第13話 ぬらりひょん潜入戦


 廃寺の前、ぬらりひょんは立っていた。


「お札の境界チャンネルは……そこか……」


 パン! と柏手を打つ。

 すると豪華絢爛な寺社仏閣が現れたではないか。


「これは見事なり者達の集まりにしたは信心深きかな……」


 長頭のぬらりひょんはすっと公安御祓局へと入っていく。警報サイレンは鳴らない。そういう特性を持つ禍魂マガタマなのだ。


 まず向かうはアカのところ。

 入り組んだ道を抜け、アカが閉じ込められている部屋へと迫る。


『いざという時のためにアカにも同じ札を付けてある……くれぐれも順番を間違えるな……』

 

 オハシラの言葉を思い出すぬらりひょん。


「なんと用意周到なお方なのか……む、着いたか」


 そこは鉄扉だった。硬く閉ざされた門。しかし。

 ぬるり、そんな効果音がよく似合う。着物姿の男は扉と扉の隙間から入り込んだ。

 そこには泡に閉じ込められたアカが居た。


「久しいのうアカ」

「……! ……!」

「そうかそうか喋れぬか、今出してやる」


 札を燃やすぬらりひょん、なんの予備動作も無かった。

 すると泡の中のアカも燃えた。

 泡が内側から弾け飛ぶ。


「やーっと外に出られた。助かったよぬらりひょん」

「いえいえ、これも全てオハシラ様のため……」

「はいはいっと、んで次は? 此処ぶっ叩く?」

「いえ、ムラサキの確保が最優先」

「ちぇ。獲物は目の前だってのに。ミドリ辺りから叩きたかったよ」


 コホンとぬらりひょんが咳をする。


「あまり血気立たれるな。目立ってしまう」

「あんたの近くに居りゃバレないんだろ?」

「そうではあるが、限度もある」

「はいはい……」


 二人してぬるりと鉄扉の外へ出る。

 通りすがる人がいても気付かない。

 誰も、誰もである。


「見張りも立てないなんて、アオも不用心だねぇ」

「人手不足なのであろうよ、世は禍魂マガタマで溢れておる。お前を押さえていられるのなど〈青ざめる恐怖〉くらいしかおらん」

「そういうやそうだな、ヒヒッざまあみろアオ!」


 二人は入り組んだ通路を抜け、座敷牢へとたどり着く。


「こんなとこに閉じ込められて可哀想に、ムラサキ、ねーちゃんが迎えに来たぞ」

「お、ねーちゃん?」


 鎖に繋がれた褐色肌の少女、黒髪黒目。

 赤髪に灼眼のアカとは対照的だ。ムラサキの名とは程遠い。


「何故、この子がムラサキなのだ」

「そりゃ、私とアオの血を混ぜてオハシラが作ったクローンだからさ」

「なんと……さすが神の一柱よ……」

「そんな崇めるもんかねぇ、人でも出来るぜそんな事、まあ、そこにオハシラ自身の細胞まで混ぜるのはアイツにしか出来ねーだろーが」


 ぬらりひょんは改めてコホンと咳を吐く。


「あまり不遜な態度を取り続けるな? こちらの限度というモノもある……」

「わりぃわりぃ、ちゃんと敬ってるってば」

「ならばよい、行くぞムラサキ」


 またしてもぬるりとである。

 鎖から解き放たれるムラサキ。座敷牢からも抜け出す。鮮やかな脱出劇。

 後は抜け出すだけだった。

 この難攻不落の要塞から。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る