7月(2021年) 新書類③

⑧元木泰雄『藤原忠実』 人物叢書 (吉川弘文館、2000) 

 仲麻呂(⑥)は南家の人物ですが、こちらは藤原北家の人物です。道長の玄孫、頼通のひ孫で、上旬に読んだ彰子(①)同様、長生きな人物でした(1078~1162)。摂関政治から院政へと政治の力点が移り変わっていく過渡期に生きた人物で、謹慎きんしんを命じられたり、第一線で活躍したり、子どもたちの争いに油を注いだり、と波瀾万丈の人生を送った人物です。


 遠い昔、松山ケンイチさん主演で「平清盛」が大河ドラマになったときには、國村隼くにむらじゅんさんが演じていました。脇役ではあるものの、保元の乱後、戦いの傷がもとで死んだ息子、頼長よりながとの別れとその後のシーンはとても印象的だったのを覚えています。YouTubeで「藤原忠実 我が子よ」と検索するとそのシーンが見れます。

 

⑨高杉洋平『昭和陸軍と政治』 (吉川弘文館、2020)

 一つ前の『東條英機』に関連する本として読んだものです。戦前まで天皇の権利だった「統帥とうすい権」がキーワードとなっています。同時に、高校の日本史選択者にはおなじみの「軍部大臣ぐんぶだいじん現役武官げんえきぶかん制」もキーワードです。軍部大臣現役武官制とは、陸・海軍大臣に就ける者を「現役の大将・中将に限る」という制度でした。つまり、例えば退役したのちに政党に入った人などは大臣になれないというもので、仮に軍隊の側から現役の大臣を出さないという策がとられた場合、内閣が倒れる、あるいは作れないということになります。テストにも入試にも出ますね、このあたりは。シビリアンコントロールの不徹底としてもやり玉に挙げられます。


 「統帥権」についても同様で、軍隊の統帥権は天皇にあるのだから政治が介入するのはおかしいという主張がしばしば唱えられていました。そういった経緯から、統帥権は軍部の暴走を許すものとしてクローズアップされてきました。が、これに対し違った切り口で述べたのがこの本です。統帥権は政治側の軍部への介入のみならず、にもなっていたとか。

 その分野の専門家からすれば新説ではないのかもしれませんが、とても新鮮に読めました。


⑩岡崎守恭『遊王 徳川家斉』 (文藝春秋、2020)

 急に江戸時代です。徳川家斉とくがわいえなりは11代将軍、子女が五十人いたということで有名です。当時は正室、側室制がとられていたとはいえ、この数字は多い方でしょう。そんなこともあって「種馬公方」とか「オットセイ将軍」とか言われた人物です。理由は想像に任せます。はい。


 50年という長い間将軍の座にあり、将軍を子の家慶いえよしに譲った後も大御所として実権を握り続けました。これは室町幕府、鎌倉幕府を含めても最長です。非常に豪奢ごうしゃな政治が展開され、曾祖父徳川吉宗がなんとか節約して貯めた財政を破綻はたんさせたとして批判的にみられることが多いです。ただしその一方で、江戸時代らしい文化を最後に開いた人物とみることもできます。功罪併せ持つ、というかそもそも知名度がそんなにない人物ではあるものの、エピソードが尽きない、そんな人物でした。


 ちなみに、松平定信の寛政の改革は家斉の時代の初期に、天保の改革を行った水野忠邦は家斉の時代に出世しました。化政(文化・文政)文化が栄えたのも家斉の時代です。習わないだけで、中学までに習ったであろう事項も、実は家斉の時代だったりします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る