第三話 帰還

 ハンネローレの森の奥地。


 魔王城のふもとに多くの魔族が集まっている。

 この日、魔王エドゼルに代わり、新たな魔王が戴冠するため、戴冠式が執り行われるからだ。

 魔族達は城を見上げ、今か今かと待っている。


 すると城内から一人の女性が出てきた。

 その女性の髪は水色、毛先は紫色に染まっている。

 目の色は左右で異なっており、肌は灰色と紫色を混ぜたような色をしていた。


「ただいまより、新魔王の戴冠式を執り行う。新魔王様の御言葉」


 魔王城の中から一人の魔族が進み出る。

 その魔族の背中からは血にまみれたかのような大きな翼、頭からは大きな黒い角が生えていた。


「敬愛なる同胞達よ、私が第十一代魔王、グスタフだ。私が魔王となった以上、この国の勝利は保証しよう!前代魔王エドゼルの仇を討とうではないか!」


 会場が魔族の歓声で包まれた。みな、手を高く掲げ、拍手をしている。


「集え、強き者よ!今こそ反撃の狼煙を上げるときだ!」








 マサミツとオトハが街の外壁の東門に着いた。


 この街、テナシャエルは人族の国の一つ、カルデローネ王国の首都だ。

 海に近く、国の中心部にあるため物流がよく、商業が盛んである。

 街全体が巨大な壁で囲われており、魔物などの侵入を拒んでいる。


 街に入るためには入街審査が必要だ。

 マサミツはこの国の冒険者ギルドに所属している冒険者であるため、冒険者証の提示と、本人確認をすればいい。

 さらに、マサミツは勇者と呼ばれるほどの実績があるため、列を無視することもできる。


 しかし、オトハが列に並びたいとの事なので、並んでいる。


 マサミツがいると騒ぎになるので、彼は【隠密ハイド】の魔法を自身にかけた。

 この魔法をかけておけば、大抵の人は気づかないだろう。


「街に入るときは何をするんですか?」


「魔力波測定と、手荷物検査をしたあと、他の国の人なら入街許可証を発行してもらえば入れるよ」


「魔力波って?」


「この世界には大きく分けて人族、魔族、天族の三種族がいる。そして、それぞれの魔力には特徴があって、それを見ることで性別、 種族、さらには分類までわかるんだよ」


 分類とは種族をさらに細分化したものだ。

 例えば人族であれば、才人、創人、妖人などがそうである。


 しばらく並んでいると、順番がきた。


「次の方、どうぞー」


 二人は共に前に進み、検問部屋に入った。


「身分証明証を御提示ください」


 マサミツは【隠密ハイド】の魔法を解いた。


「マサミツです」


「マサミツ様! おかえりなさい! 帰ってこられたということは魔王を討伐されたんですね!」


 受付の女性が笑顔で言った。


「ああ。魔王というだけあって、本当に手強かったよ」


「魔王を倒したマサミツ様にはもう恐れる魔族はいませんね!流石です!」


 女性はまるで自分のことかのように喜んでいる。そして、何故か宙に向かってシュッ、シュッとジャブをしている。


「ところで、そちらの女の子は?」


「帰りに魔物に襲われている村で保護したんだ」


 すると受付の女性はなるほどといい、オトハの入場手続きを始めた。


 魔力波測定の結果、オトハは人族の才人のようだ。

 魔力波は感覚で大体わかるものの、たまに間違っていることがある。魔力波測定器は魔力波をわかりやすい図形で表してくれるので、明確でわかりやすい。


 オトハが分類された才人とは、人族の中でもっとも数が多い分類で、特に目立った特長はなくスタンダードといった風な人族だ。マサミツも才人である。


「これにて審査は完了です。問題ないですよ」


「ありがとう」


 二人は検問を抜け、街の中へ入る。マサミツはまた【隠密ハイド】を発動した。


 東門通りは他の門と比べると人通りが少ない方だが、それでも結構な人数が歩いている。

 道沿いには店が並んでおり、たくさんの声が響いている。


「まずは魔王討伐の報告のために国王の城へ向かおう」


「国王様? 私も行っていいんですか?」


「俺がいたら大丈夫だと思うよ」


 そうして王城へと向かおうとしたとき、後ろから声を掛けられた。

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