かいぞく姫と魔法のティアラ

星 太一

序章 “幸せを願うティアラ”

 * * *


「むかーしむかし。ひろひろうみのすみっこにとあるふたつの王国おうこくがあり、それぞれにおてんばなお姫様ひめさまとやんちゃな王子様おうじさまんでいました。お姫様ひめさまはどろんこあそびが大好だいすきで、いつもドレスをよごしておりましたから、おしろのせんたくがかり一日いちにち十回じゅっかいもおせんたくをしていました」

「あ! それ、そふぃあとおんなじ!」

「ふふふ、そうね。

 さて、王子様おうじさま探検たんけんがだーいすき。いつものぼってはふくやぶってしまいますからおさいほうがかり毎日まいにち十回じゅっかいもお洋服ようふくなおしてあげなければいけませんでした。

 そんなあるのこと。お姫様ひめさま王子様おうじさまはおまつり偶然ぐうぜん出会であいました。もの同士どうし二人ふたりはすぐに仲良なかよしになって、いつも一緒いっしょあそび、ついには二日間ふつかかん冒険ぼうけんかけてわるまでかえってきませんでした」

「ねー! それでけっこんしたー!? ねーけっこんしたー!?」

「まだよ。――それにこまってしまったのはそれぞれのパパうえとママうえです。何度なんどってもお姫様ひめさまのお勉強べんきょう王子様おうじさまのお勉強べんきょうもしない二人ふたり最後さいごはお勉強べんきょうわるまでお部屋へやにとじこめて絶対ぜったいわせてあげませんでした」

「えー! そんなのかわいそー!」

「でもね? 大丈夫だいじょうぶ。どうしてもあのいたくなったお姫様ひめさま王子様おうじさま最後さいごにはまどからロープをたらして脱走だっそう! うみうえでもう一度いちどうことができたのです!」

「やったー!」

「そうして二人ふたりはもう一度いちど冒険ぼうけんて、最後さいご素敵すてきなおたからうみこうでつけたのでした」

「それがおばあちゃまの“まほー”ね!」

「そうよ、ほら」

 そうって女王様じょおうさまがくるくるとまわすときらきらがかがやきます。ちいさなお姫様ひめさまのお目目めめもきらきらかがやきました。

「これは王様おうさまたち国民こくみんしあわせにするために使つかものなの」

「すごーい!! ねーねーそふぃあにもつかえる!?」

「そうね……ソフィーにはまだむずかしいかもしれない」

「えー!」

「でもね。あなたがおおきくなって自分じぶんしあわせをつけることができたらきっと……きっとそのときにはあなたにも魔法まほう宿やどるわ」

「うーん、むずかしー」

「ふふ、そうねまだまだむずかしかったわね。ほら、おいでソフィー」

 くびをひねったちいさなお姫様ひめさま女王様じょおうさまやさしくげました。

 もうよる八時はちじ今日きょう三着さんちゃくのドレスをどろんこにしたお姫様ひめさまはもうおねむの時間じかんでした。

「ねー。おばあちゃま、パパうえとママうえは?」

「まだまだお仕事しごとがおいそがしいのよ」

「ふーん。つまんなーい」

 ふてくされたお姫様ひめさまをちょっとかなしそうな女王様じょおうさまはふとつめ、あたまをゆっくりとなでてやりました。

「……そうだ。今日きょうも“子守歌こもりうた”をうたってあげましょう」

「ほんと? そふぃあ、おばあちゃまのおうただいすき!」


ねむねむれ いとしいおはな

はなびらたたんで ゆめよう

くものベッドにあず

月様つきさまいだかれるゆめ


ねむねむれ いとしいおはな

月様つきさまは きたいの

あのもりおく しずかないえ

こいしいくろねこ にわへ”


 いつしかお姫様ひめさまじて、すよすよと寝息ねいきてていました。女王様じょおうさまはベッドにそのちいさなからだしずかによこたえます。


 こうして今日きょうちいさなお姫様ひめさましあわせな一日いちにちわるのでした。


 そのまま月日つきひながれ、お姫様ひめさま安全あんぜんなおしろなかですくすく、そしてかなり健康けんこうそだち、いつしかおばあちゃまのおはなしにあったうみこうがわゆめるようになりました。

「ねえフィリップ?」

「はい」

わたしもいつかおとぎばなし主人公しゅじんこうみたいにハラハラドキドキの冒険ぼうけんができるかしら」

「どうでしょう。でもまずはお勉強べんきょうをしてくださいね」

「きっとうみこうがわには宝島たからじまとか海賊かいぞくかくとか、人魚にんぎょ魔法まほう使つかいにドラゴンもいるわ! ええ、きっといるはずよ!」

「そうですね」

「ああ、はやうみこうがわきたいなぁ……! お姫様ひめさま王子様おうじさまはどんな世界せかいたかしら!」

「お勉強べんきょうわればお父様とうさまれてってくださるかもしれませんよ?」

「……フィリップはお勉強べんきょう勉強べんきょううるさいの」

「ふふ」


 一方いっぽうでこのレーヴ王国おうこくのおしろには世界征服せかいせいふくをたくらむわるくに、クライシス王国おうこくのスパイがもぐりこんでいました。まだまだなにらないお姫様ひめさまくにまでって自分達じぶんたちのためにこき使つかおうとしているのです。――なぜならお姫様ひめさま王家おうけつたわる魔法まほう使つかうことができたから。

 女王様じょおうさまはそれを警戒けいかいして彼女かのじょがれた魔法まほうちから彼女かのじょまれた瞬間しゅんかん宝石ほうせきじこめてしまいました。これではお姫様ひめさま魔法まほう使つかえませんが、同時どうじにスパイも彼女かのじょすことができないでいました。

 スパイはそこでねらひとえました。それがとなりのくにのサルト・デ・アグワの双子ふたご王子様おうじさまかれらは女王様じょおうさまむかし恋人こいびと――おとぎばなし王子様おうじさま孫達まごたちです。なので当然とうぜんかれらも魔法まほう使つかえます。ということは? ええそうです。このくに王様おうさまかれらから魔法まほうちからっておいて、宝石ほうせきじこめていました。


 そして最後さいご王様おうさま女王様じょおうさまはこの二人ふたりがいつかむすばれ、協力きょうりょくしてクライシス王国おうこくたお夢見ゆめみて“ふたつの宝石ほうせき”をティアラのなかふうじこめ、それを“しあわせをねがうティアラ”と名付なづけました。

 かれらの本当ほんとう無事ぶじを、しあわせをねがって。


 以来いらい、ティアラはとある秘密ひみつかく場所ばしょにしまわれ、だれにもられないようにおおがかりなかけとかぎで厳重げんじゅうまもられることとなりました。

 つぎにティアラがそとされるのはお姫様ひめさま結婚式けっこんしきとき

 彼女かのじょがティアラをかぶって王子様おうじさまとのちかいのキスをしたとき、ティアラははじけて魔法まほうちからかれらにかえし、さらには永遠えいえん幸福こうふくをももたらすといわれます。


 しかしそのうわさをいて盗賊とうぞくやクライシス王国おうこくのスパイがだまっているわけはありませんでした。


 ――もしも自分達じぶんたちがその宝石ほうせきを、ティアラをれることができたなら、なんでものぞみがかなうのでは?


 そうかんがえたたくさんのわるひとがティアラをねらってレーヴ王国おうこくにやってきます。ですが、さすがは王様おうさま女王様じょおうさま。そのかけはかんぺきで、いまいままでだれもそのティアラをぬすむことはできていませんでした。


 なぜならティアラをすことができるのは女王様じょおうさまの“子守歌こもりうた”をぐお姫様ひめさま王様おうさまの“おとぎばなし”を王子様おうじさまだけだからなのです。

 そう、魔法まほうのティアラはえらばれし二人ふたりにしかこころひらかないようにできていました。


 そしていまも。

 ティアラはお姫様ひめさま王子様おうじさまてくれるその夢見ゆめみていました。

 もちろん、海賊かいぞくとか盗賊とうぞくとかのわる人達ひとたちからは自分じぶんまもりながら。


 * * *


「そーれはどーっかなーっと……エイ!」

 ぽち。

 しーん。

「「「よっっっしゃあああ!!!」」」

「ほらやがれ! いくら王様おうさまとはいえ海賊様かいぞくさまにはてんのよ!」

「オヤブン! とうとうここまでたッスね!」

念願ねんがん

 子分達こぶんたちなみだがつとかぶ。

 かれらのまえにはおもたいおもたい金庫きんこくろくて頑丈がんじょうなそのはこまえには千個せんこものボタン。間違まちがったボタンをひとつでもしてしまうと“城中しろじゅう”に警報けいほうベルがひびくという仕組しくみである。

 ――そう、かれらがいまねらっているのはレーヴじょう地下ちかかくされた超特大ちょうとくだい金庫きんこなかにはがあるとのうわさだ。このくに間違まちがいなく一番いちばんものすごいおたから。はしごやら特別とくべつ知識ちしきやらがければやぶれないこの一連いちれんわな金庫きんこは「これがぬすめればカリスマ!」とさえわれている。簡単かんたんにいうとその瞬間しゅんかん有名人ゆうめいじんかれらでえば海賊王かいぞくおうデビューである。

 そうしたらどうなるだろうか。まずは悪人あくにん仲間なかまがジャックさまジャックさまんでくれる。おんなにもモテるかな。せびらかしてはびっくりされて、たくさんの金貨きんかしつぶされて。そしてふねなおして、ひとをたくさんやとって……!

 夢見ゆめみ心地ごこち表情ひょうじょう男達おとこたち妄想もうそうまらない。

 と、かおをぶるぶるってまえ作業さぎょうもどる。あぶないあぶない、集中しゅうちゅうしなければ。かれらの背後はいごには解除かいじょされたわながごろごろ。全部ぜんぶがおたからならもう大金おおがねちなのだが……それは仕方しかたない。

 さて、ここまではかんぺき。とあるルートで仕入しいれた情報じょうほうのおかげでかけもわなもなんのその。そうして最後さいご工程こうてい運命うんめいのボタンしまでたどりいたのだった。すボタンのかずはちょうど百個ひゃっこ。あとひとせば念願ねんがんのおたから……。

 ちょっと想像そうぞう出来できない。心臓しんぞうがばくばくいって、あごがかくかくふるえた。

(これで、最後さいご最後さいご……)

 ふるえるゆびさきがぼんやりとかすむ。

 ――と。


 バチン!


「あ……」

「え?」

「ん」

「……」

「……」

「え、オヤブン?」

「…………わすれちまった」

「……は?」

わすれちまった」


 しばしの沈黙ちんもく

 こがらしがひゅうっといた。おしろ地下ちかなのに。


「え、は、ハァアア!? ちょ、オヤブン!?」

「あれ!? マジでどれだったっけ!? ――お前達まえたちおぼえてるか?」

「やっ、らないっスよ!! 情報屋じょうほうやから情報じょうほういたのオヤブンじゃないッスか!」

「じゃあ五番ごばん

「え!? そんな簡単かんたんいんスか!? アニキ!」

らない」

らない。じゃないッスよー!!」

「や、そうだよな。ここはヤマカンとやらでいくしかないよな!」

「オヤブン!? しかも使つかかた間違まちがってるしッ!?」

いまはそれ、関係かんけいない」

「い、意外いがい関係かんけいあるッス!!」

「ない」

「あるッス!」

「ないない」

「あるある、あるッス!!」

「あああもう、うるさいうるさーい!! こうなったらヤケだ! いけええええ、オラ! ぽちりんちょおおお!」

 瞬間しゅんかんかれらは衝撃しょうげきにそなえてあたまかかえた。

 ――だが?


 ズドン! ガシッ!


 重々おもおもしいとびらがずずずとおとててひらはじめたではないか!


「え!?」

「マジ!?」

「……!」

 金色きんいろひかりはじめる!

「やった、御開帳ごかいちょうー!!」

「やったッスね! オヤブン! ――あと言葉ことば使つかかたまた間違まちがってるッスよ!」

うれしい」


 そのさきにあったのは!


「わくわく!」


 ――きんメッキのかべかれた「ハズレ」のおおきな赤文字あかもじ


 ジリリリリリリリ!!


「まぁーたおまえらか!! 今日きょうこそつかまえてやる!!」

「うわー、チッキショオオオ! もうちょっとだったのに、おぼえていやがれ!」

なんかオレたちバカにされてませんか!? オヤブン!」

「ひとまず退散たいさん


 今日きょうもレーヴ王国おうこくさわがしい一日いちにちはじまった。

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