第十八話 大鎌
ルシアンとイグナートが戦い始める少し前。
マサミツと魔族は互いに武器を持ち、向かい合っていた。
「お前、強いなぁ! 俺様ともっと戦おうぜぇ!」
魔族が手に持っている大鎌を振るう。斬撃が飛んでくるのを、【
「おわっ!? お前そっちから来るのかよぉ!」
大鎌で剣撃を防がれ、マサミツは一旦下がって距離をとる。
「俺はバディストって名前だ。お前はなんていうんだ?」
「マサミツだ」
名前を聞き、バディストの口角が少し上がった。
「よろしくな、マサミツ。……おらぁ!」
バディストが大鎌を投げる。回転しながら飛ぶため、斬撃が今までとは比べ物にならない個数飛んでくる。大鎌はまるでブーメランのような軌道を描き、マサミツの背後に回り、そしてバディストの手元に戻った。
正面から背後、次々と飛んでくる斬撃を全て【
「あー! バディストずるーい! 私が寝てる間にこんな強い奴と戦ってるなんて! あたしもやりたいー!」
突然、少女の無邪気な声がした。もちろん、この場にはマサミツとバディストしかいない。
「いいだろぉ! ちょー楽しいぜぇ!」
「いいないいないいなー! あたしにもやらせてよ!」
その声の主は、バディストが持っている大鎌だった。声色は、才人で例えれば十歳未満の少女だろうか。
「ったく、しゃーねぇなぁ。ほらよ、行ってこい!」
バディストが大鎌を軽く放り投げると、大鎌はふわりと地面に着地した。
「やったー! あたしは嫉妬の大鎌、インウィディア! おにーさん、よろしくね!」
大鎌が、生物でもない武器がまるで生物かのように自立し、話している。その光景は、かなり異様なものだ。
「嫉妬の大鎌……。言い伝えに登場する七つの罪器の一つか。実在したんだな」
罪器。この世界に七つあると言い伝えられている武具、書物のことを指す。それぞれが通常の魔法では再現できないような特別な能力を有していると言われている。
憤怒の戦鎚 イーラ
怠惰の大盾 アケディア
傲慢の長槍 スペルビア
暴食の首輪 グーラ
強欲の禁書 アワリティア
色慾の指輪 ルクスリア
嫉妬の大鎌 インウィディア
いずれも伝承にのみ登場するもので、一般的に、存在しないと考えられている。事実、マサミツも今の瞬間までそう思っていた。しかし、今目の前にあるあの大鎌は、間違いなく罪器だとわかる。それほど、異質なものに感じるのだ。
「わー、あたしのこと知ってくれてるの? 嬉しいな」
インウィディアは飛び跳ねている。本当に、心から喜んでいるように。
「それにしても、おにーさん強すぎ! 羨ましいなー、嫉妬しちゃうなー」
マサミツは警戒を解かない。構えたまま、インウィディアを見ている。
インウィディアが宙に浮き、仄かに発光し始めた。何か力を溜めているように見える。念のため、マサミツは魔力装を身に纏う。
「いっくよー! 【
インウィディアが宙返りし、斬撃を飛ばしてくる。【
ついに斬撃が壁を突破した。マサミツが全属性の剣で受け止めるも、その力は拮抗している。ギギギ……という音を立てた後、全属性の剣は切断された。先程まで、バディストが飛ばしていた斬撃とは格段に切れ味が違った。さらに、大きな斬撃に細かな斬撃を無数に纏わせているのか、そこから徐々に剣が消耗していったのだ。
幸い、全属性の剣が斬撃を相殺したため、なんの怪我もない。壊れた剣は作り直せばいいので問題ない。
それよりも。
……こんなに強い敵、どうして今までじっとしていたんだ?
今まで、これほど強い存在を聞いたことがない。七つの罪器はあくまで伝承上のもので、実在するなんて想像すらしていなかった。実在していて、それを魔族が持っていたのならば、今までにもっと活動を起こしているはずではないのか?
そんな疑問がマサミツの頭を巡る。
「わー、おにーさんすごい! 今の防げるんだー! じゃあ今度は直接行くよー!」
インウィディアが浮き上がり、空中で高速回転を始めた。そして、マサミツに飛び込んでいく。
マサミツは【
盾を持っている右手を突き出すと、高速回転しているインウィディアと衝突した。連続で刃が直接当たっており、腕に重い衝撃が伝わってくるが、盾が壊れる様子はない。
右腕をより強く押すと、インウィディアは回転を止めた。そして、静かに離れていく。
「おにーさん本当にすごいねー! バディストー! もういいよー!」
「お、満足したかぁ?」
すっかり座り込んで
「うん!」
「じゃあ、俺ら二人で行くか!」
バディストがインウィディアを手に持ち、近づいてくる。
「おにーさんの全て、切って切り落として切り刻んで切り捨てて切断して断ち切ってあげる!」
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