第14話 カゲ、ヒナタに咲く その三


 公安御祓局の本拠地を練り歩くぬらりひょん一行。

 複雑に入り組んだ、寺社仏閣は赤と白、そして金の装飾に彩られた鮮やかな神殿だ。


「神仏混交、崇めるものが混じり合っておる……」

「その神髄が紫色混濁たるムラサキなんだから皮肉だよなぁ、なぁムラサキー?」

「ワン!」


 その時だった。

 アオが現れる、カゲも一緒だ。実力ナンバーワンとツー。

 ツートップ揃い踏みだ。


「おいおい、こりゃ定期監査だぜ? 時機に私が出た事がバレる」

「……疾く出るぞ」

「ワン!」


 しかし――


「おい、アオ、アカの尋問の前にお前に聞きたい事がある。

「……お?」

「どうした疾く出るぞ」


 頭長のぬらりひょんが先を促す。

 しかしアカは人差し指を立て真っ赤な唇に当てて。


「面白い話が聞けそーだ。ちょっと聞いていこーぜ」

「オハシラ様はもうヒナタという器に興味を示してはおらん」

「私が興味あるんだよ……これでも旧知なんでね」


 ぬらりひょんがやれやれと首を振る。

 ムラサキは小首を傾げた。


「……知らないって言ったら?」

はそればっかだな! 強者の嫌味か? オハシラじゃないならお前以外に誰が知ってる!? ヒナタが俺の海外出張中にクロを一人にするはずがねぇんだよ!」

「夫婦の愛情って奴か?」


 そこでアカが口笛を吹く。


「ひゅー、アオには効く挑発だ」

「……光栄な事だろうに」


 ムラサキは変わらず疑問符を浮かべている。

 アオは重々しく口を開いた。


「……桃色の髪の女の子を見たか?」

「……クロの横に居た子か? それがどうした?」

「ヒナタには、


 その時、その場に居たアオ以外の全員に衝撃が走った。


「おいおい、あの落ちこぼれに?」

「まさか人の子に器を……?」

「モ、モコ……?」


 カゲがよろめく。


「は、はは! 何だって? もう一回言ってくれないか?」

「モモコは前にこっちの指令で禍魂を退治した時の戦闘で瀕死の重傷を負った。その肩代わりをヒナタに頼んだ。


「略色」


 カゲがノーモーションで技を発動させた。通路一面が影で埋まる。


「母親が、そんな簡単に、命投げ出すかよ!!」


 影に捉えられるアオ、身動きが取れない。


「……モモコはこれからの世界に必要だった。息子も守るためだと言ったら協力してくれた」

「そうやって騙したな!」

「結果、モモコの拡張器ブースターになっているのは事実だ」


 キッとアオを睨むカゲ。その眼光には殺意が宿る。


「お前は此処で祓う。オハシラの娘」

「やってみろ、出張帰りぽっと出


 アカとぬらりひょんそしてムラサキが一斉に駆け出す。何故か? それは此処が戦場になるからだ。最大級の戦場、その爆心地に。


形態パターンフォックス狐火ファイア

 影から九尾の狐が現れる。それの尻尾に炎が灯り、辺りを焼き尽くす。床、壁、天井、全てを嘗め回す炎。逃げ場はない。捉えられたままのアオは身動きが取れないままだ。しかし。


「略色」


 カゲが尋問のために口を塞がなかったのは悪手だった。まあ、それ以外に情報を聞き出す方法など無かったのだが。

 空間が歪む。影を払い除ける。アオがカゲと対峙する。炎がアオを包み込まんとする。


「空色無式、はじけ」


 炎が空間に押しのけられる。不可視の壁に包まれ、消えていく。


「動きさえ封じればと思ったんだがな」

「お得意のゴジ〇はどうした? 出さないのか?」

「こんなせめーとこで出せるか!」


 カゲが影の中へと沈み込む。消えた。いいや違う、奇襲の構えだ。アオは知っていた。だから緊張状態を解かない。


「こっちはぶっ放せるぞ? 五色後光、一式――」

「させるか」


 取っ組み合い、後ろからの羽交い締め。そこから。


「影色濃淡、形態パターン、天狗、扇げ」


 影絵の天狗が風を生み出す。突風はただの強い風ではなかった。


技体ぎたい影祓かげばらい」


 影を孕んだ風は刃となりアオを傷つける。出血、腕、足、顔、至る所に傷がつく。アオの身体から力が抜ける。再度、影で縛るカゲ。今度は口も塞ぐ。これで完璧、のはずだった。

 アオが指だけ動かす、中指を立てたファ〇クサイン。それだけでカゲが天井へと叩きつけられる。


「カハッ!?」


 喀血するタキシードの男、衝撃のせいか、口の中を切ったらしい。もしくは内蔵までか。その場合は吐血だ。

 しかし、気合いと根性でアオを縛る影は消さない。しかし。


「どーした? 緩んできたぞ?」


 口を無理矢理、外に押し出すアオ。その顔には笑みが張り付いていた。


「聞こえるかミドリ! モモコ達を起こせ!」


 声を有らん限りに叫ぶアオ。カゲが地面に着地する。


を呼んでどうするつもりだ? 人質か?」

「呼んだのはだ」


 公安御祓局の内部、緑の庭園から脱兎の如く、入り組んだ本拠地を、駆け抜けて来た者達。緊急事態とだけ告げられ、寝ぼけ眼で駆け付ける。


「……親父? なんで親父がアオさんと?」

「クロ、気ぃ抜くな。強敵だZE」

「そういう事」

 最後にアオがにやりと嗤う。下卑た笑みだった。


「アオ!!」

三人相手だ。お前もは出せないだろう?」


 困惑するクロ、強張るモモコ、不敵なアオ。対峙するカゲ。

 そんな中、公安御祓局を脱出するぬらりひょん一行。

 公安御祓局の境界チャンネルを抜けたアカがふとこんな事を語りだす。


「まさかあの二人がり合う事になるなんてなぁ」


 思い出は四人の学生時代に遡る。

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