冴えてる船長

「おばあちゃま?」

「うん」


なんでおばあちゃまなの?」

「や、本当ほんとうはな? もっとうと、壁画へきがときからこう、なんっかかるとはおもってたんだよ。それが今回こんかいつながったというかなんというか」

「え!? ナニソレいてない!」

ってないからな」

 そ、そうだけど……。

 ちょ、な、なになんいてきぼりにされてる気分きぶんなんですが。

「え、なにがッスかなにがッスか! なにっかかってるんスか! なにがつながったんスか!!」

「ちょい、ディーディーけ! いい加減かげん! ちかいんだってば!」

 べったりくっついてくるディーディーをきはがしながらかれわたしかってすっとしてくれた。


「とにかく、説明せつめいしてやるから。ほらいよ」


 ――、――。


「まずはソフィーもになってるとおもう、このなぞ紋章もんしょう

「あ」

 まえにある“かぶとけん紋章もんしょう”――レーヴ王家おうけ紋章もんしょうほかには“主神しゅしんアドアステラの紋章もんしょう”――アグロワ王家おうけ紋章もんしょうもあった。

 これはどうしてアグロワ王家おうけとレーヴ王家おうけ紋章もんしょうおな遺跡いせきなかにあるのかっていう問題もんだいだ。

 ひとつだけならい。その王家おうけっていた遺跡いせきなんだってかる。また、アグロワ王家おうけ紋章もんしょうだけでもそれはそれでかる。いまいるくにはサルト・デ・アグワだからね。その王家おうけっているよってことでアグロワ王家おうけ紋章もんしょういてるんだってなって、それで納得なっとくする。

 でも問題もんだいなのはレーヴ王家おうけ紋章もんしょうもあるってことなの。たしかにこのふたつのくに隣同士となりどうし。でも、それはうみへだててのはなし。レーヴよりもちかくにあるくにほかにもたくさんある。結婚けっこんはなしだって、最近さいきん父様とうさまとお母様かあさまがこのくに王様達おうさまたちめたことだから、むかしから関係かんけいがあったかどうかはからない。

 だからなぞなのだ。

「それがどうしたの?」

うみへだてている、一見いっけんすると関係かんけいのないこのふたつのくになんだけど……たったひとつだけおたがいがまじわりう“とある出来事できごと”が、数十年すうじゅうねんまえにあったんだよ」

「でき、ごと……?」

「まだかんない?」

 そういながら壁画へきがのある一ヶ所いっかしょゆびした。それは謎解なぞときとは直接ちょくせつ関係かんけいないほう壁画へきが

 そこにえがかれているのはおんなひとおとこひとふねうえをつなぎうロマンティックな

 かれらのすぐそばにあったほか――細長ほそながいツタをつたってりるかれらの様子ようすて、あたまにふとよみがえるものがあった。


『どうしてもあのいたくなったお姫様ひめさま王子様おうじさま最後さいごにはまどからロープをたらして脱走だっそう! うみうえでもう一度いちどうことができたのです!』

『やったー!』


「おばあちゃま……」

「そう。この遺跡いせきはレーヴの女王じょおうとサルト・デ・アグワのおうのちくに王子おうじひめのためにのこしたものだ」


「そしてこのおくには“しあわせをねがうティアラ”、通称つうしょう魔法まほうのティアラ”がねむっている」


 * * *


魔法まほうの……」

「ティアラ……!?」

 その単語たんごみんないきをのむ。この遺跡いせき正体しょうたいかった瞬間しゅんかんまえ壁画へきがなんだか重々おもおもしいものにえてきた。

「もしかしたら紋章もんしょうだけではそううことはできないというひとがいるかもしれない。もまぐれだとひともいるかもしれない」

「……」

「でも確実かくじつ証拠しょうこはもうひとつある」

証拠しょうこ?」

世間せけんられる伝説でんせつでは魔法まほうのティアラはお姫様ひめさま子守歌こもりうた王子様おうじさまのおとぎばなしにしかこころひらかないとわれているんだ」

有名ゆうめいッスね!」

「え? そうなの?」

城下町じょうかまちでは常識じょうしき

 な、なんだろう。またいてかれたかん

「まあ、ってるかどうかはいといて。とにかく、文章ぶんしょうをどっかでたことあっただろ? ソフィー」

 文章ぶんしょう

 ……あ。

「あ! ぐちの!?」

「ビンゴ」


【アグロワのいきづくものよ、いまこそなんじおもせ。

 おとぎばなし子守歌こもりうた奇跡きせき出会であとき、そなたのもとかがやみちひらかれん】


 へえ……あのぶんにはそういう意味いみがあったのね。そのうわさとやらをいてからおもかえしてみるとなるほど、この遺跡いせきは“魔法まほうのティアラ”ねむ場所ばしょとみて間違まちがいなさそう。うんうん納得なっとく

「でもでも、ちょ、ちょっとって」

なに?」

「この遺跡いせきのことはかったわ。魔法まほうのティアラがねむっているってことで間違まちがいはないとおもうの。でも肝心かんじんなぞがいまだにチンプンカンプン。子守歌こもりうたとおとぎばなし奇跡きせき出会であうってどういうこと?」

「ふむふむ、そうだなぁ……。うーん、まずソフィーは子守歌こもりうたとおとぎばなしってなんことだかかってる?」

「えっと、多分たぶんだけど子守歌こもりうたっていうのはおばあちゃまがおしえてくれた、あの子守歌こもりうたのことよね? ってる?」

ってるよ」

「あれ、それじゃあおとぎばなしは? ここには王子様おうじさまはいないけど……」

 おろおろしながらそううたわたしていきなりジャンが暗黒あんこくみでふっふっふーとわらした。

 な、なによ、なんなのよ。

「な、ソフィー。航海こうかい初日しょにちおれなんったかおぼえているか?」

「え? かたいパンべてたことしかおぼえてないけど」

 一瞬いっしゅん沈黙ちんもく

「……それマジでってる?」

「マジでってる」

「……、……じゃ、じゃなくて、おれらはだれにもぬすめないとあるふたつのおたからぬすむことができる唯一ゆいいつ海賊団かいぞくだんだってっただろ!? ったよな!? おれ!」

「いいッ、いました! たしかにいました!!」

「なあ、それどういうことだとおもう?」

 最初さいしょはぽかんとしていたけれど、はなしながれが段々だんだんえてきたところでトンデモナイ結論けつろんえてきた。


「もしかして、ジャンって……おとぎばなし後継者こうけいしゃ!?」

しい! 海賊かいぞくだからな。後継者こうけいしゃじゃなくって――ぬすした、だ」


 キザったらしく胸元むなもとからまるめられたぶりのかみした。


「え」

「「「えええええっ!?」」」


 * * *


「さあ、なぞを――なぞを――、な――おい、おまえらうるさいぞ!!」

 まさかの事実じじつにメチャクチャおおはしゃぎしている私達わたしたちしのけてジャンは一人ひとり壁画へきがまえかった。

 そのあと三人さんにんでとことこついてく。

「さて、この壁画へきがまえ最初さいしょかけのはなしだが……」

「あれオヤブン、めゼリフはもういんスか?」

「……いまさらになれねぇよ」

 ジトッとこちらをにらみながらしばっていたひもをいてかみひろげる。そこには乱雑らんざつなアグロワ文字もじ一編いっぺん物語ものがたりかれていた――らしい。

「おとぎばなし子守歌こもりうた出会であうというのは、ってしまえば文字もじどおりのこと。つまり、この物語ものがたり子守歌こもりうたなか共通点きょうつうてんさがせばいんだ」

「それがオッドアイのくろねこだったの?」

「まあそういうこと。おとぎばなしなかではオッドアイのねこ、そしてソフィーの子守歌こもりうたにはくろねこが登場とうじょうしているんだ。それをわせれば?」

「――オッドアイのくろねこってことッスね!」

 ディーディーがぱっと花開はなひら笑顔えがおったのをジャンがほほみでかえした。

「そういうことだ」

「それじゃあまえ壁画へきがは?」


【レーヴのいきづくものよ、こいしきひとのよみがえり。

 のこした言葉ことばつむわせて、たどってみちびけ】


「これはおそらく女王じょおうむかし恋人こいびと、つまりサルト・デ・アグワの王様おうさまのこしたおとぎばなしのことをうんだろう」

「じゃあおとぎばなしわせて……」

「そう、壁画へきがえていけばいって寸法すんぽうだ」

 がり、をこきこきらしながらジャンは問題もんだい壁画へきがつめた。

 らされてぼうっとかびがるかげながびる。

「よし、それじゃあ――ドンク」

「お、おれ?」

「おとぎばなしんでいってくれ」




 むかしむかし。てんくにすみっこにつき女神様めがみさまがひとりぼっちでらしておりました。彼女かのじょだいのいたずらきで、てん王様おうさまはいつもいておりました。

 たとえば、神聖しんせいなお月様つきさま勝手かって怪獣かいじゅうとかおけとかのをらくがきしたり、毎日まいにちそのかたちすこしずつえては人間にんげんこま姿すがたわらったりしていたのです。




 おはなし内容ないようとおりになるようにジャンが慎重しんちょう壁画へきがえていく。どうやら壁画へきが所々ところどころがスライドしきかけになっていて、えることができるみたいだった。




 ある、とうとう我慢がまん出来できなくなってしまった王様おうさま女神様めがみさま一週間いっしゅうかん地上ちじょう追放ついほうしてしまいます。彼女かのじょ最初さいしょにたどりいた場所ばしょはとてもさびしい「つきいずみ」とばれるところで、ここでもひとりぼっちなうえ大好だいすきないたずらもできなくなってしまった女神様めがみさまかなしくてかなしくて一人ひとりでしくしくいておりました。それをきつけてやってきたのはとある廃墟はいきょにわ一匹いっぴきむオッドアイのねこです。

「どうしたの? あなたはどうしていているの?」

「私はつき女神めがみです。お月様つきさまにいたずらをしてたのしんでいたらてん王様おうさまおこってわたし地上ちじょう追放ついほうしてしまったのです」

「いたずら? どんないたずらをしてしまったの」

「まずはつきにいろいろなきました」

「まあ! そんなこと、いたずらではないよ。だってそれをひとびとは色々いろいろなおはなしかんがいた。ぼくはその素敵すてきなおはなしきながら毎晩まいばんゆめた。ぼくはそののおかげでとてもしあわせだった」

「でもそのつぎのはひどかったわ。お月様つきさま姿すがた毎日まいにちすこしずつえていたのです。あるとき一回いっかいもおそらにお月様つきさまさなかっただってありました」

「それもぼくにとってはしあわせな日々ひびだった! だってそのおかげで毎日まいにちぼくはちがうおそらたのしみ、やさしい月光げっこういだかれてねむることができた。つきないくらだったのでぐっすりねむることができたし、つきひかりがとてもつよときおかうえ花畑はなばたけがとてもきれいにえたんだ。――そうだ、これからはぼくと一緒いっしょらしてさ。いろんなことをしようよ。宝物たからものかくしてさがったり、よるにはお花畑はなばたけくんだ。本当ほんとう本当ほんとうにきれいなんだよ……」

 女神様めがみさまはねこの言葉ことばいて、自然しぜんとうなずいておりました。

 いままでだめだ、だめだとわれつづけてきたことがこんなにもだれかをしあわせにしていたことに気付きづけて本当ほんとううれしくおもったのです。

 それが女神様めがみさまをこのねこと一緒いっしょにいたいとおもわせていました。


 あるうみこうにふねをこぎして、うみそこ一番いちばんきれいな貝殻かいがらをねこにひろってあげたり、またあるはねこだけがっているあのつきひかり花畑はなばたけ一緒いっしょかけたりしました。

 そうしてかなしくごすはずだった一週間いっしゅうかんはあっというって、女神様めがみさまてんくにかえがやってきました。

 女神様めがみさまはおむかえがてもかえりたくなくていろんなところをねこと一緒いっしょまわりますが、とうとうめられてしまいます。

女神様めがみさま、おねがいです。一緒いっしょかえってください」

いやよ! そちらが勝手かってしたくせに。かえってきてなんて!」

「でもこれ以上いじょう女神様めがみさまがいなければ、お月様つきさま悪魔あくまたちにべられてしまい、あかつきになってしまいます」

 そうっているうちにおそらのお月様つきさまはどんどんけていきました。女神様めがみさまがいたずらでけさせていたものとはちがうもので、あれは悪魔あくまたちがむしゃむしゃべているというのです。

 いま女神様めがみさまがいないかわりにてん王様おうさまがお月様つきさまをおそらげているのですが、それでも悪魔あくまたちに対抗たいこうできるのは女神様めがみさまだけです。

 このままではねこの大好だいすきなお月様つきさまくなってしまいます。いま女神様めがみさまにとってこのねこがかなしむことだけは絶対ぜったい絶対ぜったいけるべきことでした……。

 そうしてまよいにまよった女神様めがみさま最終的さいしゅうてき悪魔あくまたちからお月様つきさまかえすことを決意けついします。――てんくにかえることにしたのです。

 ねこを一匹いっぴき地上ちじょういて。

「ねこ、ねこ。わたしてんくにかえってもあなたをわすれないようにします。そしてよるにはおかうえ花畑はなばたけつきいずみかなららし、まえみたいに姿すがたすこしずつえて、あなたのよるまもります。そしてお月様つきさまにはあなたのいてみんながあなたのことをれるようにおとぎばなしつくりましょう。そして満月まんげつにはあなたにいににわへとかならきます」

 こうしてお月様つきさま女神様めがみさまもどり、約束やくそくどおりお月様つきさまげました。

 そして、満月まんげつにはとある廃墟はいきょにわでねこがにゃーんとくそうです……。




素敵すてきなおはなし……」

 ドンクが物語ものがたりえたそのとき、ジャンの謎解なぞときも完了かんりょうし、かべおくからガタガタとおおきなおとってさっきみたいな地震じしんきた。

 そしてそのおくから姿すがたあらわしたのは、しろはなえがかれたかべかこまれたひろ部屋へや一番いちばんおくかべには夜空よぞらからつきとそのひかり。そしてそれにらされた女神様めがみさまとねこの姿すがたがあった。

 そのまえゆかにはレーヴ王家おうけ紋章もんしょう

 なにもしなくても心臓しんぞうがどぎまぎする。

 つぎわたしばんだ。


【アグロワのいきづくもの、レーヴのいきづくものよ。わかれた女神めがみかえりくる。

 かれらのゆめおとせ、つきこうにひびかせよ】


「……もうここまでりゃあ説明せつめいしなくてもかるよな」

 ジャンがやさしくんだ。

 こくんとうなずく。

 

 レーヴ王家おうけ紋章もんしょううえち、いきってき、じてくちひらいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る