第8話

学園主催の王城パーティー当日。

屋敷まで迎えに来てくれたのは愛しの婚約者カイだった。久しぶりに見る彼の正装姿に胸が高鳴る。

世界で一番かっこいいわ。

なんて馬鹿みたいな事を思うが口に出す事はない。


「よく似合っているね」

「ありがとう、カイ」


今日の私のドレスはカイが贈ってくれた物。ドレスだけじゃなくネックレスもイヤリングも、それから婚約指輪まで全てがカイからの贈り物だ。

全身を好きな人に染め上げられるのは結構幸せな感覚がする。


「さぁ、行こうか」


彼と共にシーモア公爵家の家紋が入った馬車に乗り込み向かうのは王城だ。


「そういえばハリー殿下からドレスが届いたのよね」

「は?」


ぽかんとするカイに苦笑いで答える。


「彼の名前が使われているけど彼が用意した物じゃないわ」


昔から王城の人間がハリー殿下の代わりに贈り物をくれるのだ。小さい頃は彼からの贈り物だと思っていたけど十歳を過ぎた頃には違う人からの物だと気が付いていた。

婚約を解消したのだからもう贈らなくても良いのに。きっと手違いが起きたのだろう。


「それ、どうしたの?」

「手違いだと思って送り返したわ。私にはカイから貰った物があるもの」

「そうか。良かった」


不安にさせるくらいなら言わなければ良かったと思うが、後々知られる方が誤解を加速させそうだ。

その後は他愛もない話をしながら一時間ほど馬車に揺られた。


王城に着くと既に殆どの人間が入場を終えているようで玄関先には疎らにしか人が居なかった。

普段のパーティーであれば下位貴族からの入場が義務付けられている。

しかし今回は学園主催のもの。

貴族の堅苦しい決まりは平民達にとっては厄介なものになると分かっている。その為、自分の好きなタイミングで入場出来るようになっているのだ。


「私達も入場しましょうか」

「そうだね」


カイの腕に手を添えて、会場の中に入れば貴族達の視線がこちらに向いた。といっても鋭い物ではなく温かく見守るものようだ。

どうやら王妃様の作り上げたシナリオが良い作用をもたらしているらしい。


「ほら、みんな祝福してくれてるよ」


カイが嬉しそうな笑顔を見せてくるのでこちらまで笑顔になってしまう。頷いて「嬉しいわ」と答える。

あまり目立たないように端の方に寄って二人でシャンパンを飲んでいると会場が大きく騒ついた。

どうやらハリー殿下の入場らしい。


「マイラってあの子か」

「ええ、そうよ」


ハリー殿下の隣には彼の髪色である金のドレスを身に纏ったマイラの姿があった。

どうやら彼にプレゼントしてもらったらしいが正直似合っていない。ドレスに着られている感じがする。


「ハリー殿下、何か探してる?」


カイの問いかけられて、マイラからハリー殿下に視線を移すときょろきょろと周りを見回していた。

何を探しているというのだろうか。

私には関係ない話だとシャンパンを口に含んだ瞬間だった。


「アイリス!」


ハリー殿下が私の名前を叫んだ。

いきなりの事に思わず飲んだ物を吹き出してしまいそうだった。


「アイリス!どうして僕と入場しないんだ!」


は?どういう事でしょうか?

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