3-7.エンディング/Happy Nightmare after The Dream

――ルジェは鳥籠の前へと歩み寄り、屈んで中にいる少女と目を合わせる。


「おねえさんたち……だぁれ?」


安堵と、興奮と、憧れ。そんな眼差しを受けながら、あのとき自分を助けてくれた冒険者たちもこんな気持ちだったのだろうかと、そんなことを思う。


あのとき、あの人たちはなんと言ったのだったか。


「私たちは冒険者デスよ。キミを助けに来マシタ」


「ぼうけんしゃ……」


手を伸ばせば鳥籠が砕け散り、キラキラとした綺麗な光の粒子となって降り注ぐ。その光が、ルジェと幼いルジェを舞台のスポットライトのように照らし出す。


これは少しお姫様願望が強すぎるのではないかと、心の中で苦笑する。


「さぁ、もう大丈夫デス。もうあなたを傷つける者は、ここにはいマセン。ここから出マショウ」


「うん……っ」


幼い自分を抱きしめながら、ルジェの頬に一筋の涙が伝った。



GM さて、あとは漆黒の結晶体、「奈落の核」を破壊すれば魔域も消え去るね。


リーゼ せっかくですし、ルジェが壊します?


サイネ それがいい……間違いない。


ユイ うんうん。


ルジェ ありがとうございマス。では、手に持ったヘビーメイスを構えて、魔力を込めて「奈落の核」を見据えます。「ずいぶんと、悪趣味ではありマシタが……感謝もしていマス。懐かしい人に会えマシタ。心の傷に決着をつけることができマシタ。これは決意を新たにした私の、想いを乗せた一撃デス!」


GM ルジェの想いと魔力が込められたヘビーメイスが、「奈落の核」を打ち砕く。それと同時に周囲の景色が崩れていく。だがそれは決して不吉なものではなく、むしろ煌めく粉雪のように幻想的な光景を描き出す。



――夢のようにほどけていく魔域。やがてルジェの側にいる小さなルジェも、その姿を薄れさせていく。


「おねえさん、わたしもぼうけんしゃになれますか?」


幼い自分の口から出た言葉を聞き、驚く。あのときの自分は、何も言い出すことができず、ただ成り行きに身を任せるだけだったから。


「はい。なれマスよ。最高の仲間たちと出会い、素敵な冒険をたくさんすることになりマス」


ルジェの言葉を聞き、その場にいた者たちは笑う。魔神使いの少女はニコニコと、尊大な妖精使いは帽子で顔を隠し、金髪のお嬢様は「ふふん」とでも言いたげに、若きメリアの少女は頬を紅潮させて。


そして、幼いルジェは満開の花のような笑顔を浮かべて「ありがとう!」と言って消えていった。



GM 魔域が完全に消え去ったとき、そこにあったのは清浄な空気が満ちる遺跡と、キミたちと、そしてエルフの少女――アーシャの姿だった。


ルジェ なっ!?


リーゼ  え、え? どういうことですの? アーシャさんは、魔域が生み出した幻影だったのではなくて!?


GM 驚くキミたちにアーシャは変わらない笑顔を浮かべて話しかけてくる。「ありがとう、ルジェ、みなさん! うふふっ!」


サイネ これは……もしやアーシャが黒幕のパターン……?


GM あ、そうではない(笑)。ちょっと演出が悪かったかな。そのアーシャはよく視ると半透明で、足がない。いわゆる幽霊だね。


GM/アーシャ 「びっくしたわ。あの日からずっとお化けになって、この遺跡をさまよっていたんだけど、いきなり遺跡が魔域になっちゃって、どうしようって。だからルジェたちが来てくれて本当に助かったのよ! うふふっ!」


ユイ サラッと重たい設定を入れてくるねー。つまりあの魔域はルジェだけでなく、アーシャの内面を読み取ったものでもあったってことかなー?


GM そういうこと。なんで寒冷地じゃないのにアイスマンがいるんだ、とかがいい例だけど、ルジェが見たこともない存在がいたのはアーシャの影響によるところが大きい。


ルジェ そう言えば冒頭で、肝試しの怪奇スポットになっていたという謎情報もありマシタね……。では、驚きに目を見開きながら、「アーシャ……」と躊躇いがちに声をかけマス。


GM/アーシャ 「ルジェったらどうしたの? そんな変な顔をして」


ルジェ 「あなたは……あなたは、ずっとここにいたのデスか……あの日から、こんな場所で……」


GM/アーシャ 「うふふっ、そうよ! 時折遊びにくる子たちをビックリさせながら、ずっと待っていたの。ルジェが来るのを!」


ルジェ 「私を……待っていた……?」


GM/アーシャ 「あなたはとても優しい子だから、きっと私が死んだのは自分のせいだって、そう考えていると思って、それは違うのよって言いたかったの!」


ルジェ 「それは、デスが……私の失敗を庇ってアーシャが死んだのは事実で……」


GM/アーシャ 「私はね、あのとき、もう長くなかったの。悪い病気のせいで、いつ死んでもおかしくなかった。だから毎日毎日、ずっと痛くて苦しかったの」


ルジェ「なっ……」


GM/アーシャ 「もう嫌だ、楽になりたい、そう思って……だから、ルジェを庇ったあと、必要以上に蛮族たちを挑発して、私を殺すように仕向けた。楽になりたくて、でも自分で死ぬ勇気がなかったから」


ルジェ 「……では、あのときアーシャが笑っていたのは……」


GM/アーシャ 「うふふっ。これで死ねるって、安心してうれしくて、それで笑っていたの。ごめんなさいね、ルジェ。私は自分のことしか考えていない、とっても悪い子だったの」


ルジェ 「違いマス! アーシャは、アーシャはいつだって私を、私たちを支えてくれマシタ……いつも笑顔で、疲れも、見せなくて……っ。では、まさか、ずっとそんな苦しみの中で……?」


GM その言葉には答えず、アーシャはルジェを優しく抱きしめる。


GM/アーシャ 「だからね、ルジェが気にする必要はないわ! あなたはもう私たちに縛られなくていいの! それをずっと伝えたくて、この場所に留まっていたの。いつかあなたが、自分の心と向き合うことができて、この遺跡を訪れてくれるその日まで待とうって」


ルジェ それは、涙腺が持ちマセンね……こみ上げてくる感情のままに大声で泣いてしまいマス。


GM/アーシャ 「うふふっ! ルジェは相変わらず泣き虫なのね。でも、泣くってとっても大事なことだから。それは私ができなかったことだから。うんと泣いて、気持ちをすっきりさせたら、また明日に向かって歩いてちょうだい!」


GM そう言ってから、アーシャはほかの4人のほうへと顔を向ける。


GM/アーシャ 「みなさん、改めてありがとう! ルジェのこと、これからもよろしくお願いね?」


ユイ 「もちろんだよ~」


サイネ 「ルジェは……とても強い。私たちの冒険に必要な存在……」


リーゼ 「わたくしがアーシャさんのぶんまで、しっかりとルジェを支えますわ! ですから、どうか安らかに眠ってくださいませ」


GM その言葉を聞いて安心したように微笑むと、アーシャの身体がふわりと浮き上がる。


GM/アーシャ 「あなたたちの冒険は、とっても大変で、辛いことや悲しいこともあると思う。でも、きっと素敵なこともたくさんあるわ! だから、どんな困難があっても諦めないでちょうだい! うふふっ!」


ルジェ では、そんなアーシャは見上げながら涙を拭いて、「ありがとうございマス、アーシャ。私はもう惑いマセン。仲間たちとともに、前を向いて歩いていきマス」


GM その言葉に、いっそう嬉しそうな笑顔を浮かべたあと、アーシャはその姿を消した。そしてそれと同時に、優しい風がキミたちの頬を撫でていった。


ユイ 今回も無事にバッドエンドを回避できたね~。


リーゼ もし途中でアーシャを囮にしていたらどうなっていましたの?


GM かつてアーシャが死んだ場面の再現だね。ルジェを庇って目の前で蛮族たちにズタボロにされて、血まみれになりながらも笑顔で送り出す感じ。この場合、エンディングではアーシャは登場しない。で、遺跡から帰ったら受付嬢さんに「そう言えばエルフの幽霊が出るという噂がありましたね」って言われて、あのアーシャが幻影じゃなくてずっとルジェを待っていたことを知る、みたいな。


サイネ うわぁ……。


ルジェ それは、メンタルが死んでいマシタね……。


リーゼ GM、そういうところですわよ!


GM まあまあ、無事にハッピーエンドだったし、いいじゃない!――というところで、セッション終了! おつかれさまー!


一同 おつかれさまでしたー!

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ソードワールド2.5リプレイ『スイートピーは冒険者の夢を見る』 依虚ロゼ @ezoraroze

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