第15話 カゲ、ヒナタに咲く その四


 その日は四人で帰った。

 赤色の髪の少女、青色の髪の少女、茶髪の少女、黒髪の男子。

 美人揃いで、他人から見れば羨ましい事だろう。その実情を知らなければ。


「ねぇ、御祓師サイキッカーなんて辞めれば? 危ないよ?」


 茶髪の子が言う、他の三人は同時に腕を組んで首を傾げなが身体まで斜めにしながら。


「うーーーん」


 と唸った。これが毎度のやり取りであった。

 茶髪の子はヒナタ、赤髪の子はアカ、青髪の子がアオ、黒髪の男子はカゲ。うち三人は御祓師サイキッカーだった。

 公安御祓局に所属する超能力者。禍魂マガタマと呼ばれる人の幸運を吸い取る妖怪変化のたぐいを消し去るために行動している。

 茶髪の子を除いて。


「お前こそ、自分の特異体質、ちゃんと分かってんのか?」


 カゲが言う、今度はヒナタが身体を斜めに傾げて。


「うーーーん」


 と唸った。

 器、それは幸運のたまり場である。そこには自然と幸運が集まり、幸せを呼び寄せる。本人が不幸になる事はと言っていいだろう。

 特例に目を付けられた場合を除いては。


「お前は親父オハシラに狙われてんの! 分かってんのかねコイツは」


 アカが言う、頭を掻いて、片目を閉じる、やれやれと言った風貌だ。アオは笑う。


「そういうとこもヒナタらしい」

「アオ、お前なあ……いいかヒナタ、お前は俺が守ってやる」


 カゲ、精一杯のアピール。しかし。


「でもアオのが強いんでしょ?」


 さらっと流される。ズコーっとズッコケるカゲ。笑うアオとアカ。それはもうゲラゲラ笑う。ヒナタはきょとんハテナ。

 カゲは半泣きで。


「必ず……守ってやるからな……!」


 悔しそうに天に宣言した。


 しばらくして。


「野良か」

「みたいだな」


 禍魂マガタマがTOKYOに現れる。種類は虫。蝉か何か。禍魂マガタマにしては弱い方だ。名前も無い。

 カゲが先陣を切る。


「影色濃淡、形態パターンエレファントし潰せ」


 影から生える象が跳躍する、現実の象ではありえない挙動。蝉は不規則に飛んで逃げる。あちこちにぶつかりながら飛ぶ。


「あ、逃げんな! 当たんねーだろ!」


 カゲが叫ぶも聞かない。聞く耳持たないとはこの事だ。

 アオがやれやれと首を振る。


「しょーがないね、空色無式、墜ちろ」


 蝉が飛ぶ力を失ったように墜落する。羽根をいくら動かしても飛べない。藻掻き苦しむ。アカが跳んだ。


「ヒャッハー! 祓い清め給えー!」


 ……お前がそれを言うのか。コホン。閑話休題。

 アカが蹴りを打ち放つ、地面を抉り取るような豪快な蹴りだ。それは蝉の胴体を穿ち、アスファルトに穴を開ける。蝉の姿が消えていく。


「相変わらずの膂力馬鹿だな、アカは」


 カゲが呆れたように呟く。アオも羨望の眼差しでそれを見る。


「ああ、私も……いや、欲しかったのが正しいか」

「? お前は空色無式で十分だろ? 空間を操るなんてチート――」

「空間じゃなく重力だ、ゆえに時間だって操って――」


 そこに声がかかる。


「三人共ーー!!」


 ヒナタだった。


「もう探したんだからね?」


 お説教を喰らう三人、これは仕事なのだと何度、説明してもヒナタはこうして「危ない事はしちゃダメ!」と口を酸っぱくして言ってくるのだ。


「お前こそ、危ないんだから都心には出てくるなよ」

「そーだそーだ、オハシラが出て来ても知らないぞ」

「親父はおっかないぞ~」


 アオ、アカ、カゲの三人がそれぞれ脅しのポーズを取る、腕を組んで睨みつける、拳銃のジェスチャーとウインク。両手の甲をぶらぶらさせてお化けのポーズ。しかし、効果無し。ヒナタのガミガミは止まらない。三人は堪忍したかのように正座する。アスファルトの上に。正直、辛いだろう。


「もう、分かった?」

「「「はーい」」」


 三人は声を揃えて言った。その日は四人で帰った。四人の帰る場所は――


 公安御祓局だった。


「だーかーらー、サイコ・ガール+さいこうLOVE次元の物理学では時間も重力で操れます!」


 おいメタ発言やめろ。

 ……コホン、四人は酔っぱらっていた。特にアオは悪酔いだ。

 未成年飲酒ダメ、ゼッタイ。


「へーへーすごいですね」

 

 カゲは適当に受け流す、サイコなんちゃらが何かは分かっていない様子。良かった。


「私の技、使い勝手悪いんだよなぁ」


 そう言うのはアカだ。頭をボリボリ掻きながら。


「人間が禍魂マガタマを生み出すなんて、絶対、親父の影響だろ? 禍魂マガタマ退治に向いてねーよ」


 愚痴る。そんなアカをヒナタが抱き締める。豊満な胸がアカの顔を埋め尽くす。


「そんな事ないよー! アカは頑張ってる! 頑張ってるよー!」


 泣き上戸であった。というか注意する立場のヒナタもいつの間にか飲んでいる。そこに。


「コラァ! 悪ガキ共ォ! 酒なんか飲んでんじゃねぇ!」


 当時の公安御祓局主任、シキョウがやって来た。アカがすり寄る。


「あ、シキョウさんちーっす、おつまみいかがっすか、チー鱈です」

「お、いただくわ……って違うわ! 馬鹿共ォ!」

「ああ!? チー鱈が!?」


 床に無惨に投げつけられるチー鱈、みんな食べ物は大事にしようね。


「いいか? 酔い醒ませ? 

『!』

 

 四人が一斉に緊張に身体を強張らせる。


「宣戦布告があった。12月26日、クリスマスの日、TOKYOにを放つらしい」

「ヤマタノオロチ……!? 神話級じゃないっすか……!」

「ああ、それだけに被害は甚大なものになる。お前らアオ、アカ、カゲ、そして私の四人で対処に当たる」


 そこでヒナタが口を挟んだ。


「それって狙いはワタシなんですよね? ワタシを差し出せば、解決するんですよね?」

「ヒナタ!」


 カゲがヒナタを制する。しかしヒナタは聴かない。


「……それだとオハシラが顕現する」

「するとどうなるんですか?」

「旧き神と言っても神は神だ。禍魂マガタマ全盛の時代にな」

「それは……」


 禍魂マガタマ全盛の時代。人々の幸福が吸い尽くされる混沌の時代。考えるだけで恐怖が迫る。


「ヤマタノオロチって四人で倒せるんですか?」

「さあな、神話通りなら神剣でも無い限り祓えないかもな」


 シキョウは淡々と答える。ヒナタは口を噤む、かと思ったら。


「ヤマタノオロチが出てくる前に私がオハシラの前に自分を差し出します」


 そんな事を口走る。カゲが血相を変える。


「ふざけんな! オハシラが顕現しちまうって言ってるだろ!」

「いい? カゲ、私は囮、出て来たオハシラを四人が倒して? きっとヤマタノオロチより楽でしょう?」


 アカが笑い出した。


「アハハッ! 言ってくれるぜ! 相手は神様だぜ? シキョウさんならともかく、私等ぺーぺーになんとかなるかよ」

「……私は賛成、八岐大蛇より勝算はある」

 

 アオが真剣に言った。その瞳には狂気じみたナニカが宿っていた。

 カゲはお手上げと言った様子で。


「……シキョウさんどうします。俺はヒナタの護衛に付きます」


 確固たる意思だった。惚れた弱みだ。


「そうだね、八岐大蛇をTOKYOに放たれるより、オハシラを直接叩けるなら話は早い」

 

 シキョウは頷く。作戦は決まった。

 決行は翌日。

 全員が臨戦態勢を取ったのだった。

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