第12話

「いい加減にしろ、ハリー」


威厳のある国王陛下の声が響く。たった一人を除いて全員が姿勢を正した。

そのたった一人はハリー殿下だ。

訳の分からないといった表情で自分の父親を見つめるハリー殿下はすぐに声を上げる。


「父上、なにを…?」

「何をしているのか聞きたいのはこちらの方だ」


ハリー殿下を睨み付ける陛下。

その姿は父親としてではなく国王として彼を見ているようだった。


「あ、アイリスが婚約者である僕を待たずに勝手に入場したのです!」


まだ婚約者だと思ってるのですか。

何回も違うと言ったのに。理解力の低さに頭が痛くなりますよ。


「アイリス嬢はお前の婚約者ではない!婚約が解消となった件はきちんと伝えたはずだろう!」

「なっ…」


陛下に言われてようやく事実だと分かったのか顔を青褪めさせるハリー殿下。彼の様子を見て王妃様は呆れ返った表情をしていた。


「う、嘘です!そんな話は聞いておりません!」


うわ…と可愛くない声が漏れそうになりました。

いくら実の父親だからといって国の主である陛下を否定するとは。

王太子なら何をやっても良いと思っているのでしょうか。理解に苦しみますよ。

ハリー殿下の言葉に陛下は怒りを覚えたようで視線を鋭くさせた。


「何だと?お前は私が嘘をついていると申すのか?」

「い、いえ、そんな事は…」


流石の馬鹿でも陛下の怒りに触れたくはないのか慌てて否定する。

もう手遅れな気がしますけどね。


「ど、どうして、僕とアイリスの婚約は破棄になったのですか!」

「破棄ではない!解消だと言っておるだろ、愚か者!」

「そんなのどっちでも変わらないでしょう!」


は?嘘ですよね?

確かにどちらも婚約者がいなくなる事を示します。

しかし意味は違う。

破棄は一方的に婚約関係を切り捨てられる事から破棄された側は傷物扱いされます。

解消は婚約の話自体なかった事になるので傷物扱いされる事はほぼありません。

婚約に縁遠い平民の方は分からないかもしれませんが貴族の方は意味の違いをよく知っています。だからこそ貴族全員が驚いた顔をハリー殿下に向けていた。

しかし、ここまで馬鹿なのですか?

一応王太子教育を受けていたはずなのですけど…。

ああ、いや、サボってましたね。

予想外の事に陛下もぽかんと口を大きく開いた。


「違うに決まっておるだろ!大馬鹿者め!」


我に返った陛下に怒鳴られてハリー殿下は涙を流し始めました。

確かに怖いですけど皆の前で泣くなんて…。

これが王太子である限り国の未来が心配になりますよ。


「ど、どうして…僕とアイリスの婚約が…か、解消になったのですか?」


よほど聞きたかったのか声も体も震わせながら尋ねるハリー殿下。

陛下は小さく溜め息を吐いた後に答えた。


「アイリス嬢にお前が相応しくないからだ、愚か者」

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