第十四話「中級の魔獣を狩ろう! 黒猫が強力な戦力になりました」
翌日は前日の雨が嘘のように晴れ渡っていた。
今日からは中級の魔獣を狩るつもりでいる。中級は森の奥にいるため、早めに組合に向かい、情報収集を行う。
掲示板にある情報ではここノイシュテッター周辺にいる中級の魔獣は人型がオークと
だいたいの特徴だが、オークとリザードマンは数が多く、鎧熊と槍甲虫が防御力重視型、狂虎と鋼カマキリが攻撃力重視型になる。
群れを作るが単体で弱いのがオークだが、オーク狩りは効率が良いため人気が高く、他の狩人と競合する。
リザードマンはゼールバッハ川の岸辺近くにいるが、鱗が硬く武器の破損の可能性があり、あまり好まれない。同様の理由で鎧熊と槍甲虫も狩人に嫌われている。
狂虎は奇襲を掛けてくるし、鋼カマキリはこの辺りの中級では最強の魔獣だ。
「どれも一長一短があるな。ベルがいるから狂虎が一番楽かもしれないな」と呟く。
木の上から奇襲を掛けてくる狂虎だが、ベルなら事前に察知できるため、こちらが奇襲を受けることはない。
そんなことを呟きながら掲示板の情報を見ていく。
狂虎の情報はなく、あるのはオークとリザードマン、そして鎧熊の情報だけだった。オークは他の狩人と競合するし、リザードマンは川岸の見晴らしの良い場所にいるため大ぴらに魔導が使えない。消去法で鎧熊一択になってしまった。
「鎧熊にするしかないな」とベルに確認すると、
『今日はそれで様子を見るニャ』と同意する。
いつも通り北門を出て街道に入る。
街道をいつもより先に進み、森の奥である西に入っていく。
中級の魔獣は濃い
フォルタージュンゲルの森は“密林”と言われるほど植生が濃い。そのため、下生えの草や灌木が多く、身体強化を掛けている俺でも歩き辛い。
途中で掲示板の情報になかった中級の魔獣、
もちろん、俺にはベルという早期警戒システムがあるため、接近してくる前に準備を整えており、万全の態勢で黒犬を待ち構えていた。
敵が見えたところで黒犬の能力値を確認する。数値は一二〇/一六〇。さすがに中級になると銅級の狩人では荷が重い能力値だ。
能力の確認を終えるとすぐに“ブラスター”の魔導を放つ。
黒犬はその巨体を大きく揺らすものの致命傷には至らない。逆にダメージを受けたことで怒り狂い、若い木をなぎ倒しながら向かってきた。
迫力はあるものの能力値は俺の三分の一にも満たない。余裕を持って待ち構え、接近してきたところで迎え撃つ。
黒犬はその大きさと膂力を生かすために速度を落とすことなく突っ込んできた。しかし、動きが単調であるため、危機感を抱くことはない。回避しながら、黒犬の脇腹を渾身の力で斬り裂く。
黒犬はギャンという情けない鳴き声を上げて飛んでいき、俺の後ろにあった大木に頭から突っ込んでいく。
脇腹への一撃が致命傷だったようで、大木にぶつかった後、魔石を残して消えていった。
「この程度なら魔導はいらないな」とぼそりと呟いていた。
『そうだニャ。でも、念には念を入れておいた方がいいニャ』
「確かにな。下手に油断してケガをしても馬鹿らしい」
ソロであるため、安全マージンは多めに取っておいた方がいいだろう。
その後、下級の魔獣が何匹か襲ってきたが、すべて雑魚であり一撃で仕留めた。
掲示板にあった場所に到着するが、ベルの
『結構大物ニャ。さっきの黒犬の三倍くらいあるニャ』という緊迫したベルの警告が頭に響く。
「了解」と答えながら、どう戦うかシミュレートし、ベルに指示を出す。
「ブラスターで遠距離から狙撃する。威力は今までの倍にしてみるが効かない場合は接近戦に持ち込むつもりだ」
『おいらも攻撃に参加するニャ』
「どうやって攻撃するんだ?」と聞くと背嚢からもぞもぞと出てきて俺の肩の上に乗り、
『こうするニャ』と言って空中に円錐状の物体を出現させる。
一つが形になったところで更にもう一つ作り出した。
俺が疑問を口にしようとしたが、『射程に入るニャ』と言われ、鎧熊らしき魔獣に目を向ける。
まだこちらには気付いていないようで、悠然と魔素溜付近を四足で歩いていた。
その姿だが、名前の通り背中に棘の付いた鱗のような甲殻を貼り付け、鎧竜アンキロサウルスにそっくりだった。
よく見てみると腹側にも蛇腹状の甲殻があった。
「確かにあの甲殻は堅そうだな。腹側も生半可な攻撃じゃ弾かれそうだ……」
尻込みしていても仕方がないため、ブラスターの出力を今までで一番強力なものにし、鎧熊の弱点である頭を狙う。
いつも通り剣を銃に見立て照準を合わせると、一気に魔素を解放する。
ヒュンという音と共にオレンジ色のエネルギー弾が熊の頭に突き刺さる。次の瞬間、爆発し熊がよろめいた。
やったかと思ったが、熊は二度ほど頭を振ると後ろ足で立ち上がり、周囲に咆哮を放った。
俺の攻撃で怒り狂った鎧熊は攻撃してきた方向を見定めたのか、俺たちの方に向かって猛然と走り始めた。
拙いなと思いながらももう一度ブラスターを放とうと狙いを定める。
突然俺の頭の上から二条の光が熊に向かって伸びていく。
見るとベルが作り出した円錐状の物体からレーザーのようなビーム状の光線が発射されており、これが攻撃手段なのだと初めて理解した。
(いつの間にこんなことができるようになっていたんだ? それにしても宇宙世紀の全方位攻撃用の兵器じゃないか。ビ○トなのか? いや、形的には漏斗型だからフ○ンネルか……)
そんなことを考えながらも俺もブラスターを放つ。
ベルの二条のビームと俺のブラスターが交互に発射され鎧熊に突き刺さっていく。しかし、鎧熊は頭を低くし、最も頑丈な背中の装甲で攻撃を受けており、ダメージが通っていない。
あっという間に二十メートルくらいまで近づかれ、俺は接近戦に切り替えた。
肩の上にいるベルに向かい、「どこかに隠れていろ!」と命じると、剣を構えて待ち構える。
『了解ニャ』と言って飛びおり、近くの木の上に漏斗状の物体と共に上がっていく。
鎧熊はその間にすぐ目の前に迫っていた。
そのまま体当たりをかましてくるかと思ったら、突然立ち上がった。体高三メートルほどになり、強い圧迫感を受ける。鎧熊はそのまま人間の胴ほどある右前脚を大きく振りかぶると、俺に向けて振り降ろしてくる。
俺は左に飛ぶようにしてそれを避ける。
鎧熊の攻撃だが、動きは速いものの
左に跳んだことにより、がら空きの脇腹が目の前にあった。強化を掛けた膂力で熊の脇腹に両手剣を勢いよく叩きこむ。
(硬い!)
防御が薄いと思った脇腹でも俺の剣は硬い音と共に弾き返される。
鎧熊の攻撃を避けながら、何度か斬撃を繰り出すが、ことごとくその硬い甲殻に阻まれ有効なダメージを与えられない。
ベルも木の上からビームで支援してくれるが、ほとんど効いていない。
(弱点を探すしかないな。幸いこいつの攻撃は単調だから避けるのは難しくない……脇とか首とかの可動部分を狙うしかないか……)
しかし、弱点を狙うにしても敵に隙がないと防がれてしまう。
「五秒だけ敵の注意を引き付けてくれ!」とベルに向かって叫ぶ。
木の上から「ミャー」という了解の声が聞こえてきたので、集中力を高めながら魔素を更に循環させていく。
俺が魔素の循環に集中し始めると、ベルの武器――二つの漏斗状の物体が牽制するように敵の顔の前で円を描く。
鎧熊はその物体が鬱陶しいのか、二本の前脚を振り回し叩き落とそうとしていた。
未だに俺の方にも注意を向けているが、先ほどより散漫になっている。さすがに位置を変えれば正面に入るように向きを変えてくるが、それでも目の動きはベルの武器を追いかけていた。
俺がいけそうだと思った時、ベルの武器の動きが変わる。鎧熊を翻弄するかのようにひらりひらりと飛んでいたのが、突然真上に上昇したのだ。熊はその動きに釣られ視線を上に向ける。
(チャンスだ!)
そう心の中で叫びながら、強化を四倍にまで引き上げた身体のばねを使い、熊に向かって飛びかかった。
目標は喉元。真っ直ぐに構えた剣を熊の喉元に向けて突き出す。
鎧熊も俺の動きが視界に入ったのかすぐに反応し、身体を低くしようとした。しかし、その動きは僅かに遅く、俺の両手剣は敵の喉に深く突き刺さった。
それでも熊は抵抗を諦めず、俺を捕えようとでもするかのように両腕を閉じてきた。
その動きは予想していたため、剣から手を放し熊の胸を蹴って宙返りを行う。俺の真後ろで熊の太い両腕が閉じられるが、間一髪その
鎧熊は喉に剣を突き刺したまま、更に追撃しようとしたが、さすがに致命傷だったようで二、三歩前に出たところでつんのめるように倒れていく。
そして、ゆっくりと消滅していった。
何とか勝ったが、ギリギリの勝負で息が上がっていた。
三十秒ほど肩で息をした後、剣と魔石を回収する。魔石は今までの倍ほどの大きさで直径三センチほどだった。
回収を終えるとベルも木の上から降りてくる。先ほどの漏斗状の物体は消えていた。降りてきたベルはすぐに俺の肩に乗り、
『さすがは旦那だニャ! 中級でも大物のはずニャ!』と褒めてくれる。
珍しく興奮気味のベルを見て和みながらも、先ほどの戦いで使った武器について聞いてみた。
「さっきの武器は何だ? まるでファン○ルだったが」
『あれはファ○ネルじゃないニャ。漏斗型遠隔砲、トリヒターという名前を付けているニャ』
このネコは気が利くのか著作権に絡む微妙なところにも配慮してくれる。
「しかし、いつの間に使えるようになっていたんだ?」と聞くと、
『密かに練習していたニャ。最初は黒猫だけに肩から触手でもと思ったけど身体が軽すぎて攻撃ができなかったニャ。だから、宇宙世紀の兵器を参考にさせてもらったニャ』とドヤ顔で教えてくれた。
どうやら最初は古典SFの黒猫型生命体を参考にしようとしたようだ。出典元は犬の名前の宇宙船の方ではなく、
「それにしても二機も出せるなんて凄いじゃないか」と褒めると、小さく首を横に振り、
『五機まで出せるニャ』と言ってニヤリと笑う。
「なら全部出せばよかったんじゃないか?」
『全部出すと動きが雑になるニャ。まだまだ、おいらの空間認識能力は覚醒しきっていないニャ。時が見えるようにならニャいと……』
俺の記憶がベースとはいえ、中学生の頃そんな話をしていたなと思い出すと顔が赤くなる。ベルも分かっているようで不思議の国のチェシャ猫のような微妙な笑みを浮かべ「ニャー」と鳴いた。折角なので話に乗ってみた。
「俺にも使えると思うか?」とマスクの大佐のような低い声を作って聞いてみた。
すると案の定、にやりと笑い、
「旦那の才能は未知数ニャ。保証できる訳ないニャ」と答える。
「はっきりという。気にいらんな」と不機嫌そうな顔を作る。
「どうもニャ」と言ったところで二人同時に爆笑する。
こういう馬鹿話をできる相手がいるというのは心が休まる気がする。
無駄話はそのくらいにして真面目な話に戻す。
「いずれにせよ、ベルが戦力になることは分かった。だが、俺としてはベルと離れて戦うより、一緒になって戦う方がいいと思う。まあ、下級の雑魚なら別々の方が効率はいいんだろうが」
ベルの助言は実際役に立つ。俺の記憶をベースにしているため、助言される俺が理解しやすいことと、念話による会話であるため実際の会話より短くて済み、戦闘中でも注意が散漫になりにくい。
『そう言われると嬉しいニャ。でも、このトリヒターも使い方次第じゃ結構な戦力になるニャ』
そう言って一分ほど掛けて一機のトリヒターを作り出す。そして、三十メートルくらい先にある大きな岩に向けた。
何をするのかと思っていたら、そのまま体当たりし大きな爆発音と共に岩を砕いていた。
「そんな攻撃もできるのか。だったらさっきもやってくれたらよかったんだが」
『あれだけ近づくと旦那にも影響が出たかもしれないニャ。だから、やばくなるまで体当たりは使わないようにしていたニャ。それにビーム攻撃でエネルギーを消費すると爆発力は弱くなるニャ。おいらのトリヒターはビッ○タイプじゃなくてファ○ネルタイプだからニャ。充填したエネルギーを消費するだけなのニャ』
宇宙世紀のビ○トのように動力――核融合炉――を内蔵しているわけではなく、ファン○ルのように充填したエネルギーが無くなったら使い捨てるタイプのようだ。
「なるほどな。でもこれで戦術の幅が広がったな。俺の
いずれにせよ、鎧熊という防御力が高い魔獣を倒せたことで自信が付いた。これで上級の魔獣とやりあうことも可能だろう。
その後はここの魔素溜で中級の魔獣を狩り、その日は一日で二千マルクもの稼ぎがあった。
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