第二十三話 魔物襲撃の終結

 倒れていたクロウベアが起き上がり、咆哮する。直後、クロウベアの口元に【巨大闇球ラージ・オブエル・ボール】が作られていく。三人は撤退しようとするが、ウィルが動けないため逃げることができない。


「【高位衝撃風アドバンスド・ゲイル・インパルス】!」

「【氷障壁アイス・ウォール】!」


 少しでも被害を減らそうと、サラとアードルフが魔法で防ごうとする。しかし、先程までの戦いから、この程度では防ぎきることはできないことはわかっていた。

 クロウベアにダメージが溜まっているおかげか発射までに時間がかかっているが、すでに大きくなっており、今にも発射されそうな状態となった。

 その直後のことだった。辺りを強い光が照らし、その影響でクロウベアの【巨大闇球ラージ・オブエル・ボール】はかき消された。光源となっている上空を見るとそこには二つの人影と、巨大な光の剣が浮かんでいた。

 上空に出現した巨大な光の剣の影響によりクロウベアの闇の球がまるでろうそくの火を吹き消すかのようにいとも簡単に消えたのだ。それは、あの光魔法が強力であることを証明している。


「なん……ですか……。あれは……」


 アードルフが口を大きく開き、唖然としている。


「あの魔法……。それにあれは!」

「うん。マサミツだね」


 サラとウィルが口々に言う。それを聞き、アードルフが驚愕する。


「マサミツって……。あの勇者マサミツですか!? カルデローネ王国に仕えているという……」

「そうですよ」


 ウィルが肯定する。


 光魔法により、その場に未だ漂っていたクロウベアの魔力は完全にかき消されていた。そして、強力な光魔法にさらされているクロウベアは苦しみながら逃げていく。

 さらに、こちらに向かってきていたはずの魔物の魔力反応はいつの間にか消え去っていた。光魔法の力に当てられ、弱い魔物はかき消されたのだ。


「あれほどの魔法は初めて見ました……」


 アードルフが驚きの表情を浮かべながら言った。


「僕も初めてです」

「マサミツ……。いつの間にかあんなに強くなってたんだね……」


 サラとウィルも驚いている。昔パーティーを組んでいた二人でさえ、マサミツの光魔法に驚いていた。


「あ、クロウベアを追いかけないと! すぐに倒せると思うから、行ってくるね」


 サラがそう言って走っていった。


「僕たちも行きましょう」


 ウィルとアードルフが遅れてサラを追いかける。光魔法によりほとんどの魔物はかき消されていたため、クロウベアに集中することが出来るためだ。

 さらに、クロウベアは光魔法に当てられすっかり弱まっていた。逃げていく魔力反応から見ても、それは明らかであった。

 2人が走って追いかけても、サラとの距離は少しずつ離れていく。

 その時だった。

 空中にあった光の剣が、突如現れた空間の切れ目に飲み込まれた。それにより、辺りを照らしていた光は消え去った。



「あの魔法を飲み込むなんて……。一体マサミツはどんな相手と戦っているんだ……?」


 マサミツが放った光魔法は、明らかに常軌を逸するものであった。

 それをいとも容易く飲み込んだ相手は、それ以上の強さであると考える他なかった。

 走っていたウィルとアードルフが、サラに追いつく。空に浮かんでいた光の剣が消えたことにより回復し、クロウベアは立ち上がってサラに対峙している。


「大丈夫、私に任せて!」


 跳躍し、風魔法で速度を上げる。サラがクロウベアに近づき、手に持っていた短剣で斬りかかった。

 しかし、短剣の刃は霞を切っているかのように空ぶった。サラが斬りかかる直前、クロウベアが霧散していたのだ。

 先程消えたはずの光の剣がさらに魔力を増し、空に浮かんでいる。その増大した光の魔力により、クロウベアがその身体ごとかき消された。ウィルやサラの常識を大きく外れるほどの魔法がそこにあったのだ。

 空を見上げると、その剣身はマサミツの方を向いており、一人の魔人が対峙しているようだった。マサミツが放ったすさまじい魔力の光魔法を吸収し、魔力を数倍にも増大させ放っている。

 あれほど強い魔人がいるなど、ウィルは聞いたことがなかった。初めて出会う圧倒的な存在に驚くと同時に、それと同等に渡り合うほどに強くなったマサミツに驚いていた。それはサラも同じようで、空を見上げてただ眺めているだけだった。


「あんな魔法を放たれたらこの街は……」


 アードルフが言った。この街のルオラス自衛騎士隊としてこの街を守りたいが、あの魔法を前に何もすることができないのは本人が一番よくわかっていた。アードルフが強く拳を握っている。

 光の剣はマサミツに狙いを定めているが、彼が打ち消したとしても、その余波により街には甚大な被害が出るだろう。結界魔法を街全体に展開するにしても、陣形が整っておらず、さらに指揮を伝達することができないため、ほぼ不可能に近い。仮にできたとしても、即席の結界魔法であの魔法を防ぎきれるはずがなかった。


「避難した住民は⁉」


 ウィルがアードルフに問う。


「街の各地に用意されている地下シェルターに逃げているはずです。かなり強固な造りなので、命は守れるかと……」

「最寄りのシェルターは?」

「この真下にあります」


 ウィルは頷いた後、膝をつき手の平を地面に当てる。


地防護結界グラド・プロテクション!」


 ウィル達3人を囲むように半透明の茶色の結界が展開され、それがそのまま地面へと広がっていく。地下シェルターにも結界を張ったのだ。


「これでもう少しはマシになるでしょう。あとは……」


 彼はそういって空を見上げた。


「動き出した!」


 サラが叫ぶ。動き出した光の剣は少しずつ速度を増し、マサミツへと迫っていく。今のマサミツの実力がわからないサラ達には、彼を信じて託す他に選択肢はなかった。

 彼がこの街を守ってくれることを。


 六色に輝く防護結界が、マサミツと共に街全体を覆う。それはマサミツが展開したもののようだった。

 光の剣と結界魔法が閃光を放ちながらせめぎあう。ギリギリではあるものの、防御結界は光の剣を防いでいた。

 結界魔法は広範囲に展開するほど単位面積当たりの効果が手薄になる。街全体という広範囲に結界魔法を展開するのであれば、本来は複数人が各地点に分散し協力して展開するのが普通だ。しかし、マサミツは一人で防護結界を展開し光の剣を防いでいるのだ。


 光の剣と衝突している部分から結界に亀裂が走り、結界魔法は弾け飛んだ。

 やはり、たとえマサミツでも一人で展開した防護結界では防ぎきれないのか……。

 その場にいた者がそう思った直後、光の剣が霧散し、強大な魔力は分散した。先程まで覆いつくしていた閃光が収まり、静寂が訪れる。

 みな驚き、呆然としている。

 

「そうだ、生き残っている魔物はいそうかな? もう魔物の魔力は感じ取れないけど……」


 最初に言葉を発したのはウィルだった。それを聞き、サラも我に返った。


「いや、私もいないと思う。さっきの光魔法で全員かき消されたみたいだね」

「……ただ、魔物に襲われて怪我を負った人が多くいるようです。私はそちらを手伝いに行ってきます」


 アードルフに届いた音声通信でその旨が伝えられたようだった。


「お二人はどうされますか?」


 ウィルとサラに問う。


「私はアードルフさんと一緒に手伝いに行きます!」

「僕は部下たちと落ち合ったあと合流します」


 二人がそれぞれ言った。


「それではサラさん、行きましょう」


 三人はそれぞれ走り出した。魔物の襲撃によって人の気配が無くなっており、街は静まり返っている。

 多くの建物が損壊しており、復興まで時間がかかるだろう。

 しかし、その場に居合わせた者の尽力により、被害は最小限に抑えられた。

 こうして、ルオラス国への魔族襲撃は終結した。

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難攻不落の忘却魔法《オブリヴィオン》 おがめ @ogame0522

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