9月(2021年) 新書類②
⑦服部龍二『広田弘毅』(中公新書、2008)
広田弘毅は戦前の外交官で、のちに首相になった人物です。この内閣のときに軍部大臣現役武官制を復活させ、日独防共協定を締結するなど戦争へ至る階段を何段か上った印象。別の枠で総理大臣を概観するキャンペーンをやっているので、そちらで詳述します。
広田や近衛文麿には、ポピュリズムという言葉がついてまわっています。著者の服部さんは、大衆が熱中しているときほど政治家はそれに流されず、冷静にならなければならないとしています。これは現代の政治家にも通じるとことかなあと思います。
なお、広田は文官として唯一東京裁判で死刑となりました。この手続きについても疑問が残るところではあります。
⑧犯罪被害者支援弁護士フォーラム『死刑賛成弁護士』(文春新書、2020)
今まで読んだことのない分野の本ということもあって、かなり勉強になりました。一つ紹介するなら、「一人を殺害した犯罪者は死刑にならない」という考えは一見普通の考えのように見えます。世間でもなかなかそれは違うという意見は出てこないと思います。しかし、よく考えるとこれはおかしいことです。「一人の犯罪者の命=複数の被害者の命」ということになりますから。「命は大事、だから死刑」という一見矛盾した言葉が、その実一つの真理を示しているのがわかります。もちろん、だからといってすべての殺人事件において死刑を実行するのはおろかだとは思いますが。
⑨小池進『徳川忠長』(吉川弘文館、2021)
徳川家光の弟忠長についての本です。母は家光と同じく浅井長政の娘お江で、小さなころから聡明と言われ、兄を飛び越えての将軍就任の可能性や、兄への抵抗勢力としての存在感を示していました。この点は、未だ戦国の気風が抜けきれていない江戸時代初期の社会と密接にかかわっています。
⑩宇田川幸大『考証 東京裁判』(吉川弘文館、2018)
日本では東京裁判を批判する意識がかなり低いような気がします。もう少し考えてもいいと思う。そう思って読みました。やっぱり問題点が多いようです。一つ挙げるなら、この裁判ではアジア地域の人々、言い換えれば有色人種への配慮がかなり欠けています。南京事件については取り上げられたものの、他の地域や当時日本の植民地だった朝鮮などに対しては特に言及がないようです。
時間的・費用的な制約もあったのかもしれませんが、大戦の総決算というにはほど遠い、そう言えると思います。
⑪福沢諭吉 齋藤孝『13歳からの「学問のすすめ」』(筑摩書房、2017)
今月最後は『学問のすすめ』を中学生でも読めるように訳したこの本になりました。「人との交わりを断つな」、「ただ衣食住に終わるだけなら、人間はただ生きて死ぬだけだ」、「天は人の上に人を作らず、生まれた時は皆平等だ。しかし、その後は学問をするか否かで差が生まれてくる」。諭吉の先見の明と話の運び方のうまさにはとても驚かされます。お札になるだけあると思います。
ということで、今回のベストオブ新書は、⑪です。今度は原文も読んでみようかなあなんて思います。
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