第二十一話 ウィル達の到着
ルオラス国に魔族が攻め入ってくるよりも前。
カルデローネ王国とルオラス国の国境付近。ウィンディウルフの討伐後、野宿をし一夜を過ごしたウィル小隊とサラは依然として捜索を行っていた。
「おはようウィルフレド。そちらの状況は?」
キール大隊長からの音声通信が届く。これは魔法ではなく、魔力波に音声を載せて送信するものだ。
「昨日、強力なウィンディウルフ一頭と遭遇。駆け付けた冒険者サラと協力し無事討伐しました。マサミツは未だ発見できていません」
「了解だ。おそらくヤツは既にルオラス国に侵入している。ここから一番近い街の現在の首都、ユーリガウムにいると予想される。サラ殿と共に検問を受け正式な手順を踏んで入国し捜索してくれ」
「了解しました」
自衛騎士隊が他国へ向かうということは戦争に発展しかねないが、大隊長の命令なので行かざるを得ない。
「大隊長より命令だ。これよりルオラス国の現在の首都ユーリガウムに向かう!」
「はい!」
ウィルフレド小隊、サラはユーリガウムへ向かった。
その道中、サラは先頭を歩くウィルに並び、話しかける。
「ねえウィル。マサミツってほんとに司教、マルク様を殺害したのかな。私にはそう思えないんだけど」
「僕も同感だよ。マサミツがそんなことするはずがない」
ウィルの目にはマサミツを信じるという強い意志が現れていた。それを見たサラの表情が曇った。うつむき、何か悩んでいるようにウィルは感じた。
「どうしたの?」
「私が司教様からの伝言を伝えなかったら、マサミツは国から追われることはなかったんじゃないかなって……」
歩きながらサラが話す。その目には少しの涙が浮かんでいた。
「そんなことないよ。それに、マサミツならこの程度の困難、簡単に乗り越えていけるさ」
「私、絶対マサミツを助けたい」
「僕もだよ」
それからしばらく歩き、ルオラス国の首都ユーリガウムがようやく見えるようになった。ルオラス国はほかの国に比べてもかなり盛んに国交を開いており、国境沿いに警備隊がいることはないが首都となると話は別だ。
「止まれ。その鎧はカルデローネ自衛騎士隊のものだな。どういう要件だ」
街門の前に立つルオラス自衛騎士隊の二人がウィル達を制止し、質問してくる。先頭に立つウィルが姿勢を正し、彼らに説明する。
「国への反逆者、マサミツがルオラス国に入国している可能性があります。捜索をさせていただきたいです」
それを聞いたルオラス自衛騎士隊員の二人はウィル達の前を塞ぐように斜めに構えていた長槍を垂直に立てた。
「そうか。通行を許可する。ただし反逆者を見つけても街の中で戦闘はしないように。国際問題に発展しかねない」
「わかっています。通行許可、感謝します」
ウィルは一礼し、街の門をくぐる。サラは自衛騎士隊員ではないため、ウィル達とは別で入街審査を行った。
「なんかあっさり入れたね。いくら宗派が変移派だといっても、他国の軍隊をこんなに簡単に簡単に入れちゃっていいのかな」
あとから街に入ったサラがウィルに追いつき、話しかける。
「まあ、これが変移派の教えなんだろうね。僕たちの善行派にはない思想を持ってて、僕は面白いと思うよ」
「こういうちょっとした思想の違いから戦争が生まれるなんて、なんだか悲しいね」
それからしばらく歩いたあとのことだった。街全体に結界が展開された。魔族以外の通行を遮断する結界と魔族を強化しそれ以外を弱体化させる結界の二つ。
結界が展開された直後、ウィルとサラは魔力装を身に纏う。自らの魔力を纏うことで結界の影響を受けないようにできるのだ。しかしこれは、かなりの魔力量と魔力コントロールの技術が必要になる。魔力装を使えるものは多くはない。
「あれ、ウィルも魔力装使えるようになったんだ!」
サラがウィルを見て言った。ウィルはサラに比べると魔法が苦手で、同じパーティにいるときはよくサラに魔法の使い方を教えてもらっていたのだ。
「ああ、サラに教えてもらったことを思い出してたくさん練習したんだよ」
ウィル達が入った門から魔物達がなだれこんでくる。冒険者や自衛騎士隊員にとってはさほど脅威ではない魔物だが、一般市民にとっては物凄い脅威となる。さらに今は結界により人族の身体能力などが低下している。逃げることですらできないかもしれない。
魔力装を身に纏うことのできないウィルの隊員たちも目に見えて弱ってしまっている。
「どうする!? 応戦する!?」
サラがウィルに問う。一刻を争う事態だがしかし、ウィルは首を横に振る。
「いや、ここはルオラス軍隊の到着を待とう。他国の中で武器を振るうわけにはいかない。住民の避難に徹しよう」
「わかった!」
幸い、ウィルとサラのもとに向かったのは魔物ではなく、逃げ惑う市民のみだった。ウィル達は大きな声で市民に声をかけ、避難誘導をした。その甲斐あってかスムーズに非難させることができていた。
「あなた達は?」
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