第五話 金髪の獣人

 待合室に着き、マサミツはソファに座った。

 ウィルは部屋の端に立っており、そこにオトハが話しかけた。


「私、強くなって、冒険者になりたいんです」


「へえ、それはどうしてだい?」


「強くなったら、マサミツ様に守ってもらってばかりじゃなくなるからです!」


「それはマサミツも喜ぶね」


 そういいながらウィルは微笑んでいる。

 すると、オトハがこちらへ駆け寄ってきた。


「マサミツ様、冒険者になるために今度魔法を教えてください!」


「いいけど、冒険者になれるのは成人してからだろ。今は何歳なんだ?」


  この国では、冒険者になるには成人、つまり十五歳にならなければならない。


「私、あと二日で十五歳になるんです!」


「そうか。それなら、このあと練習してみようか」


「はい!」


 ふと、部屋の外からドタドタと近づいてくる足音がした。

 その直後、扉が勢いよく開き、一人の狐系の獣人の女性が叫びながら飛び込んできた。


「マサくん久しぶりー!!」


 マサミツがそれを紙一重で躱すと、女性はそのままソファに頭から突っ込んだ。

 それを見て、ウィルが声を掛ける。


「御無沙汰してます、ソフィアさん」


「ウィルくん! 大きくなったね!」


「前にお会いしてからそんなに変わってませんよ」


 ソフィアがオトハを見る。

 刹那、オトハの前にソフィアが移動し、頬と頬を密着させ、オトハの頭を撫で回した。


「なにこの子、かっわいー!」


「オ、オトハです……」


「よろしくね、オトハちゃん」


「ソフィアさん……でしたっけ?」


 そう言われ、彼女は立ち上がる。

 金髪に、狐のような耳と尻尾を持っており、胸は大きい。見た目の年齢は20代後半ほどだ。

 ソフィアは腰に両手を当て、胸を張り、身体を大きく見せた。


「私はソフィア・ヴィレーン。見ての通り獣人よ。この国の冒険者ギルドのギルドマスターをやっているわ」


 ソフィアは得意げな顔をしている。


「ところでソフィアさん、話があるんですよね」


「うん。ウィルくんとも話したいから王城まで来たの」

 そう言いながらソフィアはソファに座る。

 そして先程までの勢いはどうしたのか、神妙な面持ちになって話し始める。


「マサくん、どうやって魔王エドゼルを倒したの?」


「俺の出せる最大火力の魔法を叩き込んだ」


「それだけで死ぬなんて……。うーん……」


「何かおかしいんですか?」


 オトハが尋ねた。魔王が死んだことについて疑問を抱く理由がわからなかったからだ。


「エドゼルは不老不死の魔族だと言われているんですよね」


 ウィルが言った。それにソフィアが頷く。


「ええ。老いることも死ぬことも無い魔族だと言われているの。いくらマサくんが強いとはいえ、そんなに簡単に死ぬとは思えないのよ……」


 ソフィアが言った。魔王エドゼルは約百五十年前に魔王となり、ずっと魔族の王として君臨していた。その容姿は百五十年の間、変わることは無かったという。


「そもそも、なんで死なないんだ?」


 マサミツがそう言うと、場が静まり返った。

 このことについて、誰も知らないようだ。


 そもそも寿命は分類によって違えど、百五十年もの間容姿が全く変わらない魔族など聞いたことがない。


「関係あるかはわからないけど、似たことに一つだけ心当たりがあるよ。マサミツ、三年前のあの日を覚えているかい?」


 ウィルが悩んだ後、そう言った。


「……ああ。忘れもしないさ」


「あのときの魔族はいくら攻撃しても傷を負うことはなかったよね。不老不死とは違うようだけど……」


 三年前、マサミツ達のパーティーが出会った魔族には攻撃が全く効かなかった。攻撃しても攻撃しても、全く負傷しなかった。

 当時は思考がまとまっていなく、ギルドにそのことを報告し忘れていたが、よく考えてみれば全く負傷しないのはおかしい。どんなに強い魔族でも微かに傷を負うはずだ。

 マサミツがソフィアを見てみるも、そんな魔族は知らない、といった風な顔をしている。ギルドマスターほどの人でもこの事は知らないようだ。


「ウィルくん、その魔族は防御障壁を貼っていただけじゃないの?」


「いや、攻撃した感覚でも、魔法感知でも障壁を貼っていなかったのは確認しました」


「でも、俺の攻撃だけは効果があった」


 マサミツの攻撃でのみ、かろうじて傷を負わせることができた。

 そのことに驚きその魔族は逃げてしまい、追撃はできなかった。


「たまたまマサくんの属性が有利だったか、相手が油断していたか……どちらにせよわからないわね」


 また場が静かになる。

 疑問が疑問を呼び、解決しそうにない。

 そんな空気を壊すためか、ソフィアがパンと両手を叩いた。


「この話はここまでにしましょ。今話しても仕方ないわ。そんなことよりマサくん。オトハちゃんはどうするの?」


「それは……」


 マサミツがオトハを見る。

 今後のことはオトハが自分で決めることだ。


「私、マサミツ様と一緒に旅をしたいです!」


 オトハが決意を固めたように宣言した。


「でもオトハちゃん。マサくんと一緒に旅をするということは危険が付き纏うということだけど、大丈夫なの?」


「強くなって、守ってもらわなくても大丈夫なように頑張ります!」


 オトハがそう言うと、ソフィアが微笑み、マサミツの方を見た。


「決まりみたいね」


「ああ」


「それじゃ、久しぶりにマサくんに会えたことだし、私はそろそろ行くね」


 ソフィアが立ち上がった。


「俺達も行こうか」


 そうして四人は王城を出た。

 ウィルもソフィアも方向が違うのでここで別れることになる。


「ウィル、また会おう。元気で」


「マサミツこそ、元気で」


「それじゃあね、マサくん、ウィルくん、オトハちゃん。今度はゆっくり楽しい話をしようね」


 そう言うと、ソフィアは身をかがめ、跳躍し、一瞬で去って行った。風圧を顔に受けながらそれを見たオトハは、とても驚いた顔をしている。


「それじゃ」


 軽く手を上げ、王城を後にする。


 久しぶりにテナシャエルへ来ただけで三人の知り合いと会うなんて。またみんなでご飯でも食べよう。


 そんなことを考えながら、マサミツは歩く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る