第十四話 魔族達の襲撃

 マサミツが到着したときには既に、そこは凄惨な現場となっていた。惨殺されている市民、衛兵。切り刻まれた建物。広範囲に渡って、戦いの傷跡が見られた。


 そして、その中心には一人の魔族が立っていた。人族と似た姿をしており、紺色の髪を持っている。鋭い目つきに、尖った牙。背中には魔族特有の黒い翼が生えている。手にはその魔族の体躯ほどの大きさの鎌が握られていた。その鎌には、紫色の半透明の水晶玉らしき物がついている。


「お、カモがまた一人ぃ!」


 突然、魔族がこちらに気づき大鎌を振った。マサミツは飛んでいるので届くはずがない。

 しかしその直後、マサミツの背中に生えた輝く左翼の先が切断された。

 念の為、魔力装を身に纏っていたのが良かった。魔力装のおかげで、斬撃の軌道が逸れたのだ。


 魔力装とは、魔力を身体から少しずつ放出し、身体の周りに纏うものだ。魔力域よりも消費魔力が小さく、使い勝手が良い。また、自分の魔力で包むので魔法の影響を受けにくくなる。マサミツが結界の中で自由に動くことが出来る理由がそれだ。


 翼を切断された事によりマサミツはバランスを崩したが、即座に翼を再生させ、体勢を立て直した。

 ……今のはなんだ!?

 ……斬撃を飛ばしたというのか!?

 だが、斬撃は飛ばせるものではない。武器を高速で振ることで空気の圧を発生させ、疑似的に斬撃のようなものを飛ばすことはできるが、今のはそれでない。


「お? お前を斬ったはずなんだけど……なあ!」


  そう言って、魔族は大鎌を幾度となく振った。無数の見えない斬撃がマサミツに襲い掛かる。マサミツは【複属万象剣アトラ・ソード】で全属性の剣を創り出し、斬撃を受け止めた。


「おらおらおらおらぁ!」


 魔族は大鎌を振るう腕を休めない。無数の斬撃と【複属万象剣アトラ・ソード】がぶつかり合い、剣戟の音が鳴り響いた。

 このままでは埒が明かない。そう思ったマサミツは、左手にもう一本の【複属万象剣アトラ・ソード】を創り出し、それを大きく振った。

 すると、剣の先から斬撃や空気の圧とはまた違う、魔力の刃が飛んだ。


「【複属万象剣撃アトラ・ソード・スラッシュ】」


 全属性の剣から放たれた、全属性の魔力の刃。それは大鎌から放たれる斬撃を打ち消しながら魔族の方へ飛んでいく。

 その隙に、マサミツは地面に降り立った。魔族は魔力の刃を躱し、こちらを見る。

 向かい合う二人。魔族はこれから起こるであろう戦いに対して、笑っているようだった。


 ルオラス城。

 ルオラス城は、首都が頻繁に変わることもあり、城にしては小さく簡素。他の建物よりもいくらか大きい程度だ。

 ユーリガウム全域に結界が展開された直後のこと。

 ルオラス城の前に一体の魔族が現れた。背が高く、手には魔剣を握っている。背中には他の魔族より大きな翼がついているが、体格と比較するとあまり大きく見えない。

 その魔族は城の正門の前に静かに降り立った。


「だ、誰だ!」


 城門に立っている一人の衛兵が言った。


「見ればわかるだろう。魔族だ」


 そう言いながら、魔族は歩みを進める。

 少しずつ距離を詰められている衛兵の顔には、明らかに恐怖が浮かんでいた。しかし、決して逃げようとはしない。


「こ、ここは通さないぞ!」


 身体中を震わせながら言った。しかし、なおも魔族は近づいていく。


「ほう。この俺を止めると言ったな。できるものならばやってみろ」


「うわああああああああ!」


 叫びながら、衛兵は槍を魔族に向け、突っ込んでいった。顔は恐怖に歪み、涙を流しながら、力いっぱい走り、魔族を突いた。

 しかし、魔族はその攻撃を剣術で簡単にいなし、衛兵の鎧の継ぎ目に的確に刺した。最後に首を斬り落とし、衛兵は息絶えた。

 その後魔族は進み、城門を切り刻んで破壊し、中に入った。


「侵入者だ!」


「魔族が侵入した!」


 中にいる衛兵達が叫んで伝達し、そして魔族に攻撃する。その全てを、魔族は簡単に剣で受け止め、斬った。魔法での攻撃もするが、まるで通用しない。魔族は巧みな剣術と、すさまじい身体能力で、その場にいる者を全て斬り殺した。


 その後、魔族は城内の者を殺しながら進んだ。廊下で衛兵に鉢合わせすれば斬り殺し、ドアがあれば全て開け、中を捜索していた。まるで何かを探しているかのように。

 とある扉を魔族が開けると、そこにはメイドがいた。この城に仕えているものだろう。腰を抜かし、魔族を見て泣いている。


「やめてください……。殺さないでください……」


 メイドが命乞いをした。それを無視し、魔族はメイドに近づいた。そして、メイドの胸倉を掴み、持ち上げる。


「色慾の指輪。あれはどこにある」


 魔族が問うた。しかし、メイドは涙で顔を濡らしながら必死に首を横に振る。


「し、知りません!」


「なるほど。死にたいのか」


 そう言い、魔族はメイドの首元に魔剣を突き付ける。


「本当に何も聞いていないんです!」


 魔族は顔をしかめた。そして、次の質問をする。


「なら、国王の居場所を教えろ」


「この部屋を出て左、突き当りを右に曲がって、最初の左手の扉です!」


「なるほど。情報を感謝する」


 メイドが安堵する。殺されずに逃げられると思ったのだ。


「では死ね」


「えっ……」


 魔族がメイドの首を切り落とす。メイドの頭がボトリとカーペットに落ちた。身体の方を手から離し、魔族がそれに向かって言う。


阿呆あほうめ。殺されないと思ったか」


 魔族は部屋を出て、言われた通りの廊下を歩いた。大きな窓からは日の光が差し込み、床のカーペットを照らしている。廊下のところどころに小さな机が置いてあり、花や、高そうな壷が飾ってある。

 それらを横目に魔族は歩き、言われた部屋に到着した。確かにそこは広く、王室のようだった。

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