1-1.アイドル希望のデーモンルーラーに振り回される仲間たち

 ドーデン地方の西岸部に位置する港湾都市にして、アルフレイム大陸有数のハブステーションと都市内鉄道を誇る大都市、キングスフォール。その一角に冒険者たちの姿はあった。


GM キミたちは今、ギルドから依頼を受けて依頼主のもとに向かっている。詳しくは直接依頼主から聞いてほしいとのことだけど、どうやら護送任務らしいね。このへんはシナリオ紹介に書いてあった通り。


ユイ アタシたち、4レベルだから中堅どころだよね~。そんなアタシたちに頼むってことは、けっこう危険な護送任務なのかな?


GM それもあるけど、どっちかというと依頼主がかなり過保護みたい。護送対象は依頼主の娘なんだけど、駆け出し冒険者に頼んで万が一のことがあったら嫌だ、と。ちなみに報酬はひとり2500ガメル、そのなかから前金で500ガメルをもらっている。ただの護送任務としては支払いはいいほうじゃないかな。


ルジェ 何か裏がある気がしマスが……ちなみに、どこまで護送するのデスか?


サイネ たしか……鉄道は基本的には安全だけど……一部の路線は生きて終点までたどりつける保障がないほど危険なところも、あるらしい……。


リーゼ ゾッとしませんわね。まぁギルドを通した依頼ですから、適正から大きく離れてはいないでしょう。


GM あー、場所ね。依頼主から直接言わせようと思ったけど、まあ職員から聞いていてもおかしくはないかな。うん、フレジア森林国にメリアの女の子を送り届けてほしいって話みたい。


サイネ ふむ……、もしやGM、私の設定……ピンポイントだった?


 そうだよ!!


GM 鉄道は安全な路線を使って途中で降りて、そこから徒歩でフレジア森林国に向かってもらうらしいね。安全が保障されているとは言え蛮族の襲撃を受けることがないわけじゃない、ってルールブックに書いてあったし、当然降りてからの道中で遭遇することもあるし、そこまで含めたうえでのキミたちへの依頼って感じだね。


リーゼ そう聞くと妥当な依頼に思えますわね。


ユイ ま、とりあえず依頼主さんに会うところからだね~。娘さんの護衛ってことは、美少女と一緒に旅をするってことだよね。んふふ、楽しみだな~。


ルジェ ユイ殿は初めて出会ったときからそんな感じなのデスか?


ユイ そうだよー。カワイイ子と一緒だとテンション上がるよね~。だからルジェちゃんも好きだよー。撫で撫でしちゃう。


ルジェ なっ、わ、私は貴女より年上……デス。


ユイ でも見た目はロリっ娘なんでしょ? よーしよしよし~。


ルジェ 「や、やめてくだサイ……人前でこのような、その、恥ずかしいデス……」と、赤くなって俯きマス。


ユイ「かーわーいーいー!」と、言って満足そうに笑うかな~。


サイネ 私はとくに気にせず「ユイは相変わらず……」


リーゼ 「平常運転ですわねぇ……」って、言っておけばいいんですの? まぁ、ここまで一緒に冒険してきた仲ですから、きっと日常茶飯事なのでしょう。


ユイ サイネちゃんは幼少期の経験で“引き寄せる声”を持ってるよねー? だから「一緒にアイドルやろうよ~」って誘ってるし、リーゼさんも頼りになるお姉さんとしてリスペクトしてるから、「お姉さま、好きー!」って感じでみんなと積極的に絡んでいく予定だよ~。


サイネ 「アイドル……たくさんの観客から見上げられて、称賛される……悪くない……」と、口元を釣り上げる……。


リーゼ 「お、お姉さま……」その言葉には満更でもない表情になりますわね。


 そんな和気あいあいとしたロールプレイを交えつつ、場面は依頼主との対面に移る。


GM そんなこんなでみなさんは依頼主の家までやってきたよ。かなり大きいね。一等地に立っているお屋敷のイメージ。


ルジェ 事前に依頼主の人柄について、調べておくことはできマスか?


GM そうだねぇ……それなら冒険者+知力で判定してもらおうかな。目標値10でいいよ。


 この判定には全員が成功し、以下の情報を出した。


・依頼主はメリアの長命種である。

・ドーデン地方の情報が一手に集まるこの首都キングスフォールで病に関する研究をしている。

・その筋ではそれなりに名前が通った研究者であり、社会的な地位も高い。


サイネ 高名な研究者……でも、出自はきっと私のほうが上……。


 その謎の対抗意識はどこからくるのか。


ルジェ 研究者……怪しいデスね。


リーゼ ギルドの依頼ですから、依頼人の身元は保障されているはずですわ。


 研究者と見たらすぐに怪しむのはやめなさい。そしてリーゼのそのギルドに対する厚い信頼はなんなのか。


GM とりあえず依頼主に会ったところまで進めるね。キミたちが通されたのは広々とした応接間、屋敷のメイドさんがお茶を入れてもてなしてくれるよ。で、そんなキミたちの前には今、白衣を着た男がいる。依頼主のサザンと、その娘のスイートピーだ。


リーゼ なんだか今にも歌い出しそうな依頼主ですわね。


GM 言われると思ったけど、そっちじゃないからね、元ネタ。ほら、立ち絵見て。いかにも科学者って感じでしょ!


ユイ あはは、たぶんサザンカが元なのかな~? なんとなくメリアだと花の名前をつけたくなっちゃうよね~。たぶんそういうのはまったく気にしなくていいんだけど~。


サザン「依頼を引き受けてくださってありがとうございます。私の名前はサザン。こちらは娘のスイートピーです。ほら、スイートピー、ご挨拶しなさい」


スイートピー「うわぁ、うわぁ、ホンモノの冒険者さんだー! えっと、スイートピーです! よろしくおねがいします!」と、女の子は元気よく頭を下げる感じ。


ユイ「カワイイ~!」って声に出しちゃうかな~。


リーゼ「まだ幼いのに礼儀正しいですのね」と言ってみますけれど……メリアということは、見た目と年齢は当てにならないのかしら?


GM そうだねぇ。それに関しては、メリアの冒険者がパーティにいるなら自動成功でわかることがあるよ。


サイネ それは重畳……。


GM このスイートピー、短命種ですね。はい。


ユイ んー? 短命種?


ルジェ 短命種だと、何か問題があるのデスか?


サイネ 長命種の親からは、短命種は生まれない……。つまり、このふたりに血縁関係はない……。


リーゼ なんだかヘヴィな話になってきましたわね。


GM で、気づいた冒険者がいるなら、サザンは察した表情になる。


サザン 「スイートピー、父さんは冒険者さんたちと話があるから、お部屋で遊んでいてくれるかい?」


スイートピー 「うん、わかった! それじゃあまたあとでね、冒険者さん!」そう言ってスイートピーはメイドさんに付き添われながら自分の部屋へ向かう感じ。


サザン 「同胞の前では流石に隠せませんね……お察しの通り、あの子は短命種です。街の片隅で打ち捨てられていた種を拾い、芽吹いた短命種がスイートピーです。あの子にはまだ話していませんが……」


ユイ 「もしかして、それが今回の依頼と関係ある感じかな~?」と、直球で聞いちゃうよ~。


サザン 「鋭いですね。その通りです。私にはもうあの子を育てることができない……ですので、冒険者のみなさんにあの子をフレジア森林国に送り届けてほしいのです」


リーゼ 長命種が短命種を育ててはいけない、なんて設定があるんですの?


サイネ とくにはないはず……。


リーゼ でしたら……いえ、そうであったとしても、わたくしはこう言いますわ。「一度育てると決めた命なら、責任を持つべきですわ。ましてやあなたは地位も資産も持っているのですし、研究で忙しいにしても養育係を雇うなり、いろいろできるはずですわ」


ルジェ 私は何も言えないデスね。ただ、私の境遇と違ってふたりは幸せそうデスし、どうして別れる必要があるのか……と、気にかかりマス。


GM リーゼの言葉を聞くとサザンは苦悩の表情を浮かべるね。そして、「わかってはいるのです。そういった問題ではないのです。ただ……」と言って口を閉ざす。どうやらあなたたちには話せないなんらかの事情があるらしいけど、今は聞き出せなさそう。


リーゼ その口ぶりからするとシナリオが進むと聞ける感じですのね?


GM うん、進めてもらえれば事情はわかるよ。今はサザンの心境的にも話すことはないし、この場で問答しても意味はないかな。


サイネ どちらにせよ、私たちはもう依頼を受けた……気にはなるが、引き受けるしかない……。それに……依頼を引き受ければ、フレジア森林国で合法的にドヤ顔ができる……。


 ここまでブレないといっそ清々しい。


ユイ スイートピーちゃんからサザンさんへの気持ちって、さっきのやり取りから読み取れてもいい?


GM スイートピーはめっちゃお父さんのことが大好きみたいだね。


ユイ そっか~。それなら、「依頼されたからには送り届けるけど……スイートピーちゃん、サザンさんと離れ離れになったらきっと悲しんじゃうよね~。それは嫌だなぁ」って言っておくよ~。


リーゼ 「ですわね。何かのっぴきならない事情があるようですので、深くは聞きませんし、送り届けますけれど……できれば早く迎えに行ってあげてほしいですわ」と、ユイさんに続けて言います。


ルジェ 口を開くかどうか、少しだけためらったあとに、「子どもは、親に捨てられたと思ったとき、とても悲しい気持ちになりマス。まだ会ったばかりデスが……あの明るい少女が、そんな気持ちになるのはいけないことだと、思いマス」と、自分の境遇を重ねつつ言いマス。


サイネ 「少なくとも……長命種と短命種の違い、歩む速度の違いは、自分の口から話すべき……」と、妖精たちが組み立ててくれた言葉をそのまま告げる……。


GM 自分の言葉じゃないんかーい!


 などとツッコミを入れながらも、まさかここまでみんながサザンとスイートピーの心情に寄せたロールプレイをしてくれるとは思わなかったので、内心とてもうれしかった。


 ということで、ノリと勢いを愛するGMはここで当初の予定からストーリーを変更することにした。


GM そうだね、みんなのその言葉はサザンの心になんらかの影響を与えたみたい。


ルジェ ふむ?


GM しばし苦悩の表情を浮かべていたサザンは、やがて深々と息を吐き出すと、苦笑とともに口を開くよ。「まさか、ここまで心配していただけるとは……どうやら私は、とてもすばらしい冒険者たちに巡り会えたようです」


ユイ お、もしかしていい感じ? 説得判定成功したかな~?


GM 似たようなものかな(笑)。


サザン「私は、あの子をフレジア森林国に送り届けてもらったらもう会わないつもりでいました。別れを告げるのも怖いし、泣かれるのも辛いですから……ただ、みなさんの言葉を聞いて、それは逃げているだけだと思いました。ですから、しっかり別れの言葉を告げようと思います」


リーゼ 別れることは変わらないんですのね……。一体どんな事情があるのやら。


サザン 「つきましては、ご迷惑をおかけするとは思うのですが、私もスイートピーと一緒にフレジア森林国まで護送していただけないでしょうか。その後、私をこのキングスフォールまで送り届けていただくところまで含めて、依頼とさせてください。もちろん報酬は上乗せさせていただきます」


GM という感じでサザンは提案してくるよ。


ルジェ 悪い話ではなさそうデスね。


ユイ ちなみに、サザンさんを連れて行くことで何かデメリットはある~?


GM ネタバレになるから言えないけど、難易度が上がる。ただその代わり報酬を各自+500Gするし、スイートピーの顔が曇らずにエンディングに行ける可能性が高くなるよ。


サイネ 出た……GMの悪癖……すぐにヒロインの顔を曇らせようとする……。


リーゼ いつものことですわね。


 そんなにいつも曇らせているわけではない、はず……。たぶん……。


ユイ 女の子の顔が曇らないのは重要だよね~。そういうことなら私は問題ないかなーって思うけど、みんなはどう~? 


ルジェ 私は構いマセン。どれだけ難易度が上がるかはわからないデスが、ずいぶん大盤振る舞いだと思いマスし。


リーゼ 私もオッケーですわ。難易度が上がる、望むところです。


サイネ ビターエンドよりは、ハッピーエンドを目指したい……それに、ビターエンドになるとGMが愉悦する……それは阻止したい……。


 酷い言われようだった。


ユイ 「それじゃあサザンのおじさまも含めて、みんなで鉄道旅行だね~」


サザン 「ありがとうございます……よろしくお願いします!」


 こうして当初の予定よりもひとり増えた一向は、鉄道を使ってフレジア森林国方面へと向かうことになるのだった。


 ちなみに、このタイミングで買い物も許可した。所持金の貸し借りも許可したので、魔晶石や指輪が所持品に増えたことを記しておく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る