3-1.第3章開始/少女はトラウマを抱えて悪夢に立ち向かう

――乱れ舞う仕事の予定、すでに決まっている別卓の予定、赤字だらけの伝助。それらを互いに相談して日程を調整し、なんとか奇跡的に4人でのセッションに漕ぎつけることができた。


みんなありがとう、ありがとう……!



GM ということで、久しぶりのこのメンツでのセッションだー! いえーい!


ルジェ やけにテンションが高いデスね。たしかに全員集まったのは久しぶりデスが。


ユイ なんだかんだ別システムで同卓してた人もいるし、久しぶりって感じがしないなー。


サイネ 同意……ただ、このキャラを使うのが久しぶりすぎてロールプレイがブレそう……。


GM あるある。


リーゼ それで、今回のシナリオはどういったものですの?


GM そう言えばまだこのメンツでは使ってなかったなーと思って、魔域を使ったシナリオをやろうかなって。



魔域というのは2.5から追加された要素で、正式には奈落の魔域という。ざっくり言えば闇のパワーで作られた迷宮で、その内部ではさまざまな超常的な現象が起こる。



リーゼ ということはダンジョン探索……レンジャーがいないので少し不安ですわね。


ユイ あ、そこはアタシがレンジャー取ったから大丈夫だよ~。


サイネ いいの……?


ユイ ひとりだけ経験点が多いからね~。そこの調整も兼ねてる感じー。


GM 1レベルでもあるとないとではまったく違うからなぁ。


ちなみにユイ以外のメンバーは成長させていない。前回と今回分の経験点をあわせてレベルを上げるためだ。


リーゼ って、あら? そう言えばルジェが妙に静かですわね?


ルジェ あ、申し訳ありマセン。少し考え事をしていマシタ。


GM 大丈夫大丈夫、そんなに酷いことにはならないから。


リーゼ んん……?


――以下、回想。しばらく前のこと。



ルジェ セッション前に相談がしたいとのことデシタが、どうかしたのデスか?


GM うん、次のセッションはルジェが主役だからよろしくね。


ルジェ はっ? あの、話が見えないのデスが……。


GM ほら、ルジェって昔、蛮族に奴隷にされていたっていう設定があったでしょ? その設定を取り入れたいから、詳しい設定を送ってくれるとうれしい。


ルジェ もともと単発用のキャラだったので、そこまで深くは設定していないのデスが……。


GM 設定はあとから生えるものだし。分量は気にしなくていいから、セッション日の一週間前くらい目処に送ってもらえるとうれしい。


ルジェ わ、わかりマシた。



GM じゃあシナリオトレーラーを貼りつけるね。


---


フラワリングスターズにもたらされた新たな依頼。

それは魔域と化した遺跡を解放してほしいというものだった。

その遺跡の名前は、ナイトメアの少女にとっては過去の記憶を呼び覚ますもので。


かつて自分が囚われていた場所に足を踏み入れ、少女は何を想うのか――。


ソード・ワールド2.5「Happy Nightmare after The Dream」


---


リーゼ あら、ナイトメアの少女ということは。


GM うん、今回はルジェにスポットを当てたシナリオだね。事前にルジェから過去に関する設定をもらって、それをもとにして作った。


ユイ 重たい設定に定評があるルジェとバッドエンドに定評のあるGMの合作かー。


GM その言い方だと僕がバッドエンドシナリオを量産しているみたいに聞こえるからやめて!?


サイネ バッドに行ったときの展開が酷いのは事実……あと、普通にクリアしてもメリーバッドエンドやビターエンドになることが多い……。


リーゼ わたくし、順当にハッピーエンドのシナリオに参加した回数のほうが少ない気がしますわ。


ルジェ 私は重い設定は好きデスが、そういうキャラがハッピーエンドを迎えるのが好きなので。


GM ぐぬぬ……よし、とりあえず今回も【剣の恩寵】のルールを採用しているから、いい感じにロール交えてキャラクター紹介よろしくー。


ユイ はーい。「メリアの魔神使い・ユイ。レンジャーを1レベルで取ったよ~。ステージの野外設営は任せてねー」


サイネ 「メリアの妖精使い・サイネ……愚民どもよ、ひれ伏すがいい……」みたいな感じ……だっけ?


リーゼ そこまでサイネの口が悪かった覚えはありませんけども……。ともあれ、「わたくしは人間の魔法剣士・リーゼ。軽やかに舞い、華麗に刺してみせますわ」


ルジェ あまり自分のキャラがメインとなるシナリオに参加したことはないのデスが、お手柔らかにお願いしマス。「ナイトメアの魔法戦士・ルジェといいマス。硬い魔術師としてがんばりマス」



GM ということでキミたちは冒険者ギルドにやってきた。キミたちが依頼を探していると、受付嬢さんが話しかけてくる。「あ、フラワリングスターズさん。ちょうどよかったです」


ユイ 「こんにちは~!」って明るく挨拶するよー。


サイネ 「どうも……」椅子に座って飲み物を飲んでいる……。


リーゼ 会釈しつつ物思いに耽っていますわ。


ルジェ こちらも挨拶をしつつ、武器を磨いていマス。


GM 「じつはアウンガルテン遺跡群の遺跡のひとつで魔域が発生しまして、その解決に向かってほしいのです」


ルジェ ピタッと武器を磨く手を止めマス。顔を上げて「アウンガルテン遺跡群デスか……」


リーゼ 「ルジェ、何か知っていますの?」


ルジェ 「えぇ、まぁ……」とここは言葉を濁しマス。


リーゼ と、言いつつ、プレイヤーはそもそもその遺跡群がなんなのか知らないわけですけれど。


サイネ たしか……キングスフォールの北に広がる遺跡群だったはず……。


ユイ 未踏派の遺跡がたくさんあって、キングスフォールの外にあるから蛮族も普通に住み着いているところだよね~。


GM 「その遺跡はずいぶんと前に拠点を構えていた蛮族も排除されて、肝試しの怪奇スポットとして使われるくらいには安全が確認されていた場所なのですが……まさか魔域化するとは、というのが正直なところです」


ルジェ 遺跡で肝試しとは……。


リーゼ 魔域は一度入ったら出られないのですよね、たしか。


ユイ 基本的には無理だったはずだよ~。入るぶんには自由なんだけどねー。


サイネ つまり……先駆者の情報はない……。巻き込まれた者は、いそう?


GM それに関しては今のところ確認されてないみたい。


リーゼ 調査済みの遺跡ということなら、地図というか、そういったものはありませんの?


GM お、それを聞くと受付嬢さんはマップを取り寄せてくれるね。ただ魔域化しているからあてになるかは保証しないとも言われるけど。


ルジェ GM、もしやそのマップは……。


GM 察しがいいねぇ。ルジェがもらったマップを見ると、過去の記憶が刺激される。そしてその遺跡の名前も、忘れようと思っても忘れられるはずがないものだ。


リーゼ 「どうかしましたの? ルジェ」ともう一度聞いてみますけれど。


ルジェ GM、これは明かしても大丈夫デスか?


GM そのあたりは任せるよー。話したいタイミングで話してくれれば。


ルジェ では、「この遺跡……ドゥーベは過去、蛮族が拠点にしていた遺跡なのデスが……私は幼い頃、そこにいたのデス」


リーゼ 「たしかルジェは昔、蛮族に……つまり……」


ユイ その言葉を聞くと真剣な表情になるよー。


サイネ 飲む手を止めて……話を聞く姿勢になる……。


ルジェ 「はい。私が奴隷として囚われていた場所デス。冒険者に助けられたあと、遺跡自体も完全に攻略されたと聞いてマシたが……まさか魔域になるとは……」


ユイ んー、その話を聞くと「ルジェ、大丈夫?」って聞いちゃうかな~。


リーゼ そうですわね。「もし辛ければ、無理をする必要はないですのよ?」と言って寄り添いますわ。


サイネ こくこく、と頷く。



――仲間たちからかけられる温かい言葉。その言葉に対し、ルジェは精一杯心を落ち着かせながら、震える声を抑えて答える。


「ありがとうございマス……大丈夫デスよ、もう過去のことデスから」


 そう返しながら、ルジェはマップを強く握りしめた。



ユイ ところでこれ、ピンポイントで私たちのパーティにその遺跡の話を持ってくるあたり、受付嬢さんもすごいよね~。


リーゼ それは言わないお約束ですわ……。



GM キミたちが遺跡にやってくると、ちょうど入り口から中に入ったあたりで黒い穴、半円球のドームのようなものが形成されている。直径は3メートルくらいかな。まだ出来てからそれほど時間は経ってない感じ。


ルジェ 「まさか再びここに来ることになるとは思わなかったデス」と言いながら、震える手を抑えていマス。


GM んー、ここはまだいいかな。


ルジェ えっ、なんデスか、その発言。


GM や、まぁルジェが知っているよりもずいぶんと綺麗になっているね、遺跡自体は。調査が完了した影響もあるだろうけど、清浄な空気感があって、別物のように感じられる。


ルジェ なるほど……?


ユイ ギルドなら脅威度は事前にわかってるはずだよね~? それは教えてもらえるー?


GM 6だねー。


ルジェ つまり、出てくる魔物の最大レベルは6……。


リーゼ スイートピーはいますの?


GM うん、ついてきてるよ。


リーゼ フェローだからダメージを受けることはありませんけど、ちょっと連れて行くのは気が引けますわね。レベルもまだ私たちより低いのでしょう?


GM サポート特化にしたら意外と活躍するなーってイメージだったし、全滅したら心にトラウマを負うけど、そこはほら、勝てばいいだけだから。


サイネ すぐそういうことを言う……。


GM/スイートピー 「スイートピーもがんばるよ! お姉ちゃんたちに迷惑をかけないよう、がんばるね!」


ルジェ その言葉を聞いて、守らねばという思いが強くなりマス。


リーゼ ですわね。自分の頬を叩いて気合を入れますわ。


サイネ こくんと頷いて、帽子の向きを少しいじる……。


ユイ 「それじゃあ、出発しんこー!」って、あえて明るく言って魔域に入るよー。


GM キミたちが黒い球体に足を踏み入れると、平衡感覚が揺らぎ、視界がゆがむ。しばらくして、両の足で地面を踏みしめる感触。目の前に広がっていたのは、先ほどと同じ遺跡の入り口だった。


リーゼ あら? どういうことですの?


GM と、思ったが、よくよく見ればその遺跡は先ほどのものより汚らしい。


サイネ これは……もしや……。


GM 遺跡の空気は淀んでいて、鼻をつく匂いにも不快さが交じる。そして何より、キミたちの視界の先には何体かの蛮族の姿がある。その蛮族の中には、ルジェが見覚えのある者たちも混ざっていた。


ルジェ そういうことデスか……。それは、目を見開いて身体を震わせてしまいマスね。


GM そう、ここは魔域。あらゆる不条理と理不尽が起きる場所。そしてときに想念を読み取り、応じた悪夢を具現化する場所。……ということで、ルジェ、「精神力ボーナス+冒険者レベル」で目標値12の判定にチャレンジしてもらおう。


サイネ GMの声がイキイキしている……。


ルジェ トラウマに耐えられるかどうかの判定、といったところデスね。それは失敗するとどうなりマスか。


GM 成功したら恐怖感と嫌悪感を抑えることができて、ペナルティなし。失敗したらそれらの感情が抑えられず、あらゆる受動判定に-3のペナルティ。


リーゼ それはエグすぎませんこと!?


GM もらった設定にトラウマを克服できていないって書かれていたからね~。それに受動判定だけだから、自発的に何かを調べたり、戦闘時の命中判定だったり、そういうところは通常通り振れるからいけるいける。


ルジェ ここで失敗したとして、どこかで再チャレンジする機会はありマスか?


GM あるよー。


ユイ 中途で1回と、クライマックス前に1回くらいかな?


GM さて、どうかな。


ルジェ 演出的には失敗しても美味しいデスが、ペナルティを考えると成功したいデスね。(コロコロ)……失敗。しかも出目が3なので、ファンブル一歩手前デスか……。


GM オッケー、じゃあ描写はこんな感じかな。



――かつて自分が囚われていた場所。いつ死んでもおかしくないほどの過酷な労働と、とても口にすることができない所業。それらの過去が脳裏にフラッシュバックする。


「あ、ぁあ……」


 声が出ない。身体が震える。恐怖感と嫌悪感を抑えることができない。


 大丈夫だと思っていた。乗り越えたと思っていた。だが、それは幻想だった。


 この場にいることが恐ろしく、同時に、眼前にあるものをとにかく振り払ってしまいたいという強い衝動に駆られる。



ユイ ルジェかばうように前に出るよー。


サイネ ルジェをフォローできる位置で……杖を構える。


リーゼ わたくしも前に出ますが、その前に「ルジェ、落ち着いてくださいませ。わたくしたちがついていますわ」と言ってから前に出ますわ。


GM いいねぇ。スイートピーは、そうだな。「ルジェお姉ちゃん、大丈夫?」ってギュッと手を握るかな。


ルジェ 「みなさん、スイートピーもありがとうございマス。大丈夫、デス。とにかく一刻も早くアレを……」と、恐怖で震えながらも武器を構えマス。


GM オッケー、それじゃあ早速戦闘を始めよう。

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