ソフィー初めてのお祭

重要じゅうよう指名手配しめいてはいはん……!?」


「そりゃたりまえだろうがよ……!」

 そばを衛兵えいへいたちとおりかかったのを警戒けいかいしてジャックのあたま無理矢理むりやりげ、小声こごえでこそこそはなす。

「ど、どうして!」

「おまえー。このくに王子おうじ結婚けっこん相手あいて、しかもお姫様ひめさまはこんでおいてなにねぼけたことってんだよ!」

「あ、ああ、たしかに、たしかに……」

「おいおいこまるぜー! なぁかってんの!? おまえー! 最悪さいあく死刑しけいなんだぞ!?」

「イ!?」

「そりゃたりまえだろ、プリンセスだぜ!? プ・リ・ン・セ・ス! 普通ふつうつけた瞬間しゅんかんくにかえすもんだがな!」

「そ、そーゆーもんか?」

「おまえー、たのむぜー。そういうとこよー。そういうとこなのよー」

 ほっぺを細長ほそながゆびでつんつん、とつついてくる。

 へーへーわるうござんした。

「それで? そのウワサの彼女かのじょはどこよ」

「……なに質問しつもんめでこわがらせるか?」

「しねぇよ! おれだって空気くうきむさ!」

「……」

うたがうな! マジだから!」

「どーだか」

 ジトうたがいのまなざしだけはたもちつつ、「あそこ」とそのさき指差ゆびさした。しかしぴんときていないご様子ようす

「……?」

えない? ほら、あそこ。オレンジのボブヘアーの

美人びじん?」

なにいてんだよ! ホラ、あそこだってば――」

 そういながらそちらをおもわずあごがはずれそうになった。


「いない!!」


 * * *


「らんららんららー」

つかまえたっ!!」

「きゃん!」

 屋台やたいかこまれたみち。ソフィーはうしろからタックルした船長せんちょうによって地面じめんたおされた。

「おいおいおいおいー。ソフィアー? どこくのかなー? んー?」

「あ、あらあらジャン。奇遇きぐうだわねー」

奇遇きぐうだわねー……じゃねぇ! ってろってったじゃねぇか!」

「だってあさってしあさってー!」

「もうちょっとでわるし、一人ひとり出歩であるいたらあぶないから!」

「でもでも」

わけ無用むよう!」

「あーれー」

 ずるずるきずられていった。


「ぜーぜー……あのです」

「……もうすでにいないんだが?」

「……!?」


 とおくでソフィー! の一文いちぶんひびききわたる。


 ――、――。


「ぴーぴー!」

いたってだめ! ってなさいってってるじゃん!」

「しくしく……」

「な、ソフィー。いて。けっして意地悪いじわるしてるわけじゃないんだよ。ほら、色々いろいろ事情じじょうがあってだな」

「ぐす、ジャンなんか意地悪いじわるさんよ! えーんえーん!」

「だからさー……。うーん、おねがいだからかないでよー」

「ふんだ! ぴえーんぴえーん!」

 ドンクとディーディーに厳重げんじゅう見張みはらせてもまばたきのすき脱走だっそうし、椅子いすしばければ縄抜なわぬけし、くさりでつながれた直後ちょくごにはちかくのひとからチェーンカッターをりる始末しまつ

 ほとほとこまててしまった。まだ今後こんごどうするかとかの大事だいじはないができていないのに!

「ぃよーしかった! かったぞおじょうちゃん!」

「レイ?」

だれ?」

おれぁレイって言うんだおじょうさん。情報屋じょうほうやと、こいつらの借金しゃっきんりをやってる。レイレイってんで」

「レイレイ……」

「そそ。よろしく」

 にっこりされたをおそるおそるちょこっとにぎるとレイはそのままはなさず、わりに人差ひとさゆびにぎったをとんとん。

「な、なぁに?」

「ワン、ツー」


「スリー!」


 その瞬間しゅんかんなかなにかがジャラジャラはいってきた。

 え!? なになに!

「な、なにコレ!」

「フフフ。おいさんの魔法まほうだよ」

「まほー……!」

 おばあちゃまをおもしてむね高鳴たかなった。

「ほら。けてごらん」

 われるがままけてみると、そこにあったのは……数枚すうまい金貨きんか。キラキラしていてるからに貴重きちょうそう。

「……!」

「おいさんからのプレゼント」

「え!? え!? どうして!」

最初さいしょはな、おじょうさんがこのわるいおにいさんたち誘拐ゆうかいでもされたのかとおもったんだけどさ」

「おい」

てみたらなんだい。おじょうさんは自由じゆうたのしみがしかっただけなんじゃないか」

 にっこりわらってあたまをふわふわなでる。それにソフィーのかおがほころんだ。

「そうなの! それをこの人達ひとたち手伝てつだってくれてるの!」

「そうなんスか?」

「らしい」

「うむうむ! なるほど! これぞうつくしき友情ゆうじょう! おいさんは感動かんどうした! よーく感動かんどうした! ――そうだよな。過保護かほごおやから自立じりつしてとお異国いこくのおまつり参加さんかしてみたいよな、一度いちどはな!! かる、おおいにかるぞ! そういう少年しょうねん少女しょうじょ一度いちどそだてた経験けいけんがあるからおいさんはよーくかるぞ!」

「え、おまえこのまえ独身どくしんだって――」

「シー! シー!」

 まえ唐突とうとつおこなわれた証拠しょうこ隠滅いんめつ(?)にきょとんとしている。

「トッ、とりあえずはそういうことだ。こういうはなしはいつでもできるがおまつりいましかない。素敵すてき彼氏かれし一緒いっしょたのしんでいってことでおいさんからお小遣こづかいだ」

「え! いの!?」

「モチのロン! おいしいものいっぱいべて、おしゃれもうんとしてたのしんでい。それがきみしあわせならおいさんはよろこんで協力きょうりょくする」

「わーっ! レイレイ、ジャンよりひと!」

「だろ! おいさんは色男イロオトコだからな!」

「イロオトコ、素敵すてき!」

「レイレイな!」

 ぎゅうっといた少女しょうじょきとめ、もう一度いちどすりすりあたまをなでた情報屋じょうほうやはジャンにかってべーっとしたした。

 こっ、コノヤロっ!?

「そっ、ソフィー! そんなヒゲ親父おやじにいつまでもいてないでさっさとくぞ!」

 無理矢理むりやりきはがし、あいだってはいる。ついでにもぶんぶんっとく。

「おやおやっ!? かおあかいぜ? ねつか?」

「るせー」

病気びょうきならおいさんがわりにおまつりたのしんでやろうか」

「ウルセー!!」

冗談じょうだんだよ」

 いたずらっぽくわらうレイのむなぐらをおもわずつかみたくなった。そのとなりではソフィーがはじめておもたい金貨きんかかがやかせている。

「これ、おたから?」

「まあ、おたからみたいなもんスね。これで大体だいたいものなんでもえるッスよ!」

「すごい。レイレイってきっとえらひとなのね!」

多分たぶんそうッスね!」

姉貴あねきなにう?」

「お菓子かし!」

 そのとなりでは二人ふたりおとこたちがぼそぼそ作戦さくせん会議かいぎ

いか? ソッコーで服屋ふくやって伊達だてメガネとかサングラスとか帽子ぼうしとか、とにかくなんでもいからあたえて変装へんそうさせるんだ。いーな?」

かってるよ」

「それとすこしでもあののおかねうばったらどーなるかかってんだろうな? ジャッキー。おれかねだからな?」

かってるってば!」

「それと」

なに!」

「これは推測すいそくだが……王女様おうじょさまなんらかの理由りゆうがあってお前達まえたちについてったんだろ?」

「ん……うん」

なんだって?」

「……自由じゆうになりたいって。無理矢理むりやり結婚けっこんさせられるのもいやだって」

「ほう?」

「それこそ地球ちきゅうがひっくりかえっても火山かざん爆発ばくはつしても絶対ぜったい結婚けっこんしたくないってさ!」

 それにジャンとおなじように大口おおぐちけてゲラゲラわらった。

「なぁらなおさらだ! 世界一せかいいちたのしんでい。王女様おうじょさま自由じゆう時間じかんあたえてやれ」

「……」

「そういうのはこころ栄養えいようとなってのこるモンだぜ?」

 ウインクなんかしちゃって、まったくキザったらしい。

最初さいしょからそのつもりだ」

「ふふ。ならいんだよ」

「ジャンー! はやこうよー!」

「オヤブーン!!」

 ばれるこえうでかれて、うしろから背中せなかされて。ジャンのあしまえあゆはじめていた。


 * * *


「オヤブンー! まずどこからくッスか!」

「そりゃモチロン服屋ふくやだよ! ソフィー、なにたいふくはあるか?」

 いながらそばをたことのある金髪きんぱつとオッドアイがとおったがしてあわてて彼女かのじょうでいた。

「なぁに?」

「い、や? だからほら。になるだろ? この……民族衣装みんぞくいしょう、とか?」

 適当てきとうったのをしめしてせるとソフィーのひとみがぱっとかがやいた。

たい!」


「できあがりました」

 おみせひとれられて、ずかしそうにてきた彼女かのじょ姿すがた一同いちどういきをのむ。

「どう、かしら?」

 海沿うみぞいのくにらしいあかるい水色みずいろしろのワンピースがひらひらしていてとてもすずしげ。髪飾かみかざりのおおきな一輪いちりんはないアクセントになっていた。メークもばっちりだ。

「ちょっと、おしゃれぎかな?」

「や! すっげぇいよ!」

「……オヤブン?」

船長せんちょう……」

 子分こぶん二人ふたり反応はんのうにハッとしておもわず三発さんぱつせきばらい。

「あー、そのだな。その……感想かんそうはやめにっとかないといけなくて、だな」

 じーっとつめられてになる船長せんちょう最終的さいしゅうてきにはふいっとそっぽをいてしまった。

「「めろめろー」」

うな!」

 そんな三人さんにんながらおみせひととソフィーでわらう。

 お日様ひさまもニカニカわらっているみたいだった。


「ジャン、ジャン! て! 鉄砲てっぽう! 鉄砲てっぽう!!」

射的しゃてき! 鉄砲てっぽうだと物騒ぶっそうだろうが」

「ジャン! ジャン! ちいさなフラフープよ! ここには小人こびとるの?」

輪投わなげ!」

「ジャン! ジャン!! お菓子かしよお菓子かし!! チョコレートもある!」

しいのか? いくつ?」

全部ぜんぶ!」

「ばか!」


「ねえ! ジャン!」

今度こんどなんだ?」

て!」

 カフェのテーブルで一息ひといきついていたジャンをたのしそうなこえあたまげてそちらをると、ひとなかじってダンスをはじめていた。

「ちょ、元気げんきだな!」

「ジャンもおどりましょ!」

 あかるくはじける笑顔えがおがくるくるまわりながらこちらにばしてくる。

「や、おれは……」

なにってるんスか! くッスよ! オヤブン!」

義務ぎむ

「で、でも」

「じゃあおじょうさんおれおどりましょー!」

「アァッ! ちょ!」

「きゃっ! イロオトコ! よろこんで!」

「レイレイな!」

 まよっているうち横入よこはいりした情報屋じょうほうやにかっさらわれた。

 音楽おんがくってうっとりしている彼女かのじょをエスコートしながらまたヒゲ親父おやじがべーっとしたしてくる。

「おい! このやろ、一緒いっしょおどるのはおれだ!」

 あわててなかんでいった。

 子分こぶん二人ふたりがようやくくっついた二人ふたりてニマニマわらう。


 * * *


「あーっ!! たのしかった!」

おれはドッとつかれた」

なさけないねぇ、ジャンせんちょっ!」

「いやははは」

 こういうとき格好かっこうめなくてはいけないのだろうが……ちょっと体力たいりょくがない。

 や、この少女しょうじょ元気げんきすぎる。

「ね、つぎどここうか!」

「パンとかどうッスか! そろそろひるごはんッス!」

「コロッケパン」

賛成さんせい!」

 そうってきゃいきゃいはしゃいでいる三人さんにんかたをとんとん。

「もしもーし」

 かえったかれらがたのはちりっくずしかてこないからっぽのお財布さいふだった。

「ええっ!」

「もうビンボーッスか!!」

残念ざんねんながら」

「おまつり、キビシイ」

 がっかり四人よにんとくにソフィーのちこみようったら、ているのもつらくなるほどである。

「うーんどうするか……」

 あごにえてジャンは一人ひとりかんがえる。

 よこでソフィーが涙目なみだめでうつむきながら「ケーキ……みんなべたかったな……」とかっちゃうともうかなえてあげたくて仕方しかたない。とはいえレイもこれ以上いじょうはくれないだろうし、だからってあきらめちゃうのもなにちががする。

 となると……。

「よし、仕方しかたねぇ。ドンク、ディーディー。かせぐぞ」

 決意けついかためた様子ようす船長せんちょうがひざをぽんとたたいてがった。

かせぐ……ってまさか?」

「……!」

「ああ、そのまさかだ」

 お日様ひさまびてくろかげとなった船長せんちょう子分こぶん二人ふたり少女しょうじょがあおぐ。


俺達おれたち頭脳戦ずのうせん、ここでせてやろうじゃん」

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