第七話 会食
アンフィーサの隠れ家。
マサミツはここのパスタが大好物で、テナシャエルを拠点としていた頃はよく来ていた。
店内はおしゃれすぎず、質素すぎず、良い雰囲気を醸し出している。また、大通りから少し外れた場所にあるので人も多くない。
隠れた名店のような印象もまた好きなのだ。
二人が店に入ると。
「あ、マサミツー! やっぱりここに来ると思ってたよ。こっちこっちー!」
四人用のテーブルにサラとウィルが座っていた。
そこに座り、パスタを二つ注文する。
「マサミツ、テナシャエルに来るたびにこのお店に来てたもんね。今日も来るだろうなって思って待ってたら、ウィルも同じことを考えてたみたいで」
「さすが、よくわかったね」
「ふふーん、そりゃあ昔一緒に旅をしてたんだから、このくらい当然でしょ?」
サラがはにかんで言った。確かに、テナシャエルを拠点としていた時はよく食べに来ていたし、別の街を拠点にしている時も遠征任務でテナシャエルに立ち寄る時はここに来ていた。
ウィルが二人の会話をにこにこしながら見ている。
「こうやってみんなで集まってここに来るのも久しぶりだよね」
「うんうん、このまま明日にでもダンジョンに行きそうだよね」
店員がパスタを持ってやってきた。
「お待たせしました。カルボネーラ二つになります」
マサミツとオトハの前にカルボネーラが置かれる。
カルボネーラとは、チーズや卵などをつかったクリーミーなソースがかかったパスタで、ネーラという炭鉱夫が作ったと言われている。
マサミツは他のどの店のカルボネーラよりも、ここのカルボネーラが好きなのだ。
「そうだ、今度みんなでダンジョン攻略に行かない? オトハちゃん、そろそろ十五歳になるんでしょ? 実戦訓練も含めてさ。四人になったし、『六色の煌き』、再結成!」
サラが楽しそうに笑う。
実戦訓練はマサミツが連れて行こうと思っていたが、サラ達がいるならばより安全だろう。
「パーティーを組むには四人以上必要なんですか?」
「いや、複数人いれば大丈夫。でも『六色の煌き』は元々四人で活動してたんだよ」
「実はもう一人、イオっていう人がいたんだけどね。戦死しちゃって。それで私達は解散したの」
そう、『六色の煌き』にはマサミツ、サラ、ウィルの他にもう一人いた。
イオ・ロジェール。
金髪の人族、才人で、風属性持ちだ。しかしイオは光属性もよく使っていた。
通常、人族には光属性を使うことはできないが、一つだけ方法がある。それは、フィーデム教に入信し、修行して試練を達成すること。フィーデム教は世界で最も信徒の多い宗教だ。宗派によって違いはあるが、全ての宗派で共通していることが二つある。
フィーデムという神を崇めていること。
信徒には光属性が貸し与えられること。
光属性は回復魔法が簡単に使えるため、多くの人が入信している。
ほとんどの人は初級魔法に区分される魔法しか使えないが、イオは中級魔法まで使えていた。
信仰心が深かったのだろう。
また、イオは魔力コントロールが得意で、更に独学で魔法を練習していたので、他の人が使わないような魔法を多く使っていたのが印象的だ。
「……ごめんなさい。変なことを聞いてしまって」
「大丈夫だよ。もう過ぎたことだしね。ところでダンジョンにはいつ行く? 二人には予定があるだろうし」
「僕は
騎士隊は意外と忙しくないようだ。
「私は孤児院の予定は調節できるから、早めに言ってくれたらいつでも行けるよ」
「じゃあ三日後でどうかな」
三日後ならオトハも冒険者になって簡単な任務をこなしている頃なので、丁度良いだろう。
「わかった」
「はーい。それじゃあ私はそろそろ帰るね」
そう言いながら、サラが立ち上がる。
丁度、一足先に食べ終えていたマサミツに続いてオトハも食べ終わった。
「僕も帰ろうかな」
「俺達も行くか」
帰り道、途中まで道が同じなので四人で歩いて帰った。
もう外はすっかり暗く、月明かりと街灯が外を照らしている。
「あ、そういえばマサミツ。明日って予定空いてる?」
「夜は王城で宴会があるから、明るいうちなら」
「明日、シルヴィス教会に行ってくれる?司教様がマサミツに話があるらしいんだけど」
「わかった。朝に行くからそう伝えておいて」
「はーい。それじゃあ、私こっちだから」
サラが右の路地を指差す。
マサミツも左の路地を指差して。
「俺達はこっちだな」
「僕は王城に向かうから真っ直ぐだね」
そこで三人は別れる。
……シルヴィス教会の司教か。何の話だろうか。
そんなことを考えながら宿へ帰る。
部屋に入ると、オトハはすぐに寝てしまった。この一日で色々なことがあったので仕方ないだろう。
マサミツがもう一つのベッドへ。
魔王討伐をし、オトハ、サラ、ウィルと出会い……。重い責任を背負わず、みんなと気楽に過ごせる。
その些細なことがどんなに幸せなことか、当たり前のことで勇者と呼ばれる以前のマサミツは気づけなかった。
明日からは幸せを噛み締めながら過ごそう。
考えているうちに、マサミツの意識は眠りに落ちていった。
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