第十三話 ルオラス国への襲撃

 ルオラス国の首都、ユーリガウムに来て数日が経過した。数日間、見つからないように警戒していたが、どうやらカルデローネ騎士隊の者たちはまだ来ていないようだ。といっても、油断するわけにはいかない。


「マサミツ様、今日はどこに行くんですか?」


 宿屋の部屋でオトハが質問した。


「今日は特に決めてないよ。でも、ちょっと部屋でやりたいことがある」


「やりたいこと?」


 オトハが首をかしげる。


「うん。前に【検査インスペクト】で検査したんだけど何も異常は無くて。でも、魔法が使えなくなっていってるから、ちゃんと検査しようと思って。最高位の検査の魔法は時間がかかるから、部屋でね」


検査インスペクト】の最上位魔法、【超級完全検査ファイネスト・インスペクト】は、身体の隅々まで、隠蔽された魔法すらも検知することができる。しかし、その欠点として、時間がかかる。部屋などの安全な空間が確保できていない状態で使える魔法ではないのだ。


「なるほど。どのくらいかかるんですか?」


「今は昼前だから……。昼食の時間までには終わると思う」


 時間にしておよそ一時間。その間、魔法に集中しなければならない。大変で、時間を消費するが、魔法が使えなくなる原因がわかるのならそれに越したことはない。


「じゃあその間、私はどうしたらいいですか?」


 そうオトハに聞かれたので、マサミツは一冊の本を取り出した。表紙には『初級魔法理論』と書いてある。


「オトハはどんどん魔法が上手くなってるから、この本で先に理論だけ勉強するのはどう?」


「わかりました! 頑張ります!」


 オトハは嬉しそうに本を受け取り、開いた。マサミツはそれを見て、魔法の発動を開始することにした。ベッドに横たわり、意識を集中する。


 手足の末端まで調べたが、異常は全くない。内臓や、骨にも異常は何もなかった。最後に頭部を調べる。一見、異常は無いように見えた。しかしよく集中してみてみると、ひとつ違和感を感じた。さらにそこに集中してみると、それは魔法のようだった。術式を読んでみるが、理解できない部分が多く、解除することができない。唯一わかるのは、魔法を次々と忘れていくということだ。


超級完全検査ファイネスト・インスペクト】を解除した。気づけば時刻は昼頃になっていた。


「あ、終わったんですね。どうでしたか?」


「どうやら俺に、次々と魔法を忘れて使えなくなる魔法がかけられているみたいだ。術式を見たけど、解除できそうにない」


 使える魔法が減るというのは、つまり戦闘の幅が狭くなるということだ。戦闘に臨機応変に対応することができなくなり、負ける可能性が高くなる。


「これからどうするんですか……?」


「わからないな……」


 その直後のことだった。結界の気配を感じた。 何者かによってユーリガウム全体に結界が展開されたようだ。即座に結界に目を凝らす。


「魔族以外の通行を遮断する結界と、魔族を強化、それ以外を弱体化する結界の二つか……」


 ルオラスは、もちろん人族の国なので衛兵達は弱体化されている状態だ。

 もしこの状態で魔族が攻めてきてしまうと、かなりまずい状況になる。そして、この結界を展開しているのは……。


「オトハ、俺は外に行ってくる。ここで待っててくれ」


「私も行きます!」


 オトハが立ち上がった。


「いや、だめだ。オトハはまだ魔族と戦えるほど強くない。それに、今は結界が展開されていて、普通の人はまともに戦える状態じゃないんだ。ここは安全だから、待っていてくれ」


「マサミツ様なら……。絶対戻ってきますよね」


「ああ。絶対戻ってくる」


 そういって、マサミツは外に出た。すでに魔物が街のいたるところにいる。衛兵達が戦おうとしているが、結界の効果により弱体化されており、まともに戦うことができていない。みんな、かろうじて耐えているといった風だ。

 この結界内にいる人族は、結界の効果により魔法を使うことが非常に困難になる。

 しかし、マサミツにはそんなことは関係なかった。彼は【輝翼飛行ウィング】で翼を生成し、飛翔した。


「【闇矢オブエル・アロー】」


 マサミツが飛びながらそう唱えると、魔法陣が無数に出現し、そこから闇の矢が現れた。

 それらは、衛兵達が応戦している魔物の方へ向かい、魔物に深く突き刺さった。魔物は息絶え、衛兵は胸をなでおろす。


「助かった。ありがとう」


 一人の衛兵がマサミツに声をかけた。


「それより、あなた達は住民の避難を!」


「す、すまない。すぐに!」


 飛びながら闇の矢を放ち、次々と救っていく。そうしながら、【感知サーチ】で敵の位置を探っていく。ほとんどが魔物のようだが、いくつか魔族の反応を感知した。


 魔族は魔物と違い、会話できるほどの知性がある。そのため、同じ戦闘力であったとしても、魔族の方が一枚上手になる。


 魔物を処理しながら、【感知サーチ】で捉えたとある魔族の場所へ向かう。その場所では、人族の生体反応が次々と消えていたからだ。

 今も次々と反応が消えていっている。結界を張られているとはいえ、かなりの強さの敵のようだ。

 マサミツはさらに飛翔速度を上げ、その場所へ向かった。

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