第7話

カイの婚約者になり、二週間が経過した。

空白の一年間の埋めるように彼は毎日会いに来てくれている。

屋敷で会ったり外でデートをしたり、従兄弟という事もあってこちらの屋敷に泊まり翌日そのまま仕事に向かう彼を送り出す事もある。

幸せに満ち溢れた日々を送っていた私の元に一通の手紙が届く。

差し出し人は学園だ。

どうやら毎年恒例の学園主催の王城パーティーのお知らせらしい。隣に座っていたカイが手紙の内容を覗き見てくる。


「参加するの?」

「勿論その予定よ」

「エスコートは?」

「……それ、尋ねる必要あるのかしら?」


婚約者が居る者は特別な事情がない限りはエスコートをお願いするものだ。

それが分かっているはずなのにわざと聞いてくるカイは意地が悪い。


「ごめんごめん。怒らないで」


拗ねる私を宥めようと髪にキスをしてくるカイの頰を抓る。

ベタベタと触れ合うなんてはしたないと思われるかもしれないが今は二人きりだ。気にする必要はない。


「カイは昔から意地が悪いところがあるわ」

「だって、堂々とアイリスをエスコート出来るかと思ったら舞い上がっちゃって」

「理由になってないわよ」


理由としてはよく分からないが彼の気持ちはよく分かる。

私もカイにエスコートをしてもらえるのはかなり楽しみだし、二人で踊るのも考えただけで胸が躍るのだ。

本当に幸せ過ぎるわ。

彼の肩にもたれかかるとビクッと体を震えた。


「どうしたの?」


驚いた様子で尋ねてくるカイに笑いかける。


「幸せ過ぎて…胸がいっぱいなのよ」


ハリー殿下との婚約白紙に戻せた上、好きな人と両想いの婚約者になり溺愛され大切にしてもらっている。

幸せ過ぎる。

他の婚約者関係がどうなっているのか知らないが個人的には世界で一番幸せなのではないかと思うくらい幸せだ。

馬鹿なカップルに間違われそうだから外では絶対に言わないけどね。


「全くアイリスはまたそういう可愛い事を言う。僕も幸せだよ」

「ん…」


キスをされて、離れたかと思ったらまた唇がくっ付く。

初めはぎこちなく重なっていたそれも今ではすっかり彼に慣れてしまった。


「もう、しすぎ…」


五回目を通り過ぎた頃、彼の口を押さえキスをやめさせる。沢山すると唇が腫れてしまい、家族にバレてしまうのだ。

前にそれで注意を受けた事がある。

再び彼の肩に頭を寄せて学園からの手紙に視線を落とす。


「エスコートお願いね、婚約者様」

「お任せください、お姫様」


くすくすと二人で笑い合った。


この時の私達はパーティーで一波乱が起きるとも知らなかったのだ。

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