謎の遺跡

「おじゃましまーす――わぁ」


 その瞬間しゅんかんびこんできたのはちた教会きょうかいのような光景こうけい。ステンドグラスのったからっぽのまどからしこむひかりあたたかい。――でもあの大群たいぐんはどこにも見当みあたらない。

「おいディーディー! ちゃんとたどってきたんだろーな!」

「パンのにがかかってるのに間違まちがえるワケないじゃないスか!」

「んまあ、そりゃあたしかに」

「え、って。それって……えた、ってこと!? あの大群たいぐんが!?」

「いや、そと可能性かのうせいもある」

「それはない」

 たくさんのっぱをからだにびっしりけたドンクの登場とうじょうそとかくれた可能性かのうせいもあっけなくつぶれた。


 どういうことなの?


「なあ作戦さくせん係長かかりちょうー」

なんスか?」

「これ、どういうことだとおもう?」

「うーん」

 ひとしきりくびをひねってからまわりをきょろきょろ。

「ん」

 そうみじかってからふと、とあるかべほう近付ちかづいてった。

 よくよくながら「ふむふむへーほー」とかえしつぶやく。

「おいディーディー。なにがあったんだ?」

「ぶつぶつ」

「おーい」

「つぶつぶ」

 反応はんのうのない作戦さくせん係長かかりちょうにちょっとためいきをついて

「おい」

かたたたく。

 すると――!

「オヤブン!」

 をきらきらかがやかせたディーディーがいきなりジャンにびついた!

 な、なになに!

「これ、ひょっとしてひょっとするとなんスけど!」

「だ、だからなんだ! はやえよ」


遺跡いせき、かもしれないッス!!」


 ……。


「「「遺跡いせきー?」」」


 なによそのわくわくするひびきは!


 * * *


「で? なんでここが遺跡いせきなんだ、それと大群たいぐんと、なん関係かんけいがあるんだよ」

「そりゃあこのあやしい壁画へきがッスよ! きっとあの大群たいぐんはこのおくえたッス」

「は?」

遺跡いせきあるじあやつ動物どうぶつ使者ししゃ! このくにのパンをべたかったか、それかオレたちいざないたかったか!」

「あのなぁ」

「じゃないとおかしいじゃないッスか! だってあんなに統率とうそつれてるなんて人間にんげんとか神様かみさまとかがあやつってるとしかかんがえられないッス! だからオレたち遺跡いせきなぞかないとパンを救出きゅうしゅつできないんス!」

「おいおい、想像そうぞうがふくらみすぎてるぞ」

「そんなことないッスよ!」

「そうって、ただたんにこの遺跡いせきのおたから発見はっけんしてみたいだけだろ」

「はいッス!」

「テメッ、コノヤロ!」

 そういながらげんこつをしようとしたジャンをって、とめる。

なに

「ディーディーのってること一理いちりあるわよ、だってこの遺跡いせきなぞいてみないとからないこともあるってことでしょ? もしかしたら私達わたしたちみたいになにかトリックを使つかったかもしれないんだし」

おおいにあるッスね」

「……」

「それにげんに、えてるわけじゃない。あのかずもろとも」

同感どうかん

「……、……つけたければまえなぞけってか? しゃーねーな……」

 ドンクがこちらがわになったことでジャンもなびいた。よし。

 そうしてあらためてうわさの壁画へきがなおる。そこには――。

「……ねこ?」

 えがかれてたのはたしかにたくさんのねこ。

 あかみどりくろしろ、オレンジいろのもいる。いろとかもすこしずつちがった。

「ア! オヤブンてくださいッス! いかにもなやつがあるッス!」

「やたら元気げんきだな」

遺跡いせき探索たんさく隅々すみずみまで観察かんさつってまってるッス。さ、はやてくださいッス!」

「んん? どれどれ」

 そこにならんでいるのは――びっしりならんだアグロワ文字もじ

 うげ! めない!

「オヤブン、なんいてあるッスか?」

「んーと」


【アグロワのいきづくものよ、いまこそなんじおもせ。

 おとぎばなし子守歌こもりうた奇跡きせき出会であとき、そなたのもとかがやみちひらかれん】


「――だってさ。ふむふむ、遺跡いせきっぽいな、たしかにな」

「つまり?」

「アグロワにんでるひとおもしなさい。おとぎばなし子守歌こもりうた奇跡きせき出会であときかがやみちがあなたのまえあらわれるでしょう……みたいなかんじッスかねぇ?」

「おおーさすがはディーディー」

「えへんッス」

「それにしても、おとぎばなし子守歌こもりうた……? なに?」

たしかになぁ。それがからなけりゃなんにもできない……」

 そこで一同いちどう早速さっそくきづまってしまった。

 うーんとみんなでうなる。

だれなにってるか?」

「そうねぇ、おとぎばなし子守歌こもりうたってても……たくさんありぎてどれのことやらさっぱり」

「おまえらは?」

 二人ふたりくびをふるふる。

「とりあえずオレンジいろ黄色きいろのねこ、しておく?」

「えっ!? なんでッスか!? アニキ!」

「そうね。とりあえずはやってみないとかんないわよね」

「アネキまで!? ちょちょちょ、それこそ物語ものがたりみたいなわなとかあったらどうするつもりなんスか!」

「そりゃあそのときよ!」

楽観的らっかんてき!」

 えい! とちからいっぱいすとねこのはボタンになっていたみたいでおくほうでガコンとおとがした。

「あ! もしかしてた――」

あぶない!」

 その瞬間しゅんかんおもりジャンにうでられ、きしめられたかとおもうと地面じめんからジャキンと剣山けんざんしてきた!

 ひ、ひぇぇ……!

 四人よにんでひっしとくっつき警戒けいかいする。

「お、オレはちゃんとったッスよ?」

恐怖きょうふ

「こ、こここ、今度こんどからはちゃんとけるわ」

「や、最初さいしょからそうしろよな」

 デコピン一発いっぱつ

 うー……今回こんかいばかりはなにかえせない。


 そうしてすこ時間じかんがたった。

「で。かったひと

 しーん。

 ――そりゃそうだ。あんなのちゃえばね。

「そういう船長せんちょうは?」

「ん?」

なにかある?」

「んー……そうだなぁ。ちょっと、これかなってのはあるんだよ」

 え?

「なになに? おしえておしえて!」

「ちょい! がっつくな! ちゃんとせてやるから!」

 そうってとことこと壁画へきがまえあゆっていく。

 わくわく。

多分たぶん多分たぶんな? 多分たぶんだけど……」

 そうってえらんだのはすみっこのほうちいさくあるくろいオッドアイのねこ。

「これだとおもう」

「え? なんで?」

「や、まだ正解せいかいとはからないからなんともえないけど……ちょっとこわいからお前達まえたちがってろ」

がってまーす」

 まんしてくろいオッドアイのねこをぽちっとした。

 ――すると。

 ゴゴゴ……。

「わっ! 地震じしん!?」

「これはハズレなの? たりなの!?」

からん! とりあえずみんなかたまれ! 大急おおいそぎで!」

こわい」

 団子状だんごじょうになった四人よにんでぶるぶるふるえていると意外いがいなにこらず地震じしんまった。

「……」

「……わった、よね?」

わった」

「それと……」

なに?」

見間違みまちがいじゃなければ、だけど……まえ壁画へきがだったところいてる?」

いてる」

「え、ってことは……ってことはよ?」

「うん」

たってる? 私達わたしたちたってる?」

た……ってる」

「ッスね……!」

たってるわよね!」

たりだ!」

「「「ヤッタアアア!」」」

 三人さんにんでばしっとハイタッチ!

 まさか本当ほんとうひらくなんて! すごくうれしい!

 けたとう本人ほんにんはというと――あまりの展開てんかいにぽかんとしている。

「え、なに、ジャン大丈夫だいじょうぶ?」

「あんまり大丈夫だいじょうぶじゃない」

なんでよ」

成功せいこうしたから」

「ちょ、なに弱気よわきなことってるのよ! そこよろこところでしょ!」

「だってだって、いつもは失敗しっぱいしてたから……まさかひらくとは」

なによ。突然とつぜん大舞台おおぶたいこしかしちゃったわけぇ!?」

「い、いやぁ!? そーゆー、わけじゃ、ないんだけどさ……」

「ね、ジャン。いままで失敗しっぱい練習れんしゅうしてたわけじゃないでしょ? ちがう?」

「や、ちがわないけど」

「なら大丈夫だいじょうぶ自分じぶんしんじてみましょうよ! もしかしたらいまが『そのとき』ってヤツなのかもよ? ね?」

「で、でも」

わたし一緒いっしょについてくから! この遺跡いせきなぞみんなかしましょうよ。ね? きっといましかチャンスはいんだわ。まえかべいちゃった以上いじょうくしかないのよ!」

 ってほほみかけるとかれはふとかんがえこむ。そして心配しんぱいそうな表情ひょうじょうをくっと決意けついある表情ひょうじょうえた。

かった。やってみよう、やってみなくちゃからないよな」

たりまえでしょ? 結果けっかはやってからつくものよ」

「そうだな、そうだよな。――めた。おれやりげてみる」

「その意気いきよ!」

「うし! なん元気げんきた!」

「それはかった!」

 いきおいよくがってほか二人ふたりなおる。

「よーしおまえ面舵おもかじ一杯いっぱい!!」

「「「イエッサー!」」」

遺跡いせきおくかって出航しゅっこうだ!」

 元気げんきいっぱいに舟歌ふなうたとかうたいながら遺跡いせきおく四人よにんすすんでいった。


 * * *


「く、くらくなってきたッスね」

「たいまつをつけよう」

 えだ器用きようあつめ、そこらへんのツタでしっかりしばる。手持てもちのマッチをシュッとすって近付ちかづけると――おおっ、ついたついた!

「こういうのはてきしているえだがあるから、えだえらびは慎重しんちょうに」

「ほー。そういうのがあるの」

おぼえておくとなにかと便利べんりだぜ」

「ジャンってくわしいのね!」

 瞬間しゅんかんかおにして

「べ、べべべべ、べつに。たりまえだし」

とかいながらそっぽいちゃうあたり、可愛かわいい。

「それで……と、ここがまりか」

 ジャンがたいまつをちかくのうつわみたいな器具きぐ近付ちかづけるとなか木材もくざいうつり、やがてぐるりとほのお部屋へやまわりをかこって、全体ぜんたいらした。

「す、すごい……神話しんわみたい」

 おもわずこえがもれた。

 そうしてぼうっとかびがったのはさっきとよく壁画へきが

「またなぞかけがあるッスね!」

「ディーディー今日きょう本当ほんとう元気げんき

「だってアニキ、なぞ遺跡いせきッスよ!? 念願ねんがん遺跡いせき探検たんけんス、しかも危険きけんかけき! オレ興奮こうふんがおさえられないんスよぉ!!」

うれしさ満点まんてん

「もちろんッス!」

「それで、えーと……ここにもヒントがあるはずだけど……」

「あ、これッスね!」

 ディーディーの発見はっけんみんなかべかれた文字もじをしげしげ。あたまをかきかき。

「どう?」

「だぁーめだ。これは……レーヴ文字もじだな。ソフィー、れるか」

なに? レーヴ文字もじならおちゃのこさいさいよ!」

 でもなんでここにレーヴ文字もじ

 ジャンと位置いち交代こうたいすると、文字もじよりさきにどこかで見覚みおぼえのある紋章もんしょうおどろく。

「レーヴ王家おうけの、紋章もんしょう……? なんで」

「ん? どうした」

 すぐそばからジャンのかお至近しきん距離きょりでのぞいてきて反射的はんしゃてきくびをぶんぶんとってしまった。

「う、ううんううん! なんでもない!」

「そうか? じゃあはや解読かいどくしてくれ」

かったわ」

 えっと。


【レーヴのいきづくものよ、こいしきひとのよみがえり。

 のこした言葉ことばつむわせて、たどってみちびけ】


「レーヴにんでるひと恋人こいびとがよみがえります。かれのこした言葉ことばを……えっと、一緒いっしょにしてたどり、みちびきなさい……だそうッス」

恋人こいびと!? え、いないんだけど」

「いないのか!?」

「いないでしょ、いるようにえる?」

「や、あ、そうだよな。うんそうだよな、はあぁー……」

 ……なに地味じみにショックけてんのよ。いてしかった?

「そ、それに恋人こいびととかそういうのがかりにいたとしてよ」

「うん……」

だれんでないから。んだとしたらおばあちゃ――」

 いかけてふとまる。

「え、おばあちゃまのこと? これ」

「む!? そういうことなんスか!?」

「そっち?」

「でも……おばあちゃまはどっちかというと“あいしている家族かぞく”であって“恋人こいびと”じゃないのよね。それに――」

「それに?」

まえ壁画へきが関連かんれんでおばあちゃまからはなにいてないのよ」

 地図ちずにもえるまえ壁画へきがはさっきのよりみょうちきりん。ところどころにさっきのねことかおんなひととかおしろとか神殿しんでんとかがいてある。

 でもこれがなんになるの?

 こたえのないまま、またうなりはじめたとき


「なるほどな……“おばあちゃま”か」


 ジャンが意味いみありげなことを口走くちばしった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る