2-3.短命種であるがゆえの想い
GM そう言えば、ユニット名って決めてたりする?
ユイ んー、いくつか候補はあるけど、もしかしてなにか命名してくれたりー?
GM フラワリングスターズとかどうかなって。
ユイ ほほう、その心はー?
GM 分解するとフラワー、リング、スターズ。ユイっていう花を中心に輪が広がって、その花の輪が星のように煌めいて人々を魅了する……みたいな。
ユイ それ、言ってて恥ずかしくならない?(笑)
GM ぐぬぬ……。
ユイ うそうそ、いいと思うよ~。せっかくだし、それもらっちゃおうかなー。
GM 一応ググッて同名の何かが出ないようにとか、そこも意識したつもり。
ユイ あー、わかる。意外とこういうのって、パッと思いついたのが既存の作品で使われてたりするよね~。
GM あとほら、これならユニットの人数が増減しても名前を変えずに済むし。
ユイ たしかに(笑)
そんなこんなで迎えた路上ライブ当日。「ユイと愉快な一行」あらため「フラワリングスターズ」は、スイートピーの父であるサザンの伝手で衣装を用意してもらい、駅前大広場でライブを行なった。
スイートピーは幼いがゆえの愛嬌を前面に押し出すことで拙さを誤魔化しつつ、バードの技能を生かして軽快なリズムの豊かな音を披露。
リアンは経験こそ浅いものの、持ち前のセンスと才能を生かしてなんとかユイの動きにあわせつつ、伸びやかな歌声で聴く者を魅了。
声量という弱点を克服したユイはセンターに立ってほかのふたりをリードしつつ、類まれな容姿と完璧に計算し尽くされた可憐な仕草で、多くの人々を惹きつけた。
そう、まさに路上ライブは大成功を収めたのだった――。
ちなみに、歌詞はさまざまな方面に配慮して載せていません、あしからず。
GM やー、おめでとう! 拍手喝采、ガメルにして1000ガメルのおひねりが手に入ったよ。
ユイ けっこうもらえたね~。
GM 軽食が3ガメルとかの世界だから、数百人を魅了できれば1000ガメルくらいはいくかなって。
ユイ お金持ちの人の目にとまったのかもしれないしね~。もしかして毎シナリオ開始時に路上ライブをやったら1000ガメルが追加で手に入る……?
GM すぐそういう発想をするのよくない!
ユイ あはは。ともあれリアンは喜んでそうかな?
GM あ、それなんだけどね、当然そんな素晴らしいパフォーマンスをしたからには握手を求めてくる人とか、応援してくれる人とか、それなりにいるわけですよ。
ユイ そうだね~。満面の笑顔で握手するよー。ハグにも応じちゃう。
GM スイートピーはすごく嬉しそうだけど、リアンは何かを思い悩むような表情をしている。
ユイ んん? それは気になって話しかけに行くよー。あ、もちろんスイートピーちゃんを伴うよー。ひとりにはしない。
GM まさか僕がひとりになったスイートピーが攫われるような展開をするとでも?
ユイ 前科何犯だっけー?
GM え、なに。聞こえない。
ちなみに、スイートピーが攫われて、スイートピーとリアンのどちらを優先するかユイに迫る……という展開も考えていたのだが、シナリオでやりたいことの主題から外れると考えてカットしたのはここだけの話である。
ユイ 「リアンちゃん、どうしたのー?」
GM 話しかけられると、リアンはハッとした表情になって、なにかを取り繕うかのように慌てた様子になるね。
ユイ じゃあギュッと手を握るよー。
GM おー、いいね。そうするとリアンは「ぁ……」と小さく声を漏らして、呆然とした表情になる。
リアン 「その、えっと……ユイさんは、どうしてアイドルを目指しているんですか?」
ユイ お、ここでそれを聞いてくるのかー。そうだね~。せっかくのソロシだし、明かしてもいいかな~。
GM じつはけっこう気になってた(笑)
ユイ 「アタシ、幸運の花として権力者に愛でられてたんだよね~。実際、アタシを所持した人たちはすごく幸運に恵まれて、栄えた。でも、ほら、アタシって短命種だし。こんな狭いところで終わりたくないって思って、飛び出して、そして出会った」
リアン 「出会った……?」
ユイ 「最高峰の冒険者にしてアイドル。そう、まさにトップ・オブ・アイドルと呼ぶべき人に出会ったんだよ~」
なんだそれは。
ユイ 「それからアイドルについて勉強して、アイドルが人に幸せを与える存在だって知って。それって幸運の花であるアタシの天職だよねって思って、決意が固まった。誰かひとりのためじゃない、たくさんの人たちを幸運にできるなら、それがアタシの生まれてきた意味なんじゃないかって……そう思ったんだよね~」
GM トップ・オブ・アイドルはともかく、ほかはすごくまともな理由だった。
ユイ すぐに死んでしまう短命種だからこそ、何か生きた証を残したい……っていう思いも無意識下にはあるけど、それは自覚していない感じかな~。で、その話を聞いたリアンの様子はどうー?
GM リアンはその言葉を聞くと完全に押し黙ってしまうね。で、まぁユイはリアンに詳しく話を聞こうとするかもしれないけど、そこで話しかけてくる人物がいる。
ユイ その言い方だと知り合いじゃなさそうかなー?
GM 仕立てのいい服を着たやり手っぽい印象を受ける男性だね。まぁぶっちゃけスカウトに来たプロデューサーなんだけど。
ユイ Pキター!
GM 名刺を取り出してユイに渡したあと、「いやぁ、素晴らしいライブでした! どうでしょう、3人ともぜひウチの事務所に所属してもらえませんか!」
ユイ でもこれ、所属したらそこでユイの冒険は終わりましたってならない?
GM ぶっちゃけその通りというか、大事なアイドルに冒険者をさせるなんてとんでもないっていうのが普通だと思うよ?
ユイ だよね~。だからもし本当に事務所に所属するなら、冒険先での活動をプロデュースに組みこむとか、そういうことができる事務所じゃないとダメなんだよね~。
GM どこかしらにはそういうすごい事務所があるのかもしれないけど、じゃあそんな事務所が今のユイに声をかけるかっていうとそんなことはないだろうしねぇ。
ユイ 冒険者として名を挙げてセルフプロデュースするのが一番いいんだよね~。けどリアンはそんなことする必要ないし、これで事務所に所属してハッピーエンド。
GM っていうシナリオを作ると思う?
ユイ もちろん思わないよ~。でも裏取りもしてないし、キャラ的には「やったね~、リアン! 事務所から声がかかったよー。これでアイドルになれるねー!」って、祝福するかなー。
GM リアンはその言葉を聞くと、「……少し、考えさせてください」って暗い面持ちでつぶやいたあと、その場から立ち去る。
ユイ じゃあそこで初めて「リアンちゃん……? どうして……」と、困惑の表情になるかなー。
GM Pは突然の愁嘆場にオロオロしているね。
ユイ ここはいったん帰ってもらおうかなー。「お話ありがとー! すっごく嬉しいけど、今日はちょっと時間がないから、明日またお話するってことでいいー?」
GM そう言われると「わ、わかりました……いい返事を期待しています!」って言ってPもその場を去る。名刺はもらってるからいつでも会いに行ける状態だね。
ユイ スィーちゃんはどうしてるー?
GM 戸惑っているかな。「リアンお姉ちゃん……どうしたんだろう……?」って感じ。「わたしはすっごく楽しかったけど、リアンお姉ちゃん、楽しくなかったのかな……?」と、少し悲しげに言葉を続ける。
ユイ そこで初めて、そう言えばリアンちゃんのことを何も知らないなーって気づく感じ。自分の“やりたい”を優先しすぎて周りが見えていなかったことを理解して、衝撃を受ける。
GM いいねぇ。
ユイ 「楽しく、なかったのかな……」って、ユイにしては珍しく落ちこんだ様子でその場に立ちつくしちゃうかな~。頭のなかがグルグルして、スィーちゃんと一緒に宿屋に帰ろうとするよー。
GM ふむ。じゃあそんなユイに、スイートピーからこう声をかけよう。
スイートピー 「でもトレーニングのときのリアンお姉ちゃん笑ってたし、今は楽しくなくてもまたいつか楽しいって思える日が来るよね!」
“また、いつか”。その言葉を聞いたユイはハッとする。
自分たちは短命種であり、“また今度”や“いつかまた”なんて思っている時間はない。今こうして立っているだけで、命の砂時計は砂を落とし続けているのだ。
理解していたはずのその事実を、忘れかけていたことに思い至って、ユイは力強く顔を上げる。
落ちこんでいる時間などない。立ち止まっているヒマなどない。迷っているだけ人生がもったいない――。
「ありがとう、スィーちゃん」
「ふぇ? どうしたの、ユイお姉ちゃん」
きょとん、としたスイートピーと目線を合わせて、ユイは口を開く。
「あのね、スィーちゃん。アタシたちは、“また今度”とか“いつかまた”って考えちゃダメなんだよー」
「そう……なの?」
「うん。今やりたいと思ったこと、やらなきゃいけないと思ったことに向かって、進まなきゃいけないの。それで、ねぇ、スィーちゃんは今、なにがしたいー?」
「わたしは……、わたし、リアンお姉ちゃんを追いかけたい! どうして楽しくなかったのって、聞きたい!」
スイートピーの言葉を聞いて、ユイは力強い笑顔を浮かべる。
「うん、アタシもだよー。一緒に行こう、スィーちゃん」
GM ほいほい。じゃあリアンを追いかける、でオーケー?
ユイ もちろん。いやー、それにしてもいい差し込みだね~。久しぶりに一本取られたよー。
GM 珍しく隙を見せたからね(笑)。最近やられっっぱなしだったから、このへんで返しておかなきゃなって。
そんな会話をしつつ、物語はクライマックスへと向かう。
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