第20話 神創受胎 前編


 異変が起きたのは、相も変わらず夜だった。至る所で「化け物が出た!」という110番の電話が鳴り響いたのだ。

 境界チャンネルの異常にいち早く気付いたのは、普段から東京の霊的保護カバーを任されているミドリだった。


「緑色植樹、探せ――」


 TOKYO中をカバーするによる情報網。それを元にこの事態の元凶を割り出す。

 アオがミドリに近づく。


「どうだ、見つかりそうか?」

「いえ、禍魂の動きもバラバラ、超能力者の気配も感じません……」

「となると詰みか……?」

「ですが、一つ気になる事が」

「なんだ、何でもいいヒントが欲しい」


 ミドリは考え込んだ様子の後、言った。


「運気の流れが一定方向に向いている気がします……これは勘……なのですが」

「……! いいやビンゴだミドリ。オハシラが主犯ならそれで間違いない。具体的にどこに流れてる?」

「……TOKYOスカイツリーです」


 TOKYOスカイツリーの頂。


「うっひょー、眺めいいなぁ、なぁムラサキ」

「うん! とっても楽しい!」

「良きかな」


 ムラサキは何かを遊んでいる。それに沿って、禍魂マガタマが実体化している。


「神創受胎は上手く機能しておるな」

「受胎っつーからエロいの想像しちゃった」

「口を慎めアカ。BANされるぞ」

「誰にだよ」

「ぶーん!」


 ムラサキが無邪気に遊んでいる。スマホ両手に飛行機気分だ。


「危ないぞー、落ちるぞー」

「落ちんように結界テリトリーを張ってある」

「用意周到なじいさんだな、でもそれ公安御祓局にバレねーの?」

「隠密性は高い……が時期にバレるじゃろ」

「は? なんで」

「運気の流れじゃよ」


 公安御祓局、非戦闘員による避難誘導。


「危ないので化け物に会ったら逃げてくださーい。写真を撮ってる場合じゃありませーん。ちょっとそこー! こっちの写真撮らない!」

「なんか大変そうだな……」

「なんでワタシ等、雑魚狩りなわけぇ?」


 クロとモモコは実体化した禍魂マガタマ狩りを命じられた。対オハシラにはアオ、きぃ、イエロウ、マシロ、ハクジが行くとの事。

 非戦闘員の警護につきながら禍魂マガタマを祓って行く。


「もう飽きたよ雑魚狩りぃ……蝉何匹目だよ……」

「それは俺も思ったけど」


 現れるのは蝉ばかり、季節が夏なせいか? そうなのか? と疑問をぶつけたくなるモモコ。

 クロは辟易しながらTOKYOスカイツリーを眺める。


「オハシラを倒すためにモモコが必要って話はどこ行ったんだよ……」


 TOKYOスカイツリー内部。

 そこは禍魂マガタマと人間でひしめいていた。


「これを被害出さずに禍魂マガタマだけ倒せってのは私でも無理あるかな……」


 アオが攻めあぐねていると、きぃが一歩前へ出た。


「あたしがやる。曲線を描くのは、しかも隙間を縫うようなのには極大の集中力を使うけど……!」


 きぃが印を結ぶ、そして唱える。


「黄色変性、溶けろ!」


 人々の細い隙間を縫って禍魂マガタマだけを狙って穿たれた一撃。見事に禍魂マガタマを腐らせ。一般人に被害は出なかった。


「でもまだワンフロア……、先は長いぞ……」


 エレベーターが開く、ひしめく人と禍魂マガタマ

 今度はマシロが前へ出る。


「マシロちゃんやっちゃうよぉ! 白色規定、分かれろ!」

 

 禍魂マガタマと人が綺麗に分断される。さっきも最初からこれをやっていれば良かったのでは? という疑問はさておき。残った雑魚は、アオが。


「五色後光、一式、放て」


 で、薙ぎ払った。

 エレベーターが高速で上階まで上がる。しかし途中で止まるエレベーター。


「シャフトに何かいる!」


 ハクジが叫んだ。

 居たのはゴリラだった。いや猩々というのか、この場合。

 ゴリラがエレベーターを止めていた。


「ふざけやがって! 俺らの邪魔すんな!」

 

 単純な力比べ。猩々に分が有るかと思われた、その時。

 イエロウが加勢に入る。


「おい!」

「こんな時に変なプライド持ち出すな」

「……それもそうか」

「ほら行くぞ、せーのっ!」


 エレベーターシャフトから投げ飛ばされる猩々、地上へと落ちていく。

 エレベーター内部に戻った二人、エレベーターが再び動き出す。

 上階にたどり着く。しかしそこにも一般客と禍魂マガタマ


「もう面倒くさい、五色後光、二式、放て」


 極細の光線が一般客と一般客の間を通って禍魂マガタマに突き刺さる。それだけで致命傷。それが五色後光。

 上階の強化ガラス窓を割って外に出る五人。そっから上へとよじ登る。

 てっぺんまでは遠い、そこに現れた狸妖怪。隠神刑部と呼ばれる禍魂マガタマである。

 狸の総大将が出て来た。オハシラは近い。


「アオさん、此処は俺ら四人で引き受けます。アオさんはオハシラの所へ」

「……任せた」


 浮かび上がるアオ、最初からそれで行けば良かったじゃないかとアオ以外の全員が思った。


「よお、オハシラ、何度目だ?」

「さあの、いちいち覚えとらんわい」

「おい私を無視すんじゃねーアオ!」

「ぶーん」

「そのスマホが発信源か」


 アオがムラサキの持つスマホ見て一発で看破する。だがアオ以外の三人共、気にする様子はない。


「種をあけた所で、だ。誰もこの神創受胎は止められまい」

「ムラサキを殺せばいいんだろ?」

「お人よしのアオちゃんに出来るかにゃーん?」

「アカ、まずはお前から殺す」

「殺ってみろ」


 アカがナイフを取り出す。対人用の得物。


「それ使ってモモコとクロに負けたんだって? 恥ずかしいね」

「テメー絶対殺す、赤色遊戯、宿れ、ジャック・ザ・リッパー!」


 ピエロ化粧の女が一人現れる。狂気に満ちた瞳。アオも殺気立つ。


「空色無式、浮け」

「キャハ!」


 空間を切り裂くアカinジャック・ザ・リッパー。無重力状態は解け、開放される。アカのターン。投げナイフ、いきなり得物を捨てた。躱すアオ。しかし。


「こっちだよー」


 アカはアオの真後ろに、。グサリ、そんな音がした気がした。刺さったアオの背中に確かにナイフが。しかし。


「空色無式、遡れ」


 時間が逆行する。ナイフが刺さる前、投げナイフの直前まで戻る。


「そこか」


 後ろに回し蹴りを放つアオ、それは見事にアカの胴体にクリーンヒットする。投げナイフは消える。ブラフだったのだ。端から幻影。そう思っていた。

 腹部から血を流すアオ。


「――!?」

「残念、投げナイフも本命、隙を生じぬ二段構えってね! アハハ!」


 消えたように見えた投げナイフが再び現れたのだ。そしてアオに刺さった。そして蹴りを喰らったアカも回復しアオを滅多刺しにする。


「死ね、死ね、死ね!」


 呪詛のように吐き連ねる。しかし。


「あんただけでも道連れにしていく、五色後光、空色無式、放て」


 それはシキョウから五色後光を受け継いだアオが生み出した必殺技、必ず殺す技。一式から十式まである五色後光に、無式を加え、さらに空色でアレンジした完成品オリジナル。ちなみに無式の効果は破壊の逆、癒しである。そして、空色無式の効果は――


「対象を指定の時間座標まで吹き飛ばす。だ」


 対象とはアカだけに留まらない。ムラサキ、オハシラも含まれる。


「どこへ飛ばす気だ!?」

「内緒♪」

 

 それがアオ死に際の最後の言葉だった。そして。


「なんだこりゃ……!?」


 アカの身体が崩れ始める。


「無茶な時間の流れに身体が耐えきれなかったようじゃな」

「此処で死ぬってか? アオと相打ちでか?」

「そうじゃな」

「――はっ、本望」

 

 それがアカ最後の言葉だった。

 そして無茶な時間流に飲まれ無事だったムラサキとオハシラが辿り着いたのは。


「むう? この廃寺は……」


 公安御祓局の本拠地であった。

 結局、此処に収束する。そのようにアオが仕向けた。その方がやりやすいからと。

 そしてそこに居たのは――


「よぉ待ってたぜ……四年振りだな?」

「ワタシら、もうお前じゃ練習相手にもならない程強いから」


 成長したクロとモモコであった。齢は二十歳。成人済み!

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