第17話

「後は陛下達も知っている通りです」


マイラから聞かされた話はあまりにも衝撃的なものだった。

陛下、王妃様を含めた全員が目を大きく開き絶句している。


「私はハリー殿下と結婚したいとは思いません。平民如きが無礼な事だと分かっています。ですが、もうハリー殿下から解放して欲しいのです…。お願いですから助けてください」


泣きそうな表情と声に胸が痛くなった。

私はマイラの抱えている気持ちを何も知らなかったのです。婚約者を奪った相手として話した事がないので当たり前の事ですが少しでも話を聞いておけば良かったと後悔する。

今更後悔しても遅いのは分かっていますけど。


「ハリー、マイラ嬢の話は本当か?本当だとしたらお前への恩情を取り消さねばならない」


陛下の厳しい声が会場に響いた。

俯いていたハリー殿下は身体を震わせている。

どう答えるのか。気になり見ているといきなり顔を上げたハリー殿下はまるで悪魔のような形相をしていた。


「ふざけるな!」


ハリー殿下の怒鳴り声はマイラに向かった。

陛下の問いかけは彼には届いていない様子です。


「平民が調子に乗るな!僕が結婚してやると言ってるんだから黙って言うことを聞けよ!」


なにを言ってるのですか、この人は。

貴族は平民を守るのが役目。

残念ながらそれを全うしない人もいますが王族だけは違います。

誰よりも民を慈しみ、守り、愛与えるべき存在。

それなのに彼は…。

面食らった表情をするマイラを近くにいた人達が守るように隠した。

今度はこちらを向くハリー殿下。


「アイリス、お前も同じだ!勝手に婚約解消なんて僕は絶対に認めないぞ!」


さっきと言っている事が違うじゃないですか。

睨み付けてくる彼から庇うように立ってくれたのはカイでした。


「僕は王族だ!王太子だ!偉いんだ!」


自分に言い聞かせるように叫び声を上げるハリー殿下。

馬鹿、愚者を通り越して可哀想な存在に見えてくる。


「いい加減にしろ!愚か者!」

「うるさい!うるさい!」


陛下の言葉に耳を貸さず、自分だけの世界に入り浸るハリー殿下に全員が憐れみの視線を送った。


「衛兵、あれを捕らえよ!」


陛下の声に衛兵が駆けつけて、ハリー殿下を取り押さえようとするが暴れられているせいで時間がかかってしまう。


「離せぇ!僕は偉いんだぁ!」


もう見ていられませんわ。

カイの後ろから出てハリー殿下の前に立つ。


「アイリス、助けろ!命令だ!」


乾いた音が会場に響いた。

ハリー殿下の頬が赤くなる。私が叩いたからです。


「みっともなく泣き叫ぶのはやめてください」


驚きの表情で見上げてくるハリー殿下に冷たく言い放つ。


「さようなら、ハリー殿下」


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