第12話 カゲ、ヒナタに咲く その二
「オハシラ、お前に聞きたい事はただ一つ、ヒナタはどこだ」
カゲにオハシラと呼ばれた不定形は首(?)を傾げるようなそぶりを見せながら。
「知らない、と言ったら?」
「お前が知らないはずないだろう!!」
激昂するカゲ、その影が伸びていく。
「都合の良い物しか見ない目を持つと苦労するのう、カゲ。アレは確かに良い器じゃった。がしかし、今、必要なのはムラサキじゃ」
「嘘を吐くな。何を顕現させた? お前は! ヒナタを何に利用した!」
「〈青ざめる恐怖〉辺りのが詳しいんじゃないのかえ?」
「すっとぼけやがって……。影色濃淡、沈め!」
影が世界を包み込む、その領域はとても広い。TOKYO中に広がったという緑色植樹を超えんとばかりするほどだ。
オハシラも唱える。
「●●●●、喰らえ」
何かが虚空から現れ、影を喰らって行く。飲み込むように飲み下すように飲み干すように。延々と、延々と。
「俺とお前じゃ千日手だ」
「ふむ、ならばどうする?」
「癪だが、アイツが来るまで時間を稼げればいい」
「……まさか」
その頃、モモコ達は、緑の庭園に居た。
「ミドリ、その子等、ちゃんと眠らせた?」
「ええ、アオさん『緑色植樹、眠れ』はちゃんと効いています」
「ホント便利だよね、機会の霊的
「その代わり、私は此処から動けませんが」
そう車椅子に根を張る少女、ミドリは語った。
車椅子に根を張るとは、どういう事か。見たままなのだが、足から先が樹になり、その根が車椅子の車輪に絡まっている。
「不便な身体だ……って思う?」
「いいえ、こうして皆様のお役に立てるのなら、本望、でしょう」
「そう……じゃ、私はもう一仕事行って来る」
「行ってらっしゃいませ」
「お土産何が良い?」
「いつも通り、ひよこを」
「了解」
アオは庭園を出た。
「お前は何をしようとしている!」
肉弾戦、タキシードの成人男性と不定形が
殴る蹴るの応酬、しかし、手応えが互いに無い。
「影に溶けているな貴様」
「お前こそ
「お前の息子は捉えたぞ、真も偽も、な。」
「俺とヒナタの息子だ。当然だろう」
銀色の瞳が眩く光る。銀髪を逆立てて蹴りを放つ。カゲという言葉に相応しくない相貌。
不定形を掴む。そのまま地面に叩き付けて踏みつける。
「影色濃淡、溶けろ」
じゅううう!! という音が鳴る。そこでようやく不定形にダメージが入る。
「ぐ、ぐおお、久方ぶりの火傷……! アカの遊びに付き合って以来か……!」
「いつの話してんだ親馬鹿」
お前が言うな状態のカゲはたたみかける。
「影色濃淡、飲み込め」
地面が大口を開けた。不定形が飲み込まれていく。
「魔都TOKYOに放たれた
「今更何を……?」
疑問符を浮かべるカゲを無視してオハシラは嗤う。
「●●●●、戯れろ」
都市中央部、100体の
「……!? 馬鹿野郎!」
「ホッホッホッ、アイツは幸運を吸い取らず人を殺す異形ゆえアカ以外使いこなせなんだ。しかしこういう
仕方なく一旦、影色濃淡を解くカゲ、そうしないとジャック・ザ・リッパーの群れに対応出来ない。
「影色濃淡、拡大、変形、パターン
影絵遊びだ。手を使って影絵を作る。その姿は映画に出てくる怪獣王さながら。
熱光線でジャック・ザ・リッパーを薙ぎ払っていく。しかし足りない。
影怪獣に無数に纏わりつくジャック・ザ・リッパー。切り裂き、血飛沫ならぬ影飛沫を上げて行く。
「足りない……か!?」
「後ろががら空きじゃぞ?」
不定形の蹴り(?)を喰らうカゲ。息を漏らす。
「カハッ!?」
「さて、一発仕返した事じゃし、ワシも帰ろうかのう。ムラサキは残念じゃったし、アカも取られたが成果はあった」
「なん……だと……?」
カゲはジャック・ザ・リッパー相手に集中力を結集させていて、オハシラに向けるリソースが無い。このままだと都市に被害が出る。オハシラを逃がしてしまう。
そんな時。
「どうやら、間に合ったみたいだね」
「〈青ざめる恐怖〉……」
「やっと来たか……」
空中に降り立つアオ、照準はオハシラとジャック・ザ・リッパーの群れを直線上に捉えている。
「少し派手に行こうか。五色後光、十式、放て!」
放たれるレーザービーム。
その光線はカゲの造った怪獣の
ジャック・ザ・リッパーの群れを薙ぎ払い。オハシラを捉える。
「●●●●――」
オハシラが何かを唱えて――
消えた。
「ちっ、逃がしたか」
「お前が遅いからだアオ」
「お前が弱いからだカゲ」
二人は互いに互いを殴り合った。顔面、グーパン。
そして笑い合った。
可笑しな二人だが、そのやり取りで二人が気の置ける友人であろう事が分かる。片方がそう思って無かったとしても。
とある地下、不定形が崩れる。
現れる人型は、か細い少年だった。
「よもやよもやだ……何年生きて来たと思っておる……この世代は化け物か……
その手に握られたのは一枚のお札。
「これをムラサキに貼り付けた。これで公安御祓局の
傍に仕えるのは、とある漫画家によって妖怪の総大将となった
「御意、全てはオハシラ様の御心のままに、最後の一柱、絶対にその悲願成就までお仕え致しまする」
「まずはアカを解き放て。良いな?」
「御意」
掻き消えるぬらりひょん。オハシラは笑う。
「ふはは! そこまで潜り込むとは思うまい! アオよ! 勝負はここからじゃ!」
しかし、そこで怪訝な顔をするオハシラ、金色の髪が揺れる。
「しかし、ヒナタはなんの器にされた……?」
眠る女性、茶色い髪に可愛らしいパジャマ。目鼻立ちは幼げだが、身体は出るとこは出ている、そんな不思議な印象の女性。
どこかモモコに似ている。
モモコを知っている人が見たらそう思ったかもしれない。特にクロは。
しかし、カゲはそうは思わない。自分が幼い頃に出て行ったと思い込んでいるクロとは違い、カゲはヒナタをよく知っている。
そう彼女こそがヒナタ。器の中の器。
彼女は今、モモコの中に居た。
少し、状況を整理しよう。
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