偶然

 ガシャン。


 じたさくおと自分じぶんたしてそれの外側そとがわにいるのか内側うちがわにいるのか。可能性かのうせい五分ごぶ五分ごぶ

 こわくておもわずつむっていたおそおそひらいてると――そこにはさく城壁じょうへきなにもなかった。

「あ……」

 うしろをかえればそこにじたさくがある! 

「で、れた? 私、れた?」

 いや、間違まちがいない。まえにある“かぶとけん紋章もんしょう”は間違まちがいなくレーヴ王家おうけ紋章もんしょう! 城門じょうもんそとってあるやつ!

「ってことは……!」

 いそいでがり裸足はだしのまま石畳いしだたみをぺたぺたはしっていくとそのさきに……!

 あおいもやりとした表面ひょうめんゆめたそれが!


うみうみよ! うみなんだわ!!」


 わきもふらず、一直線いっちょくせんけていくとしおかおりがどんどんつよくなっていく。

「これがうみにおい……! とてもにおい!」

 なーにがまちはクソだらけよ! おおウソじゃない!

 うみかおり、うみ姿すがたすべてが新鮮しんせんでとても素敵すてきえた。物語ものがたりなかではただのあおいろだったのがいまでは立体的りったいてきになってわたしまえあらわれている。やばい、やばいやばいそとサイコー! かえりたくない、かえらなーい!

 つい至近距離しきんきょりにまでくると、せるなみしろさと海鳥うみどりむねおどった。どうやらこの階段かいだんしたにあるらしい。まよわずり、砂浜すなはまちゃく――。

 じゅっ。

「アッヅ!」

 なにコレ!? 鉄板てっぱん!? ちがう!? え……? すななの? ええ!? か、かよわひめあしには地獄じごくよ……。

 だ、だがしかし。

 この程度ていどあきらめるようなひとじゃないのよ、わたしは! 自由じゆううみのためならほのおなかにだってバンジージャンプしたりするんだから!

 よーし、てなさいよぉ。

 両手りょうてあつ砂浜すなはまけてかがむ。

 ――On your marksオンユアマークス

 ――Setセット

 バーン!

 クラウチングスタートからのロケットスタート! ひめ一気いっき砂浜すなはまびこんだ!

「アヅウウウイ!! アヅイアヅイアヅイアヅイ!!」

 絶叫ぜっきょうしながらはしることほんの一、二メートル程度ていどいきおいそのままにうみはいるとそこでっていたのは……天国てんごく

「はわぁ」

 心地ここち温度おんどすななめらかな感触かんしょく潮風しおかぜのすずしさにうっとり、いきむねいっぱいにんだ。あしをグーパーさせるとゆび隙間すきますながうにょんとあふれるのもなんだか面白おもしろい。とおくの入道雲にゅうどうぐもしたまでつづいているけれど、あのくもけないのかしら。

 興味きょうみ疑問ぎもんきなかった。

「これが、うみ! サイコー!」

 そうさけんでからふとちかくのにぎやかな空気くうきになって、階段かいだんのかげからそっとのぞいてみた。

 市場いちば活気かっきちていて、まちはまだいていないとりどりのランプでかざられはじめている。いろガラスがとてもきれい。おまつりかしら……? とするとこれはグッドタイミング! めちゃくちゃたのしみくしちゃうんだから!

「さてさて……どこからまわろうかな」

 そうやってあしした途端とたんときらせるしろかねった。瞬間的しゅんかんてきおもされるお父様とうさまとお母様かあさまかお肖像画しょうぞうがなかのあのかお心配しんぱいそうにゆがむ様子ようすあたまかんだ。

「……今頃いまごろ大騒おおさわぎしてるかしら」

 むねあたりをくしゃりとにぎる。なんだかしろしろかべがくすんでえた。

心配しんぱい、してるよね」

 どうしよう。階段かいだんにぺたんとすわりこむ。できることならはやもどらないと、でもそとにようやくれたんだし。

 うーん。

 しばらくなやったちょうどそのとき、すぐそばをどもたちたのしそうにけてきながら

夕飯ゆうはんまでにはかえるからー!」

両親りょうしんかえこともせずのこしていくのを偶然ぐうぜんた。


 ……。


わたし夕飯ゆうはんまでにはかえるからー!」

 ぃよっし!

 さーて、なにしようかな!

 おばあちゃまがおしえてくれたうたくちずさみながらぼろぼろのドレスをきずっていく。この格好かっこうがうかれたまちにはぎゃくになじんだ。


 * * *


 一方いっぽう

「ドンク! はしれ! いつかれるぞ!」

はしってる」

「アニキー! それ、はしってるうちにははいらないッスよ!」

 からだおもたそうなドンクが船長せんちょうのジャック、そして弟分おとうとぶんのディーディーにきずられながらなんとかはしっている。これでこの海賊団かいぞくだんは“全員ぜんいん”。ほかには情報じょうほう提供ていきょうしてくれる専属せんぞく情報屋じょうほうや一人ひとりいるのだが、なんといっても情報料じょうほうりょうがバカたかい。こっちがどんなに貧乏びんぼうでもツケてはくれるがそのわりけっしてまけてくれない。おかげでいつでもめしこまっていた。最近さいきんふねゆか一部いちぶくさりはじめた。いつか俺達おれたちうみのドなかぬぞ、というのが最近さいきんかれらのくちぐせである。

「ほら、みなとまでもうすこしだから! もうちょっと本気ほんきせ!」

「これで、ほん

「んんっ!? あ! ちょ、オヤブンてくださいッス!」

なんだディーディー! 俺達おれたちふねこわれてるってか! ははっ、中古品ちゅうこひんだしもうボロだもんな! あははははっ! ――わらごとじゃねぇぞ」

ちがうッス! あいつが! フィリップが!」

「アァン? だからなんだ、おれたちゃいつでもめしこまっ……て、フィリップだと!?」

 きゅうブレーキをした三人さんにんのすぐちかくの石畳いしだたみげナイフが三本さんぼんズカカッとさる。

「ヒェッ!」

 ジャックのかおあおたてすじがはいる。もうすこしでちびりそうだった。

 げナイフのあるじみなと出入でいぐちっているうまでふさぎかまえる美青年びせいねんみどりあかのきついオッドアイはいつでもこの国中くにじゅうをにらみつづけ、たとえちいさくともくににはびこるあくゆるしてこなかった。

 はフィリップ、そのさまはまさに騎士ナイト同時どうじにこの海賊団かいぞくだんにとって一番いちばん厄介やっかいなお相手あいてでもあった。

「もうその眼帯がんたいたくないとつい昨日きのうったはずだが?」

「お、おれだってたかねぇよ、てめぇのかおなんざ! ったく、おしろおく大人おとなしくお姫様ひめさま相手あいてしてればいのに」

「そしたら大事だいじ宝物たからものぬすまれかねませんので!」

 ナイフをぶんげ、それらをやっとこけをくりかえしながらケンカをつづける両者りょうしゃなかいかもしれない。

「バカだなぁ、そんなだからいけねぇんだよ。おれらが無事ぶじ宝物たからものぬすめればアンタもおれらのかおなくてむってちっとはかんがえられねぇの!? これならwin-winウィンウィンだぜ!? な?」

「どうかんがえたってwin-winウィンウィンなわけないだろうが!」

 そうさけんだかとおもうとつぎ瞬間しゅんかんにはあたらしいげナイフがジャックのほおをかすめている。がたれた、やばい!

「とりあえずいまふねはだめだ、げろ!」

「オレらどうなるんスかぁ!?」

大丈夫だいじょうぶ神様かみさまがきっとたすけてくれるさ!」

なん神様かみさまッスかぁ!」

悪人あくにん

「いるんスかぁ!? そんな神様かみさま

しんずるものすくわれる」

「それメチャクチャうそっぽいッスよ、アニキ!?」

「とりあえずいまはしれ!」

衛兵えいへい! あのぞくどもをがすな! え!」

 ジャックがドンクとディーディーをはげましながら心臓しんぞうやぶりのさかのぼっていく。これはドンクにはきつい。しかしここでまれば、よりきついやつがっている。全員ぜんいんはしった。

「あのタルだ、あのタルを使つかえ!」

 指示しじにうなずいた二人ふたり船長せんちょうといっしょに酒屋さかやまえならぶたくさんのタルめがけてはしる。

わりぃなおっちゃん! いのちにかかわる問題もんだいなん、だ!」

「お、おいコラ大事だいじ商品しょうひんなんてことするんだ!」

 あやまりながらたおしたおもたいタルを三人さんにんでせーのでばす。それをみせまえならんでいるすべてのタルでやった。

 これをやられた兵士達へいしたちはたまったもんじゃない。くだざか加速かそくしたおもいタルにみつぶされたくなくてはじによけるものげるときにうっかりころがるタルにっかってしまってそのままタルとうみにダイブするものなどが続出ぞくしゅつした。

「えぇいなにをしている! おののくな、つづけ!」


 * * *


 ……! うそいまのフィリップのこえじゃない!?

 おもわず屋台やたいかげかくれ、そっとのぞこうとしたときまえをフィリップがうまってとおぎていった。そのうしろを兵士達へいしたちがぞろぞろつづいていく。

「フィリップさま、いません! 見失みうしなってしまいました!」

さがせ! 全力ぜんりょくさがすんだ!」

 やばい、わたしさがしてるんだ……! 絶対ぜったいつかりたくない!

 かえられるならそれでも仕方しかたないとはおもってた。でも目的もくてきたせていないいまべつ。だってなんのために脱走だっそうしたかからないじゃない!

 とりあえずすぐさま目的もくてきたせそうなみなと近付ちかづいていく。そこにまっている数々かずかずおおきなふねなかでもとく一番いちばんちかくにあったふね近付ちかづびこむ。フィリップは? 大丈夫だいじょうぶ、まだバレてない。

 ここでしばらくかくれて、きをもどしたころ見計みはからって登場とうじょう。そのままわけをはなしてちょっとせてもらおう。そしたらかえるから! ゆるしてフィリップ!

 ひろ甲板かんぱんをきょろきょろ見回みまわしてまよわず船室せんしつびこむ。何度なんどかギシギシあやしいおとがしたけどわたしおもいわけじゃないから。絶対ぜったいちがうから!

 そうしてたどりいた一番いちばんおく部屋へや。ここならくらだし木箱きばこおおいし安心あんしんしてかくれられそう。それらがほとんどからっぽだっていうのもちょっとたすかった。まさかフィリップもこのなかまではないでしょう!


 * * *


いそげ! いまうちふねるんだ!」

 ようやくフィリップたちをくらました三人さんにんがあわててふねる。かぜ味方みかたした。すいーっと気持きもちよくふねすすんでいく。

「ひゃーっひゃっひゃ! さらばだっ、バカフィリップめー! まったあーしたー! ベロベロビー!」

 こうぎしくやしそうにしているかれをおちょくるのはなんとも気分きぶんい。

 そうだ、一度いちどかくまでかえってみずびよう。ほか二人ふたりにはもうわけないがシャワーをけるだけのかねがない。

モンはちゃんとぬすんできたか?」

「もちろんスよ! 今日きょうはおまつりみたいッスからたんまりいただいてきちゃったッスー!」

「ケーキ。き」

「お、ドンクー、ちゃんと三人分さんにんぶんいただいてきたんだろうな」

「……」

「んー? ドンクー?」


 それはそうと……。

 かれらはこのときまだらなかったのだが。


 船室せんしつおくほうにもう一人ひとりきゃくさんがいる。

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