第15話

「そんな…」


実の親に見放されて、長年連れ添っていたと思っていた元婚約者に突き放されたハリー殿下の弱々しい声が響く。

彼が助けを求めるように視線を向けたのは彼の好きな相手であるマイラだった。


「マイラ、すまない。僕が不甲斐ないばかりに…」


私には謝らないくせに彼女には謝るのですか。

別に謝って欲しいわけじゃないので良いですけど、伯爵となるのですからそういうところは直した方が良いですよ。


「ハリー、お前はそこの女生徒が好きなのだろう?」


陛下に尋ねられたハリー殿下は大きく頷いた。


「はい、好きです。愛しております」


彼が彼女を好きになった理由は碌でもないものですが、どうやら気持ちは本物のようです。


「私からの最後の恩情だ。彼女とお前が望むのなら結婚する事を許そう」


いくら除籍になったとしても元王族が平民を娶る事は普通なら許されません。だからこそそれを許してくれた陛下からの恩情にハリー殿下は感謝するべきなのでしょう。


「本当ですか?それなら僕はマイラと結婚します!」


さっきまで私で良いとか言っていた人の言う台詞ですか。

まあ、下手に執着されるよりずっと良いですけど。

ハリー殿下の返事を聞き、陛下は仕方なさそうに笑った。その笑顔は父から子に向けるものに見える。


「うむ。良いだろう。二人の結婚を認めよう。力を合わせて生きなさい」

「はい!」


陛下からの言葉にハリー殿下は嬉しそうに頷きました。

これで全てが終わる。

そう思った瞬間、大きな声を出す人がいました。


「私はハリー殿下と結婚出来ません!」


声の主はマイラでした。

全員が彼女の発言に固まり、目を点にさせます。

ハリー殿下と結婚出来ない?どういう事でしょうか?


「へ、陛下、恐れながら…発言してもよろしいでしょうか…?」


辿々しく言葉を紡ぐマイラは少しだけ怯えた様子を見せます。

平民が国王陛下に声をかけるのです、彼女の反応は至って普通のものでしょう。しかし、さっきの発言の前に言った方が良かったと思いますよ。

ぽかんとした顔をしていた陛下は彼女の言葉に遅れて反応する。


「う、うむ…」

「私の名前はマイラと申します。平民です…」

「知っておる。ハリーの想い人だな?」

「それは…そうかもしれませんが…。私は殿下と結婚する気はありません!」


それを聞くのは二回目ですね。

みんな、その理由を知りたいと思ってますよ。


「分かった。しかし、どうしてだ?君はハリーと想い合っているのだろう?」


陛下の言葉にマイラは大きく首を横に振った。


「わ、私は殿下の事を好きではありません!その、えっと、一人の男性として、見ていないという意味で…」


嘘、ですよね…?

全員が同じ事を思った瞬間だった。

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