第十六話 転身
イグナートが足にグッと力を込め、地を蹴った。魔法を使っていない、純粋な身体能力でルシアンの懐に入った。ルシアンの首に剣を振るうも、ルシアンはのけぞってそれを紙一重で躱し、後退する。
右手を前に突き出し、魔法を使おうとするが、イグナートの魔力域のせいで魔法の発動ができない。
「避けるばかりでは勝てないぞ」
イグナートが力強く魔剣を振るうと、剣が纏っていた炎がルシアンの方へ広がった。
ルシアンは魔法を使えず、どうすることもできない。そして、少し後退した。
「これは使いたくなかったけど、そんなこと言ってられないよね!」
ルシアンが左手の手の甲を魔族の方に向け、胸の前に持っていった。
「行くよ、ルクスリア!」
左手の薬指につけられた、桃色で半透明の水晶玉らしき物が付いた指輪が光り、小さな魔法陣が展開される。
「いいわよルシアン。私たち二人で、あの魔族を可愛がってあげましょう?」
女性の艶めかしい声が響いた。その声がどこから聞こえるのかわからないイグナートは、辺りを見回す。しかし、声の主は見つからない。
「あなた、どこを見ているのかしら? 私はここよ」
イグナートがルシアンの方を見る。そして、理解した。その声の主は、ルシアンが着けている指輪からだった。
「「【
ルシアンと指輪が同時にそう言うと、魔法陣が発光し、ルシアンを包み込んだ。
光が収まり、姿を現したルシアンの身体は、元々のルシアンとは違うものだった。というより、それはイグナートの容姿そのものだ。放っているオーラも、何もかもすべて。
「なんだ、その姿は!」
イグナートが跳躍し、魔剣が纏う炎の火力を上げ、イグナートの姿をしたルシアンに斬りかかる。
「【
ルシアンの左手に水の盾が現れ、イグナートの魔剣を防いだ。しかし、魔剣が触れているところから、水の盾は少しずつ壊れ始めている。
「どうやって魔法を発動した?」
魔剣を水の盾に押し付けながら、イグナートが問うた。
「簡単なことだよ。この場が君の魔力で満たされているのなら、僕も君と同じ魔力を使えばいい」
イグナートの声で、ルシアンは答える。なおも水の盾は魔剣によって壊されているが、ルシアンが修復し続けている。
「わかったぞ。お前のその指輪、色慾の指輪だな」
イグナートが魔剣を押し付ける力を強めながら言った。
「仮にこれが色慾の指輪だとして、君はどうするの?」
ルシアンが口の端を少し上げながら、イグナートを挑発するように言った。
「お前を殺してでも、その指輪を回収する!」
魔剣を持つ手に強く力を込め、盾をはじく。その力を受け流すように、ルシアンは後ろに下がった。
【
イグナートが魔剣を振ると、氷が地面を伝い、まるで水晶のような形をした巨大な結晶が出現した
ルシアンは咄嗟に避け、氷を見る。それは、確実に自分の身体を貫こうとしていたことが見て取れた。
「氷なら、融かしちゃえば問題ないよね」
両手に持っている剣と盾を解除し、新たに【
「頻繁に武器を切り替えるとは、忙しい奴だな」
イグナートが魔剣を振り、氷の塊を出現させる。巨大な氷はルシアンめがけて一直線に進んでいく。しかし、ルシアンに届くことはない。
ルシアンに近づいた氷が一瞬で融けているのだ。
「さっきから属性が変わり続けてる君も大概じゃないかな?」
ルシアンが笑顔で言った。
それを無視するように、イグナートが再び距離を詰める。これまでよりも早い、数多の剣撃。ルシアンはそれを全て受け止めきることができず、身体の数ヶ所に傷を負ってしまった。更なる連撃により、魔剣と溶岩剣が強くぶつかった。ルシアンはそれをなんとかはじき、イグナートに後退させた。
ルシアンが溶岩剣を見ると、刃の部分が少し欠けていた。今、魔剣と溶岩剣を交わした部分だ。
「君の魔剣の能力、大体わかったよ」
イグナートの魔剣の氷が溶け、熱を帯び、赤く発光し始めた。
「斬った魔力、魔法を吸収して、剣に宿すんだね。水が氷になったってことは、ある程度吸収した力の制御ができるんじゃないかな?」
「ああ、その通りだ。これは魔剣アブゾキュバラム。斬った魔法、魔力を吸収し、それに己の魔力を混ぜることで制御している」
ルシアンの推測を、イグナートがあっさりと認めた。
「じゃあ、魔剣の能力もわかったことだし、本気で行くよ!」
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