第二話 出会い

遠隔掌握リモート】で瓦礫を遠隔で持ち上げ、ひとつひとつ丁寧にどかしてやると、十五歳ほどの一人の少女が横たわって気絶していた。

 先程の声が振り絞った声だったのだろう。


 身体は瓦礫の下敷きになっていたので、怪我をしている。

上級治癒ハイ・ヒール】をかけてやり、しばらく介抱してやると、意識を取り戻した。


「あなたは……?」


「俺はマサミツだよ」


「っっ!!お父さんとお母さんは!?」


 辺りを見渡すと、2人倒れているのが見えた。

 マサミツがそれに気づいたとほぼ同時に、少女もそれに気がついた。

 ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと近づいていく。


「おと……う……さん……? おかあ……さん……?マサミツさん……。さっきの……。さっきの魔法をかけて!!」


 マサミツは言葉に詰まった。

 この二人には既に息がない。一度死んでしまった者を治癒しても、生き返りなどしない。


 だからといって、そう説明してもおそらく彼女は納得できないだろう。理解と納得は違う。

 マサミツは、彼女の両親に治癒魔法をかけることにした。


「【上級治癒ハイ・ヒール】」


「一番強い魔法を使って!」


「……【超級完全治癒ファイネスト・ヒール】」


 その瞬間、彼女の両親が濃い緑色の光に包まれる。

超級完全治癒ファイネスト・ヒール】は、マサミツが使える回復魔法の中で最も高位なもので、半径約1センチメートルから最大1キロメートル以内と範囲を変更することができ、範囲内の生物の傷を超高速で癒す魔法だ。その効果範囲が狭ければ狭いほど、治癒の速度は上がる。


 しかし、いくら強い治癒魔法でも、一度死んだ人間を蘇らせることはできない。


「なんで……なんでっ!」


「残念だけど……この2人はもう……」


「なんで……私だけでこれからどうすればいいの……」


「村の中央の広場に人が集まってる。そこに行こう」


 マサミツが少女の手を引く。

 するとその瞬間、少女は激しく手を振り払った。


「いやっ!! ……村の人たちは……私を受け入れないから……」


「どうして?」


「私が火属性持ちだから……忌み子だって言われて……。村中のみんなから邪魔者扱いされてるんです……」


 なるほど。だから村から離れた小屋にいたのか。

 しかし、火属性持ちが忌み子ということは……。


「もしかして、この村はメルトン村なのか?」


「え……? この村のことを知ってるんですか……?」


「まあね」


 昔、この村が出身の女性と冒険していたことがあって、村の話を聞いていたのだ。


 メルトン村にはその昔、火属性持ちの護衛兵がいた。冒険者ギルドから派遣された者だった。

 しかしある日の夜に皆が寝静まった頃、その護衛が村に火を放った。その炎はあっという間に村の全体に広がり、多くの村人が命を落とした。

 そのときからメルトン村では、外部からの火属性の来客は徹底的に拒否し、万が一にも火属性持ちの子が生まれた場合には忌み子として、村から追放していた。


 この子の家が村のはずれにあったのはそういうことで、両親は、娘の世話をするために村の外れまで通っていたのだろう。子どもを連れて村から出ていかなかったのは、何か理由があったのだろうか。


 しかしこの子の両親が亡くなった今、この子の面倒をみる人がいない。

 村にもいられない。


「なぁ。俺と一緒に街へ行かないか?」


「え?」


「この村にいても一人だと暮らしていけないだろ」


「そうかもしれないですけど……」


「無理にとは言わない。村に残りたいなら残ればいいよ。君が自分で決めることだ」


  彼女は決断しきれないようだった。


「……考えさせてください」


「わかった。でも、ここにいるのも危険だから今はついてきてほしい」


 そうしてマサミツと少女は村の中央へ向かった。


 村の中央には村人が集まっていた。

 魔物が倒されたことに喜ぶ者、けがをした人を治療する者、大切な人を亡くし、涙を流している者。

 かなりの被害が及んでいるようだった。

 そこへマサミツが近づくと、一人の村人が近づいてきた。


「あなた様が村を救ってくださったのですね!」


「ああ」


「ありがとうございます! 名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「マサミツです」


 その直後、人ごみの中から一人の年老いた男性が現れ、遅れて奥さんらしき女性も出てきた。


「勇者マサミツだと!? 火属性持ちじゃないか! さっさと村から出ていけ!」


「ちょっとあなた……村を救っていただいたのにそれはあまりも……」


「確かに村は助けてもらった。それは感謝する。だが火属性持ちなら話は別だ。出ていけ!」


「わかった。すぐに出ていく」


 そしてマサミツは振り返り、少女に話しかけた。


「君はどうする? 一緒に行くか?」


「はい……!」


  男性が彼女を見た途端、大声を上げた。


「お前、なんでこの村にいるんだ! 忌み子はさっさとでていけ!」


 少女は俯く。

 返事をする様子はない。


「とりあえず負傷した人達は回復させておいた。周りに魔物の反応もないから次の場所へ行く。警戒は怠らないようにしてくれ」


 マサミツは【広域治癒レンジ・ヒール】と小声で唱え、負傷した村人全員を回復させていたのだ。


「そんなことはわかっとるわい! さっさと行け!」


 マサミツが少女の手を握る。


「【輝翼飛行ウィング】」


 マサミツの背中から光り輝く羽が展開され、大空へ飛翔する。

 その姿を追い払うような態度で見ているものもいれば、突然現れ、去っていく救世主に心から感謝をする者もいた。



 飛行中───。

 マサミツは背中から光り輝く羽を生やし、少女と手を繋ぎ、腹を下にして飛んでいた。

 すると、少女が質問を投げかけた。

 

「どうしてこんなに早く飛んでるのに風を感じないんですか?」


「飛ぶ速さと同じ速さで風を起こしているだけだよ」


「じゃあ、私が今この姿勢で飛んでいるのも風魔法でやってるんですか?」


「そうだよ」


「マサミツ様はすごいんですね!」


 そう言うと少女はとても楽しそうな顔をしながら地上を見回している。

 両親が亡くなったというのに、もう平気なようだ。いや、平気では無いだろう。しかし、相当な精神力のようだ。


 マサミツも楽しみたいが、まだやらなければいけないことがあるため、そんな暇はない。

 各村を回って、被害状況を確認しなければならないのだ。


 幸い、森の中や、森の側に位置する村は多くはない。

 近くにある村からあたっていけばいいだろう。


 マサミツはその後、魔物に襲われている村を見つけては【光矢エメル・アロー】で援護し、【広域治癒レンジ・ヒール】で助けて回った。


 ほとんどの村の救助を終え、マサミツと少女は、マサミツが拠点としているテナシャエルへの帰路についた。



「そういえば忘れていたけど、君の名前は?」


「オトハです!」


「そっか。これからよろしく」


「はい!」


 元気に応えるオトハ。

 そしてここから、マサミツとオトハの旅が始まる───。

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