第二章 魔法のティアラ

Bien Benido!! ここは神話と魔法の眠る国

「おいきろ!」

 ガンガンガンガン!!

 鉄製てつせいのフライパンをおたまでガンガンたたきながらジャックが耳元みみもとさけぶ。

 ハッときるともうほか二人ふたりのベッドはからになっていた。

「おまえ一番いちばん寝坊ねぼうだぞ、“ソフィー”」

「……!」

 その瞬間しゅんかん昨夜さくやのことが一気いっきにフラッシュバックする。


『それと、きれいだ』


なにぼーっとしてるんだ」

「いちゃちゃちゃ!」

 ちょ! いま、レイディーのほっぺをおもいっきりったわね!? コイツ!

なにすんのよ!」

なにおこってんだよ」

おこりたくもなる!」

「っていうかこの瞬間しゅんかんをおまえちわびてたわけだろ?」

「……へ?」

 げてたこぶしおもわずまる。

「どういうこと?」

 きょとんとしたわたしかおて、いたずらっみたいにジャンはふとんだ。

「ついてきな」

 ベッドをして、おも船室せんしつとびらける。

 まぶしい太陽たいよう一瞬いっしゅんがくらんで、それから――。

「……!」

 がやがやとした喧騒けんそうなつにおいがひろがる。

 わたしまれそだったくにとはまったく、なにもかもがちがうそこは……!


Bien Benido!!ようこそ! ここは神話しんわ魔法まほうねむくに!」


「そのも、サルト・デ・アグワ」


 うみこうがわ


 * * *


 ふねがゆっくりとみなと近付ちかづく。しろいレンガのみちにカラフルないえ立派りっぱ建築けんちくたいしてそのおくには緑色みどりいろもりひろがっていたりしていて、なんだか不思議ふしぎところほんなかでよく遺跡いせきみたいなはしらとかもあるし。

 なによりいたのは広場ひろばなかにある巨大きょだいなドラゴンのぞう。あれは?

「ここサルト・デ・アグワは世界一せかいいち分厚ぶあつ神話しんわ通称つうしょう『アグロワ神話しんわ』がつたわるくにだ。主人公しゅじんこう勇者ゆうしゃジャックとおとものドラゴンのフレディ、そして王家おうけ紋章もんしょうにもえがかれている主神しゅしんのアドアステラさま。そら、ちょうどまえ広場ひろばにあるドラゴンのぞうがそのアドアステラさまだ」

「へぇ」

 なるほど。なんだか素敵すてき

「それにしてもくわしいのね」

まれそだったくにだからね。今日きょうひさしぶりの帰国きこくってとこだ。――ほら、そろそろくぞ。ソフィーは衝撃しょうげきそなえろ」

「あ! なんスかなんスか! そのかた! なん二人ふたりあいだであったッスか!!」

「うるさいな、したかむぞ」

 びこんできたディーディーに苦笑にがわらい。そうこうしているうちしろ石畳いしだたみがまぶしいみなとについた。いかりをろしてふね固定こていする。

「あ、そうだ。まちまえにおまえにはこれをてもらう。そのうえからかぶるだけでいから」

 そういながら手渡てわたしてきたのは侍女じじょていたようなエプロンきワンピース。マーガレットが刺繍ししゅうしてあるから多分たぶんドンクがつくったのね。

「ほうほう、承知しょうちした」

「うむうむ、よろしい」

 ……。

「で、なんで?」

「そりゃアレがあるからな」

「アレ?」

「ほら」

 あごでされたこうがわると……なにやらガヤガヤにぎやかしい。レーヴ王国おうこくでもたあのとりどりのランプがあざやかだ。

 あれって……。

「もしかして……おまつり?」

海賊かいぞくとかうたがわれながらまわりたくはないだろ」

「……! れてってくれるの!?」

 のぞきこんだかおはとても満足まんぞくそう。

 うそ、ホントに!? ヤッター!!

大好だいすきー!!」

「コラコラ! くなってってるだろ!!」

 あかかおわたしきはがしてから一発いっぱつせきばらい。

「ゴホン――ほら! そろそろくぞ! 民衆みんしゅうにお着替きがられたくなかったらはやくかぶりな!」

「う、うん!」

 あわててスカートにあたまっこんで、ふなべりにいた。

 ああ、なんでこんなにどきどきしているんだろう!


 * * *


「わぁー……!」

 まんしてしろみちつと、なつにおいがとくつよかおった。むねいっぱいにいこんでいろあざややかにかざられたまちをうっとりながめる。あー! はやはしまわりたい!

いろいろなくにからおきゃくてるみたいッスね。これならぬすみがしやすくなるッス!」

「さすがはおまつり

 三人さんにんとお様々さまざまくにはたがあちこちでひらめいて、たくさんのひとびとでとおりはごったがえしていた。

 そのなかでも一番いちばんおおいのはあかはたに、クロスしたけん紋章もんしょうはた

「あのはたは?」

うわさのクライシス王国おうこくはただな」

「へえ!」

 でもどうして?

「そりゃ行方不明ゆくえふめい王子様おうじさまわりとして王子様おうじさまになったのがクライシス王家おうけのとこのすえだからッスよ。大事だいじ王子おうじ結婚けっこんいわいだってことでクライシス王国おうこくえら人達ひとたちがいっぱいてるんス」

「ふーん。なんかんないけどあやしいがしちゃう」

「ま、スパイのうわさもあるッスから。わるいイメージがいちゃうッスね」

「あ、ってる! あれでしょ? からだのどこかに『クライシス王国おうこく紋章もんしょう』がきざまれてるっていう……」

「そうそう、それッス」

「スパイ、くに魔法まほう使つかいにあやつられてるうわさもある」

「ひぇ! それマジだったらさらにヤバいッスねー」

「とにかくうわさはないからさ。わせるなよ、お前達まえたち

 そうっておきながら早速さっそくどっかにこうとする船長せんちょう。お、おい、ちょ、おまつりは!? おまつり!!

「ね、ねえ! ジャン!」

大丈夫だいじょうぶ! すぐもどる! だからってろよ! ――ドンク、ディーディー。ソフィーからはなすなよ」

「ほーい」

 もー! レイディーをほうっておくな!!

「ちょ、え、オ、オヤブン! なにしにくんスか!?」


「ツケの交渉こうしょう……」

「あー……」


 ちょ、なになんはなしよ。


 * * *


 船員せんいんたちのこしてきた船長せんちょうがとあるみせのテラスせきこしかける。新聞しんぶんんでいるサングラスのおとこ相席あいせきだ。

「へー。となりくに泥棒どろぼうかー、ふーん」

「あ、あはは。こんにち、は」

 あせをだらだらながしながらはなしかけるジャック。

なになにー? お手柄てがら教育係きょういくがかり撃退げきたい成功せいこうねー。ふーん」

 しずかに新聞しんぶんりたたみ、たばこをちょっとった。コーヒーもすする。くろなブラックだ。

 いづらい。非常ひじょうにいづらい。

「へー、物騒ぶっそうこともあったもんだね、泥棒どろぼうさんはこわいねー」

 サングラスをちょっとかたむけたおくからエメラルドグリーンのひとみがじっとている。ジャックのよりちょっとだけいろふかい。

「ねー、ジャックー」

「……」

「んー? いてるのかな? ジャック・ド・アグロワぁ」

「……」

 いつもしたしみをこめてジャッキーってんでくれるのに、今日きょうかぎって本名ほんみょうとか。絶対ぜったいおこってるし絶対ぜったいこわいやつじゃん。

「……」

「……」

 くちわらってもわらわないもん、絶対ぜったいおこってる絶対ぜったいおこってる絶対ぜったいおこってる。

 コーヒーカップがソーサーにかれたカチャンというおとひびく。

「なぁ、ジャック」

「は、はい。なんでしょうか」


「またおまえ肝心かんじんなところでおれ情報じょうほうわすれたな!?」

「スイマセンデシタァッ!!」


 あたまけるほどのいきおいでげたのを今日きょうかれはためいきをついた。かれ名前なまえはレイ。情報屋じょうほうや茶髪ちゃぱつ無精ぶしょうひげがかれのトレードマーク。それしかおしえられていないが、たまにたことい(大体だいたい攻撃力こうげきりょくたかそうなヤツ)ものあるいているのだけはっていた。発明家はつめいかぐんえらひとか。その正体しょうたい興味きょうみきない。

いてますかー、ジャック・ド・アグロワ」

「ひゃいっ! いてマシュっ!」

 のぞきこんできたドアップのかおからだがこわばる。

「……」

 うー、そんなないでくれよ!

「なー、ジャック? おれはな? 本当ほんとうやさしいんだよ。なぁ、ジャック」

「……」

「ちゃんと情報じょうほうどおりにうごければおまえ情報料じょうほうりょう以上いじょうのおかねれてるはずなの。ちゃんと海賊かいぞくだけできていけるはずなの」

「……」

「ね? ジャック・ド・アグロワ」

「ごもっともです」

「どうして最後さいご最後さいご毎回まいかいやらかすんだよ! 学習がくしゅうしろ!」

「ウアアア!! スイヤセン!!」

「このやろっ!! 今日きょうという今日きょうはツケてやんねぇぞ!」

「イチチ! あたまぐりぐりはノーセンキュー!」

 一通ひととおあばれて、二人ふたり大人おとなしくせきについた。

「あー、ところからかねはしぼれねぇからなぁ」

本当ほんとうもうわけなくおもってるんでございます」

「じゃあもうい。今回分こんかいぶんはおまえ秘密ひみつ支払しはらえ。それでゆるしてやる」

「はぁ!?」

なんだ? 文句もんくあっか!」

「や、ないでしゅ」

 にらまれてちいさくなったジャックをジトながら再度さいどたばこをくわえた。けながらもたれによりかかる。

 けむりいた。

いんだぜ、はなしてくれても。

「……や、だけは」

「じゃあいだ“おとぎばなし”でもい。はなせばいままでの情報じょうほう十個分じゅっこぶんがタダになる」

「……あはは、天気てんきですね」

「いい加減かげんにしろ。今日きょうという今日きょうなにってもらうぞ」

 もぞもぞごまかしながら、レイの追求ついきゅうたくみにかわしていく。

 らちがかないと判断はんだんした情報屋じょうほうやしぶ船長せんちょうかた突然とつぜんつかんだ。

「なぁジャッキー、かんがなおしてみろ。おまえ不思議ふしぎ存在そんざいなんだよ」

 おどろいたジャックがひらいたかれかおをじっとた。

いままで海賊かいぞく経験けいけん知識ちしきしに?」

「……」

突然とつぜんあらわれた海賊かいぞく船長せんちょう

「……」

「カットラスでのたたかいは天才的てんさいてき上手うまいのに、ほか大事だいじところはてんでだめ。最初さいしょふねでの生活せいかつすらままならなかった。おかしいだろうが」

「……」

きわめつけはその“眼帯がんたい”だ」

「……」

「なぜはずさない」

 じっとするどひとみつめ、しずかにそうった。

「……ってるんだよ」

本当ほんとうにそれだけか? ならなぜとき風呂ふろときも、人前ひとまえだとはずさない?」

「……」

こえないふりか」

「……っ、そういうわけじゃ」


いんだぜ? なら最後さいごはずしてたしかかめるから」

「……!」


 あきらかにジャックが動揺どうようする。

「な、ジャッキー。さすがに“おとぎばなし”をおしえろとはわないよ。だが、それならばいだろう」

「……」

今日きょうのおだいはそれでまりだ」

「……」

え」

 世界せかいすべてからおとくなったような感覚かんかくおそわれる。


 ……。


「あっ、あーあー! あります! まだてない情報じょうほうが!」

 大声おおごえしてわざとらしく周囲しゅうい注目ちゅうもくあつめた。

「……」

 これ以上いじょう追及ついきゅうがしづらくなった情報屋じょうほうやがる。

 あぶなかった。

「で? なんだよその情報じょうほうって」

一昨日おととい親知おやしらずがえそろいました」

「テメッ――」

「あ、あー! あー! それじゃなかった! それじゃなかった!」

「アァン?」

「その! そのがッ!」

 いきおいで新聞しんぶん一面いちめん指差ゆびさす。そこにはデカデカと「レーヴ王国おうこくのプリンセス、行方不明ゆくえふめい」といてある。

「……!」

 レイの見開みひらいた。

「おまえ、まさか……?」

「ハッ! や、ちが、その……」

 ってすぐに後悔こうかいした。

「おい、いまどこにいるんだ!」

だれが……?」

「このが!!」

 ――だって絶対ぜったいいついてくるもん、こうやって!

 こいつがいついたら絶対ぜったい質問しつもんめしてくるはずだ。そしたらソフィーはこわがるにまってる! 第一だいいちおれときがそうだった! こわかった!

らないですらないですらないです!」

うそつくなおまえ! 一大事いちだいじだぞ!」

「や、アンタの事情じじょうなんてらないんだよ!」

「そうじゃない!」

 むなぐらをつかまれ、せられた直後ちょくごみみ大変たいへんなことがささやかれた。


「おまえ重要じゅうよう指名手配しめいてはいはんとしてくにからわれてんだぞ!」


 ――え!?

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