海のそば、森の奥

「……大丈夫だいじょうぶ?」

ぬのではないかとおもいました」


 とある海岸かいがん沿いのしろレンガの階段かいだんわたし一緒いっしょさき避難ひなんしていたレイレイ、そしてぼろっぼろの三人さんにんすわっていた。大分だいぶとおくまでげてきた。むらからも、おまつからもさらにとおところ。……ここどこかしら。

「オヤブンー」

なんだディーディー」

「オレたち、やっぱ才能さいのういッスかねぇ」

「あー、かもなぁ」

「そ、そんなことないわよ! あの堂々どうどうとした姿すがた格好かっこうかったよ! みんな

「……おなかすいた」

「あー、本当ほんとう大部隊だいぶたいせることができればこんなにあわずにんだッスよねぇ」

「ちょっ、おたしかに! めげないで! あの人数にんずうたいしてかすりきずだけでませたあなたたちすごいわよ!」

「や、これだけ連戦れんせん連敗れんぱいしちゃぁこころれるッスよ」

「そ、そうかもだけど! ホラ、あんな作戦さくせんおもいつくなんてディーディーやっぱり博識はくしき! っていいますか!」

「……」

「ドンクは丸太まるたまわして兵士へいしはらってて怪力かいりき! っていいますか!」

「……ぐす」

「ジャンはそのカットラスさばきがめちゃめちゃ格好かっこうかったっていいますか、その、何人なんにんもばっさばっさなぎはらってチョーかったといますか! その、なんといいますか!! みんなのそれぞれの才能さいのうかされるためにはこの少人数しょうにんずう一番いちばんいいといますか、なんだろう! うーん!」

 あー、あたまくちゃくちゃ! どうやってなぐさめれば!

「よしよし、よく頑張がんばった、ソフ。あとはおいちゃんにまかしとき」

 かかえたあたまをレイレイがすりすりなでてまえる。

 それに反応はんのうしたのはジャン。

「ん? おいて、レイ。いつの間になんだ、そのかたは!」

「おまえの『ジャッキー』とおな経緯けいいだよ」

「そ、それに! おまえさりげなくさわったな!? おんなさわったな!?」

「さっきからじゃねぇか」

「さっきからのも全部ぜんぶふくめて!」

「……、まいいやいいや、そんなことよりも」

無視むしスナ!!」

「おまえたちにとっていまなによりもこれ、だろ?」

 そうってしたのはおおきなバスケットにたくさんのきたてパン!

「「「「……!」」」」

 まだあったかい! ほかほかのにおいがする!

「おつかれさん、お前達まえたち昼飯ひるめしまだだったろ? ほらほら、きなだけってっていぞ! ただし、仲良なかよくな」

わたしふくめ)全員ぜんいんがきらきらっとひかる。一秒後いちびょうごにはみんなでバスケットにむらがっていた。

「ほい、ソフ、半分はんぶんこしよう。あったかいうちべな」

「わーっ! うれしいー!」

「ちょ、それはおれ役目やくめ――」

なにぃ? はっ! まさか、やきもちちゃん!?」

「や、それは……」

「レイレイって本当ほんとうにイロオトコ! きになっちゃいそう!」

「んがっ!?」

「マジー? じゃあ海賊かいぞくえなくなったらいつでもな? おいちゃんが世話せわしたるわ」

本当ほんとう!? ぜひきたいわ! またマカロンべさせて!」

「もちろん!」

絶対ぜったいダメダメダメ! ダメ!!」

「ん? なんででちゅか?」

「ぎく」

「あ! もしかしてこれもやきもちちゃんだからなんでちゅか!! かーわいいー!」

「テメッ……!! ひとをバカにするのもそれぐらいにしろ!」

「わっわっ! 冗談じょうだんでちゅわ、冗談じょうだんでちゅわっ! ギャアアア」

 ってるおおきなフランスパンはちゃんとまもりながらもついにレイレイにびかかり、(ほぼ一方的いっぽうてきな)いのケンカに発展はってんした。ドンクもディーディーもめはせず、このすき船長せんちょうぶんのパンをっている。

 ふふ、おかしな人達ひとたち。だけど大好だいすき。

「それにしてもありがたいひとッス! こんなにたくさんのパンをめぐんでくれるなんて……! かみッスか!」

「がめついは、うそだ」

「そうだよぉ、かみなんだよぉ。……もしかして気付きづいてなかった?」

かみッス!」

ほとけ!」

「ほほほっ、ほめ上手じょうずだねぇ。さ、こんなのそうそうないから、はやめにっちまえよ!」

「「はーい!」」

「――ん、あれ。おれのパンは!?」

「あ、クリームパンならべちゃったッス」

「コロッケパンは、おれ」

「はぁ!? ちょ、おまえらコノヤロ!」

 今度こんど二人ふたり船長せんちょうびかかる。

 われてることもわすれてなんともにぎやかな昼食ちゅうしょくひろげられる。コメディをおかずにパンをべてるみたいでますますたのしい。

 わたしはジャンのショコラフランスをこっそりげてやった。

「ちょ! ソフィーまで!」

「えへへ! かえしてごらーん!」

 平和へいわたのしいひとときながれゆく。


 ――それをみっつのちいさなかげとおくからつめているとはらずに。


 * * *


「あ、このメロンパンはオレがべていっスか!」

「どーぞどーぞ! 遠慮えんりょなく!」

「ちょ! おれぶん!」

こえないッスー」

 そのままぱくっとかぶりつき、船長せんちょういた。

 よしよししてやった。

「あ、じゃあジャン、このチョココロネべる?」

べる」

「ほらどうぞ」


 ――そのとき


 ピシッ!


「うわわッス!」

 一度いちどみっはなたれたパチンコだま全部ぜんぶ正確せいかく私達わたしたちのパンをとす。もちろんジャンのチョココロネももれなくとされた。

「アア! おれのコロネ!」

 としたパンをあたふたしながらろうとした瞬間しゅんかん、たくさんの野生動物やせいどうぶつたちせてくる!

なんなんだ!」

「……! ソフィー、こっち!」

 ドンクがディーディーをげ、ジャンとレイレイがわたしき、動物どうぶつたちなみにさらわれないようにする。

 と、その瞬間しゅんかんディーディーが「あーっ!」とさけごえをあげた。

今度こんどはどうした!」

「パン、全部ぜんぶぬすまれたッス!」

「「えぇっ!?」」

 おどろいてバスケットのなかると、たしかにいつの全部ぜんぶからっぽになっている!

 え、さっきの動物どうぶつたち仕業しわざなの!? まさか!

「クォラアアア! オレたちのパンかえすッスー!!」

 びょんとがったかとおもうと今度こんどは(いしんぼう)ディーディーがれをいかけはじめている。――って、ちょ! どこくのよ!

いかけるぞ、おまえら!」

「うん!」

「は、はしる?」

「ドンク、頑張がんばって!」

 一人ひとりいていくわけにはいかないのでみんなきずりながらディーディーたちいかけはじめた。

 そのままもりぐちけていく……。


 * * *


「ぜえぜえ」

「はあはあ」

 大分だいぶもりおくまでてしまった。あんなにいたはずの野生動物やせいどうぶつたちだが、いつのにかまった姿すがたせなくなってしまっていた。

「どこッスか! おらぁ、どこッスか!!」

「あー、いたいた」

「ひーひー、ぜーぜー」

 一人ひとりディーディーだけが元気げんきだ。さ、さすがディーディー……。

「や、ディーディー。もういない」

「チクッショー! 大事だいじなオレのパンがぁ!!」

 そうさけぶだけさけんでかれはばったりたおれこんだ。

「オレのパン……」

 かなしそうなこえでちっちゃくい、そのままかおせた。うう、ディーディー、かないで。

「や、おれきたいよ……おれのパン……」

 うう、ジャンもかないで。

「ほ、ほら! もうここまでちゃったんだし! なにさがしてみればつかるかもよ? ね?」

「そうはっても野生やせい動物どうぶつみなさんにのこらずわれちゃったじゃないか……」

「あ、あきらめるなっ! なに可能性かのうせいがあるかもじゃん! ホラって!」

「で、でもぉ」

 るとからだがコンブみたいにてろーんとしなった。ちょ、想像そうぞう以上いじょうにだらしないな!? アンタたち

「ちょいちょいちょい! 海賊団かいぞくだんさん! もっと希望きぼうってくださいー!」

無理むりざむらい」

「んん……どうしてアネキはそんなに希望きぼうてるんスか」

「どうしてって、またそんなこと……」

 もう……!

 もう我慢がまん限界げんかい。いつかみたいにこしてておおきくいきった。

「あきれた。あなたたちがそれをうとはおもわなかったわ! なさけないったらありゃしない!」

 それに一同いちどう見開みひらいておどろく。

「さっきもったけど! 三人さんにんだけでかう姿すがたとか純粋じゅんすい格好かっこういいっておもったし、幽霊ゆうれい作戦さくせんもそのトリックいたときはめちゃめちゃびっくりした。だってわれるまでわたし全然ぜんぜんづかなかったもん!」

「そ、そうッスか?」

「そうよ! さっきからってるじゃない! ――それなのにいまのあなたたちたら! パンがちょっとさらわれただけでそんなにションボリしちゃって! さっきとは大違おおちがいよ!」

「……」

「ね、おもして。サングイスはいつだって希望きぼうわすれなかったわ! どんな危機的ききてき状況じょうきょうおちいってもその知恵ちえ活路かつろ見出みいだして、かなら解決かいけつしていたのよ! かれにだって何日なんにちものはいらなかったときがあったわ。でもどうにかできていた! しかも三人さんにんよりずっとずっとおお人数にんずうやしなえるりょうもの用意よういして、ね!」

「そ、それは物語ものがたりなかはなしで……」

「あら! なにかに挑戦ちょうせんするのに物語ものがたり現実げんじつまりごとも関係かんけいあるかしら!?」

「……!」

「そ、それは」

大丈夫だいじょうぶ。あんな人数にんずう兵士達へいしたちかこまれておきながらかすりきずだけでんだ人達ひとたちがここにいるじゃない! 今回こんかいもきっと大丈夫だいじょうぶよ! ね?」

 順番じゅんばん三人さんにんってがらせる。

 もうだれすわりこんだりしなかった。

「そう、ッスね! きっとなんとかなるッスよね! あのおにヤバな状況じょうきょうからしたんスから! オレたち!」

「そうよ!」

なんとかなる」

「そうなのよ!」

「そして最終的さいしゅうてきにはパンを無傷むきずかえす!」

「そうよその意気いきよ! たとむずかしいことでもやってみなくちゃなのよ!」

「そうだ!」

「そうッス」

「うむ」

「ぃよーし。ちょうど全員ぜんいん無事ぶじ復活ふっかつしたところで! パンさが再開さいかいよ!」

 そのまま四人よにん天空てんくうげるように「エイエイオー」をする。そしてれつをなして動物達どうぶつたち足跡あしあと一生懸命いっしょうけんめいさがしまくった。

「ん! こっちッス!」

「さすがディーディー! そのまま案内あんないしてくれ!」

承知しょうちッス」

 私達わたしたちいままで以上いじょう団結だんけつしていた。――パンのために。


 それから多分たぶん一時間いちじかんぐらいはった。太陽たいようはすっかり真上まうえにのぼってきている。


「ア! このなかッス! このなかはいったッスよ!」

 ディーディーがそうって指差ゆびさしたのは……なんかツタにめちゃめちゃおおわれた石造いしづくりのデカイ建物たてものなんだろう、神殿しんでんっていわれても宮殿きゅうでんってわれても納得なっとくできちゃうようなすごそうなかんじ。

ぐち、どこ?」

「うーん……ここみたいッスねぇ。ちょっとたしかかめてくるッスよ」

わりぃな」

けてね!」

まかせるッス!」

 そうってひらきかけのおもそうないしとびら隙間すきまちいさなからだすべらせていく。

 どきどき。

「うん、大丈夫だいじょうぶそうッス!」

 OKサインが隙間すきまからびたのを確認かくにんしてから私達わたしたち協力きょうりょくしてとびらをもっともっとおおきくける。

 するとなかにあったのは――。


 * * *


 一方いっぽうほかひと相反あいはんしてそののこったレイ。

「おやおや……面白おもしろそうなことがはじまったネ」

 ほおづえをついてニヤリとむ。


「なぁ? そうおもうだろ? “そこのひと”」


 言葉ことばおうじてくさむらがかすかにれる。


「おい、おまえだれだ」


 人影ひとかげこたえない。

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