第十九話 バディストとの対峙

 バディストが跳躍し、大鎌を大きく振りかぶって今にも斬りかからんとしている。先程強化した、全属性の盾で防ぐが、先程のインウィディアの攻撃の上にバディストの力が加わっているため、右手に持っている盾が悲鳴をあげている。


「おらおらぁ! そんなもんかぁ?」


 大鎌が纏っている細かな無数の斬撃が、盾を次第に削っていく。魔力強化を施した全属性の盾でさえ、防ぎきれないかもしれない。


「この街を襲撃した目的はなんだ?」


 マサミツが問う。


「もちろん、罪器の回収だよぉ! この街にあるって聞いてなぁ! 俺様の相棒が向かったぜぇ!」


 バディストは目的をなんの躊躇いもなく言った。その直後、バディストは攻撃を突然やめ、明後日の方向を見た。


「お、ちょっと待ってろ! すぐ戻ってくるからよぉ!」


 背中の翼をはためかせ、飛び立った。飛んで行った方向は、ルオラス城の方だった。

 城には国王がいるはずだ。助けに行ったほうがいいだろう。そう思ったマサミツは【輝翼飛行ウィング】でバディストを追いかけた。


 バディストはルオラス城に到達すると、大声をあげながら大鎌を振り下ろした。マサミツは城が切断されるのを防ぐが間に合わず、ルオラス城は縦に二つに割れてしまった。


「はははは! 情けねえなぁ、簡単につかまるなんてぇ! ……っと!」


 バディストが城の内部に向かって叫んでいたが、それに割り込むかのように【輝翼飛行ウィング】で加速し、全属性の剣で斬りかかる。バディストはそれに気づいて振り返り、大鎌で防いだ。


「そう慌てるなって! もう仲間は助けたしちゃんとお前の相手をしてやれるからよぉ!」


 バディストがマサミツを押し返した。そのまま城から離れる。


「バディスト……だったか? どうして今までじっとしていたんだ?」


 マサミツが問われ、バディストは口元に笑みを浮かべた。


「お前、勇者マサミツだろぉ? 俺様にはわかるぜぇ」

「マサミツってとーっても強い人族だったっけ? おにーさん強かったし、確かにそうかも!」


 バディストとインウィディアが言った。決してマサミツと目を離さずに。


「質問に答えろ」


 マサミツが言うと、バディストはさらに笑顔になり、両腕を大きく広げた。


「お前が魔王エドゼルを殺してくれたおかげだよぉ! 俺様もイグナートも、あいつには勝てなかった! あいつは強すぎたんだよぉ!」


 ……エドゼルに勝てなかった? どういうことだ?

 確かにエドゼルは強かった。それまでに戦った誰よりも。しかし今、目の前にいるこの魔族にマサミツは苦戦している。明らかにエドゼルよりも強いように思える。

 相性などはあったかもしれないが、それでもバディストが負けるなど、到底思えない。しかし、バディストはエドゼルのことを強すぎたと言っている。どうにも違和感が働いて腑に落ちない。


「お前がエドゼルを殺したらしいが、俺様はそれに納得できねぇ! 確かにお前は強いけどよぉ、お前程度にエドゼルが負けるとは到底思えねぇんだよぉ!」


 バディストが大鎌を捨てるように投げ、素手で殴りかかってきた。盾で受け止めるが、先程までの斬撃とは比べ物にならないほどの衝撃が伝わってきた。咄嗟に腕に魔力強化を施すが、それでも受けきれない。バディストが左手を引き、今度は右手で殴ってくる。盾をはじかれていたマサミツは、その殴打を顔に受け、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 急いで体勢を立て直し、【上級治癒ハイ・ヒール】にて回復する。魔力装のおかげで、怪我は少なく抑えられた。

 その後、各属性の様々な攻撃魔法を発動し、空中に創り出す。それらを一斉にバディストに向け打ち出した。しかし、バディストは目にもとまらぬ速さの殴打で全て相殺した。だが、マサミツの真の目的はそれではなかった。バディストが相殺し、霧散したかに思われた魔法は、拘束魔法へと姿を変え、バディストをその場に縛り付けた。

 そして、マサミツが掲げている右腕の上空、雲の上から果てしなく巨大な光り輝く剣が現れた。


「おいおいおいおい! なんだありゃぁ!」


 あまりの巨大さに、バディストが一瞬たじろぐ。


「俺の光魔法を、太陽光でさらに強化した! これで決める!」


 マサミツが右腕を振り下すと、巨大な光の剣がバディストに向かって動き出した。


「おにーさんやっぱりすごいね!!」


 バディストと光の剣の間に、インウィディアが割って入り、バディストの拘束を切断する。その後、インウィディアをバディストが掴み、大きく振りかぶる。


「でも、あたしとバディストは殺せないと思うよー?」

「行くぞぉ! 【時空切断スパティウム・セカーレ】!」


 その掛け声と共に、空間が切断され、空間の狭間が出現した。それはとてつもない勢いで周囲のものを吸い込んでいた。光の剣も例外ではなく、空間の狭間に吸い込まれ、消えてしまった。

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