番外編
番外編1※ハリー視点
どうしてこうなった。
真っ暗な部屋、僕は一人で考えていた。
生まれた時は幸せだったのだ。
大国の王子として周りからとても大事にされていた。
それが変わったのはアイリスと婚約してから。
誰も僕を大切にしてくれない。
いや、実際には大切にしてくれていたのかもしれない。
もう昔の事過ぎて覚えていないけど。
マイラがパーティーで全てを話すとは思わなかった。
僕と一緒にいる時の彼女はいつも笑顔で、嫌な顔せず僕のそばにいてくれていたのだ。
今思えばあれは恋なんかじゃなかった。
ただ自分の欲を満たすのに彼女を使っていただけだ。
僕が本当に好きだったのは多分アイリスだろう。
最後、彼女に言われた「さよなら」が胸に突き刺さって離れない。
もしも僕が愚かな振る舞いをせず真面目に物事に取り組んでいたら彼女は今でも僕の隣で笑っていてくれたのだろうか。
「考えても仕方ないか」
どうせ二度と会う事は出来ない。
パーティーの後、部屋を訪れた元父親から言い渡されたのは僕の今後についてだった。
「お前は平民となって辺境の地で暮らせ」
「な、なんで!伯爵位をくれると…」
「今のお前が貴族になって誰が得をする。お前に分け与えようとしていた土地にも住まう人々はいるのだ。お前は彼らを守り、導く存在になれるのか?無理だろう」
父の言うことは間違っていないだろう。
ろくに勉強をしてこなかった僕が領民達の為に出来ることなんてないのだ。
冷静になった今なら分かる。
「わかりました…」
「なんだ、もっと騒ぐかと思ったぞ」
「これ以上騒いだら平民にもなれなくなるじゃないですか…」
「そうだな。もし騒いでいたら生涯を牢で過ごしてもらう事になっただろう」
まるで犯罪者だ。
元父親は立ち上がって言った。
「お前のような奴に縛り付けられていたなんてアイリス嬢には本当に申し訳ない事をしたな」
それだけ言うと去って行った。
僕は簡素なベッドに寝転がり、目を閉じる。
浮かんでくるのはアイリスの顔だった。
「僕といる時は全然笑っていなかったな」
それがとても悲しかった。
つまりそういう事なのだろう。
数日後、僕はすぐに擦り切れてしまいそうな質素な服を着て、少ないお金を持ち、紋章の入っていない古びた馬車で辺境地まで向かった。
護衛が付いていたのは王族の血を引く僕が悪い奴らに悪用されないようにする為だったと最後に聞かされた。
元父からはボロ屋を与えられており、住むところは困らなかった。ただ持たされたお金はすぐに底をつき、働かなくてはいけなかったのだ。
最初は元王族としてのプライドが邪魔して働く場所が見つかってもすぐに辞めさせられていた。
しかし数ヶ月も経てば人の下につくのにも慣れてきて、今ではすっかり農民だ。
ふと思い出すのはいつも同じ顔だった。
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