から三条天皇を経て、後一条、後朱雀ごすざく後冷泉ごれいぜい、後三条、白河と皇位が移っていきますが、その時代にあって、とても重要な存在であり続けたこと、です。


 ただ、長生きということは、それだけ周りの人間に先立たれるという事。

 彰子は988年に産まれ、1074年に亡くなりましたが、親族だけでも次のような人々が亡くなっています。


 父道長(1028)、母倫子(1053)。義母(異母弟妹の母)明子(1049)。

 同母妹の子(1025)、けん子(1027)、子(1036)。

 異母妹のかん子(1025)。

 同母弟の頼通(1074)。

 異母弟の顕信(1027)、長家(1064)、能信よしのぶ(1065)、頼宗よりむね(1065)、長信(道長と源重光女の子:1072)。

 夫、一条天皇(1011)。

 子ども、後一条天皇(1036)、後朱雀天皇(1045)。

 孫、後冷泉天皇(1045)、後三条天皇(1072)。


 おおむね自らより早く亡くなる父母や義母、先立たれたとはいえこちらも長命だった弟頼通はともかく、とくに三人の同母妹の死は相当つらかったのではないかと思います。しかし、70歳が「古来稀」と呼ばれる時代にあって、90歳目前の87歳まで生きたというのは、数値だけ見れば幸せだったといえるかもしれませんね。



冲方うぶかたとう「はなとゆめ」(角川、2017)

 なんと、こちら小説です。現在私の中での小説文化は断絶しています(「私の読書文化史」参照)が、高校までに買った作品は当然残っています。その中から、久しぶりに読んだのがこちらでした。上の、藤原彰子の伝記に続いて、平安時代の話が見たかったところがあります。


 清少納言を主人公として、宮中での生活を描く伝記的な作品です。中宮定子との機知にとんだやりとりを中心としていますが、一方、中関白なかのかんぱく家と弟道長の家(御堂みどう流)の政争が背景にもあります。

 記憶では、高校時代に山形の母の故郷で買ったようなそんな気がしますが、こんな素晴らしい小説を入手した当時の自分をほめてやりたいです。当時は日本文学を専攻して大学に通うとは思っていなかったわけですが、未来の自分のために買ったと思ってもおかしくないくらいです。ただ、当時の自分にこの話が理解できていたのかははなはだ疑問ではありますが。


 作者は『天地明察』で有名な冲方丁さんです。そちらの方は未読ですが、この話は、まるで清少納言が書いたかのようなリアリティがあって、とても好きです。

 以上、今となっては貴重な小説紹介でした。



③熊本史雄 『幣原喜重郎 国際協調の外政家から占領期の首相へ』

                          (中央公論新社、2021)

 幣原しではら喜重郎は、戦前は外務大臣として、戦後は総理大臣として名をあげた人物です。知名度は、どうなんでしょう。高校の日本史で「協調外交」というワードとあわせてしばしば登場するので高い方でしょうか。先月の源通親よりはあるはずです。

 個人的には、戦後の活動の方が読んでいて面白かったですね。幣原が総理大臣になったタイミングは、終戦を決断した鈴木貫太郎内閣→戦後初、そして史上初の皇族内閣である東久邇宮ひがしくにのみや稔彦なるひこ内閣に次ぐ時期です。つまり、戦後処理であったり、新憲法の作成であったりに、大きな努力をした人だったのです。戦前の歴史に興味のある人は読むべきでしょうね。


④目崎徳衛『史伝 後鳥羽院』(吉川弘文館、2001)

 卒論関連で読んだものです。詳細は省きますが、後鳥羽院の伝記としてはまずあたるべきものです。


ここで一旦、部を分けます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る