第二十話 魔族達の撤退
「ほらみろぉ! 俺とインウィディアならこんな魔法の対処なんて余裕なんだよぉ!」
「なるほど。でも、これならどうかな! 【
この魔法は名前の通り時を止める魔法だ。しかし、世の理に背くためには膨大な魔力が必要になる。それは、時を止める範囲と時間に比例する。つまり局所的に時を止めることなら可能となる。
マサミツは、大鎌を握りしめているバディストの両手の時を停止させた。これで手を動かすことはできなくなる。
「うおっ!? なんだこりゃぁ! 動かねぇ!」
バディストが手を動かそうともがくが、全く動く気配はない。時が停止しているため、当然のことだ。
マサミツはその隙にバディストとの距離を詰め、身体に身体強化の魔法を施しバディストの身体を押さえながら拘束魔法で拘束する。
バディストが拘束魔法とマサミツの身体による拘束で動けなくなったことを確認すると、マサミツは【
本当は時を止め続けたいが、膨大な魔力を消費してしまうため発動時間は極力少なくした方がいい。
「お前、なんで魔族を殺すんだぁ?」
マサミツに取り押さえられながら、バディストは突然質問した。
「魔族に大切な人でも殺されたかぁ?」
バディストがニヤニヤしながらマサミツを見る。その顔を見てマサミツはバディストをさらに強く押さえた。
「ああ、そうだよ! 魔族のせいで俺は家族を、そして大切な人までも失った!」
マサミツが叫ぶ。その顔は怒りと悲痛に溢れていた。バディストを押さえる手がさらに強くなった。
「俺から聞いたところ悪いけどよぉ、正直俺はそんなことに興味ねぇな!」
マサミツの背後が急に光り輝いた。振り返って見ると、そこには先程空間の狭間に吸い込まれたはずの、マサミツが創り出した光の剣があった。
「あたしの力で増幅させてあるよー! これはさすがに防げないでしょ! バイバイ! おにーさん!」
マサミツに光の剣が迫る。先程マサミツが創り出した光の剣から、威力、大きさ共に数倍に膨れ上がっている。避けることは容易だが、避けてしまえば街に被害が及んでしまう。どうしても守らなければならなかった。
「【
六色の防護結界が街ごとマサミツを覆う。インウィディアが斬撃を飛ばし、防護結界を破壊しようと試みている。
「無駄だぜぇ! この光の剣を止められるわけがねぇ!」
インウィディアが楽しげに言う。
……必ず守ってみせる!
光の剣が動き出し、防護結界と激しくぶつかる。凄まじい閃光が発せられ、二つの魔法がせめぎあっている。
「うおおおおおおおお!!」
防護結界が弾け飛んだ。しかし、それと同時に光の剣も霧散した。
激しい光を放っていたそれらが消え、まるで嵐が過ぎ去ったかのようにその場に静寂が流れた。
「まも……れた……?」
マサミツ自身にも何が起こったのか理解できない。先程の光の剣は、マサミツがかなり魔力を消費して創り出した魔法だ。それをさらに数倍に強化されたものを防げるはずがなかったのだ。
「おいおいおいおい! どーなってんだあれぇ!」
「あ、あたしにもわかんない! とりあえず逃げよっ!」
バディストが宙に浮いている大鎌を掴み、空を裂く。空間の狭間が生まれ、バディストはそこに入った。
「待て!」
マサミツが咄嗟に飛び込もうとするも間に合わず、バディストに逃げられてしまった。
「お前には俺を殺すことなど、できない」
イグナートが魔剣アブゾキュバラムを持ち、ルシアンに近づいていく。凄まじい殺気に気圧されルシアンは思わず後ずさりをする。これまでに対峙したこのない脅威、それを目の前に、ルシアンは立ち向かうことができなかった。
「おい、イグナート! 撤退するぞぉ!」
イグナートの背後の空間が裂け、そこから先程ルオラス城を真っ二つにした、大鎌を持った魔族が顔を覗かせる。
「しかし、罪器をまだ回収できていないぞ」
「勇者マサミツだ! あいつはやべぇ! 多分ここにもすぐ追いつかれる!」
勇者マサミツ。その名前を聞いてルシアンはハッとした。世界最強の人族。先日、魔王エドゼルの生体反応が何者かに倒されたかのように突如消失したと連絡があり、勇者マサミツが討伐したとの見解が立てられていた。
その勇者が助けに来てくれているとなれば、とても心強い。
「命拾いしたな。続きはまた今度だ」
そう言って、イグナートは跳躍し、空間の狭間に入っていった。
圧倒的脅威が過ぎ去り、ルシアンはホッと胸を撫でおろす。
「【
光がイグナートの姿をしたルシアンを包み、少年の姿へと変化させた。
直後、切断された天井の隙間から、マサミツが入ってきた。
「大丈夫ですか?」
マサミツは物音を立てずに静かに降り立った
「もしかして君は……勇者マサミツかい?」
「ああ。君は?」
ルシアンの少年の姿を見たマサミツが疑問を投げる。
「僕はルシアン。通りすがりの少年さ」
ルシアンは胸に親指を当て、胸を張って自己紹介をした。
「そっか。それにしても、無事でよかった。俺は外の人達の手伝いをしてくる」
マサミツはそう言い、踵を返し【
上空を飛びながら街の様子を見てみると、街を覆っていた結界は解除され、助かった人達が歓喜の声を上げているのが見える。高速で飛び、街の安全を一通り確認したところで、マサミツは【
治癒力は高くはないが、切り傷程度なら回復する。これで多くの人は回復できるだろう。
そしてマサミツは、オトハの待つ宿屋へと向かった。
「ご無事でしたか! ルシアン様!」
外に出てきたルシアンを見るなり、鎧を身に纏った、少しのひげを生やした男がそう言いながら近づいていく。ルシアンと共にイグナートを拘束したエリアスという男だ。
ルシアンの指示で街中の魔物を討伐していたが、突如逃走していったため、怪我をした国民の誘導をしていたのだ。
「ああ、エリアス。大丈夫だったかい?」
「はい。こちらに襲撃してきた魔物はなんとか討伐し、被害を抑えることができました。ただ、負傷者は多数出ているようです」
ルシアンが辺りを見回すと、怪我をしているものが多く見えた。
「僕達には治癒魔法は使えないし、まだ壊された建物の下敷きになっている人もいるかもしれない。助けに行こう!」
「はい!」
直後、街中が緑色の光に包まれた。周囲の人々の怪我がみるみる回復していき、安堵の声が溢れていく。
「これは……?」
「勇者マサミツだよ」
ルシアンが上空に指を指しながら言う。エリアスが空に視線を向けると、そこでは一人の男が治癒魔法を発動していた。
「あれが……勇者マサミツ……。なんと心強い」
「でも、勇者マサミツはカルデローネの冒険者じゃなかったかな?」
通常、冒険者ギルドは各国に存在し、他国領土での活動をすることはない。国同士で協力することもあるが、今はそのようなものはない。
「とりあえず、街の復興に尽力しよう」
「はい!」
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