番外編2※アイリス視点

ハリー殿下が断罪されたパーティーから一週間。

学園で注目される人間が二人いた。

私アイリス・シーモア公爵令嬢と平民マイラだ。

理由は言わずもがな。

ハリー殿下に振り回された二人だからだ。


「注目を浴びるのは好きじゃないわ」


学園の奥にある今は使われていない古いガゼボで一人呟く。

一人になりたい時はここを利用するのが最近の私の決まり。騒がしい校内とは違い、穏やかな時間が流れるこの場所に私以外の来客が訪れた。


「マイラ?」


彼女は私と目が合うと慌てて頭を下げて逃げ出そうとする。咄嗟に立ち上がった私は彼女の腕を掴んだ。


「待って!」


呼び止めたは良いけど、どうやって話を切り出せば良いのか分からない。そして引き止められたマイラもどうしたら良いのか分からない表情をする。


「とりあえず、お茶でもどう?校内だとうるさくて話せないでしょ?」


辿々しい言葉は彼女に伝わり、俯いた状態で首を縦に振られた。


「じ、じゃあ、お邪魔します…」


私の目の前に腰掛けたマイラは今にも倒れてしまいそうなほど真っ青な顔で震えている。おそらく私に怒られると思っているのだろう。


「飲んで。ちょっとは気分が落ち着くと思うわ」

「は、はい…。ありがとうございます」


マイラはぎこちない動きでカップに口を付ける。

きっと他の貴族女性が見たら怒り出すほどだ。もちろん怒鳴りつけたりはしない。


「あの、アイリス様…」


ようやく顔を上げたマイラは怯えたように私を見つめる。


「ハリー殿下の件、申し訳ございませんでした」


謝罪されると思っていたけど、ここまでストレートに来るとは思わなかった。


「何に対して謝っているの?」

「え、あの……仲良くしていた事です」

「貴女は無理やり行動を共にさせられていたのでしょう?」

「え、えぇ…そうです」

「それなら貴女が謝る事じゃないわ。むしろ謝罪するべきはこちらの方。婚約者だった彼が迷惑をかけてしまってごめんなさい。それから貴女が悩んでいる事に気がつかなくて…本当に申し訳ないわ」


貴族たるもの広い視野を持たなければいけなかったのに。彼女が悪だと決めつけて距離を置いてしまった。

それが大きな間違いであったのだ。

謝罪をするとマイラは慌てて立ち上がる。


「あ、アイリス様は悪くありません…!むしろ、あんな…いや、えっと迷惑な人と婚約させられていて…かわいそ…じゃなくて…」


言いたい事がまとまらないのかマイラはどうしたら良いのか分からないようだ。

その姿が可愛らしく見えてきてしまう。


「と、とにかく、アイリス様は悪くありません…!」

「ふふっ、ありがとう」


立ち上がり、彼女の側に寄る。


「もし良かったら私とお友達になってくださらない?」

「へっ?えっ、い、いのですか?」

「貴女の気分が悪くならないならお願いしたいわ」

「なりません!」


マイラは首を大きく横に振り、笑顔で否定した。

私が差し出した手をゆっくりと握り締めて笑う。


「あの、ご迷惑をおかけすると思いますが…よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね」


私に初めて平民の友達が出来た瞬間だった。

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