第十二話 魔物の急襲

「サラ!」


 サラがウィンディウルフとの間に立つ。その両手には短剣が握りしめられていた。


「加勢するよ!」


 そう言って彼女は双剣を構え、跳躍した。ウィンディウルフの元まで跳び、剣を切りつける。ウィンディウルフは咄嗟に避け、サラから距離をとった。

 両者ともに、すさまじいスピードで戦っている。ウィル率いる小隊は、目で追うのがやっとになっていた。

 このままでは埒が明かない。


「サラ! あれをやる!」


「わかった!」


 サラが空高く跳んだ。直後、ウィルの【地柱グラド・ピラー】により、辺り一帯に岩の柱ができた。その柱は高く、太い。互いの視界を塞いでいるため、こちらとしても少し戦いづらくなる。しかし、素早く動き回れるサラなら話は別だ。相手の視界外で動き回り、不意を突くことが可能となる。また、サラとパーティー仲間だったときに、この連携は練習していたので、こちらの方が有利になる。

 サラが風魔法でさらに素早さを増し、ウィンディウルフを翻弄する。時折双剣で傷つけ、少しづつ体力を削っていった。

 そのとき、ウィンディウルフは高く跳び上がった。岩の柱よりも高く。このままでは負けてしまうと考えたのだろう。跳び上がってから、ウィンディウルフは降りてこない。


「あれは……。【飛行フライ】か!」


 風の力を利用し、空を飛ぶ、風属性の魔法だ。ウィンディウルフが【飛行フライ】を使うなど、聞いたことがない。他の個体とは違う、特別な個体のようだ。


「私に任せて! 【衝撃風ゲイル・インパルス】!」


 サラがウィンディウルフに上から空気の塊を押し付けた。しかし、ウィンディウルフは体制を少し崩しただけで、降りてくることはない。

 ウィンディウルフが風の槍を十本ほど生成した。その先端は全てサラに向いている。


「【風槍ゲイル・スピア】」


 サラも同じように、風の槍を生成した。

 両者共に動きを止め、一触即発の状況になった。先に動いたのはウィンディウルフ。風の槍を同時にサラに放った。それに反応し、サラは風の槍に正確に風の槍をぶつける。風と風のぶつかり合い。風が吹き荒れ、ウィルの隊員達は飛ばされないように踏ん張っている。


 二人の魔法は相殺された。しかし、サラはすかさず【風刃ゲイル・スラッシュ】を放った。風の刃はウィンディウルフへと一直線に飛んで行った。

 しかし、ウィンディウルフに当たることなく、【風刃ゲイル・スラッシュ】は消えた。ウィンディウルフを包む風が、それを防いだのだ。


「なんて密度の風……。それだったら!」


 サラが腰から小さな剣を取り出し、ウィンディウルフに向かって投げた。サラは万が一に備えて、投擲用の剣も装備していたのだった。剣であれば、風圧の影響をあまり受けない。

 しかし、ウィンディウルフは身を翻し、前脚の爪でそれをはじいた。


「空中でなんて動きするのよ!」


 そう言って、サラはかがみ、跳躍する。ウィンディウルフめがけて一直線に突っ込む。両手に持っている短剣で斬りつけた。ウィンディウルフはまたしても爪で剣を受け止めた。サラはまだ【飛行フライ】で空を飛ぶことができないため、ウィンディウルフと同じ土俵に立つことができない。


「サラ、あいつを抑えてて!」


 ウィルがそう叫びながら前に出た。サラは【風圧ゲイル・プレス】を使い、ウィンディウルフの動きを制限した。


「いいよ! ウィル!」


「【地槍グラド・スピア】」


 地面から岩の槍が生えた。その槍は空中にいるウィンディウルフまで到達し、串刺しにした。

 ウィンディウルフは息絶え、活動を停止した。ウィルが【地槍グラド・スピア】を解除すると、ウィンディウルフは地面に落ちた。

 サラがウィル達に近づく。


「ウィル、みんな、大丈夫?」


「ああ、サラこそ怪我してない?」


「私は大丈夫。ほらっ!」


 そう言って、彼女はウィルに身体を見せ、笑った。


「そういえば、サラはなんでここに?」


「新聞で、マサミツが大司教を殺害して逃亡したって見たの。絶対何か事情があると思って、騎士隊の話を盗み聞きして、ここまで追いかけたの」


 ウィル達は転移装置で国境付近まで来たのに対し、サラは自分の足で走って追いついてきた。ウィル達がゆっくり進んでいるのもあるが、それを考慮してもものすごい速さだ。


「相変わらずの速さだね」


 ウィルは昔パーティーを組んでいたこともあってあまり驚いていないが、ウィルの隊員はかなり驚いた顔をしていた。


「こんなところに魔物なんていたっけ?」


 そう言って、サラはウィンディウルフの死体を片付け始めた。最近もよく冒険者活動をしているので、手際は良い。


「いや、この辺りにはいなかったはずだよ。もっと東に行かないと魔物の生息域には入らないはず。たまたま生息域から離れた個体だったとしても、遠すぎる」


「最近、今まで攻め込んでこなかった魔物が各地の村に一斉に襲ってきたんだよね? あれとなにか関係があるのかな」


「どうだろうね。とりあえず、今は先に進もう。マサミツに会わないとね」


 そういって、ウィルの小隊とサラは森の中を進み始めた。

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