第16話 カゲ、ヒナタに咲く その五


 公安御祓局の本拠地の廃寺、器たるヒナタが巫女姿で現れる。傍には誰もいない。そこに現れる、高齢の男性。浴衣を着ている。


「ホッホッホッ、飛んで火にいる夏の虫とはこの事よな。境界の外に器が出るとはな」

「今は境界チャンネルって言うらしいよ、お爺ちゃん」


 器とオハシラが対峙する。周りに気配は無い。ごくりと固唾を飲み込むヒナタ。オハシラが嗤う。


「くくく、怯えているのか器、お前は儂が顕現する贄となってもらうが構わんな?」

「構うに決まってんでしょ!」


 それが合図だった。

 影から飛び出す四人、カゲ、アオ、アカ、シキョウ。


「五色後光、十式、放て」


 シキョウが技を放つ。極光が放たれる。オハシラを飲み込む。辺りの木々も薙ぎ払う。しかし。


「効かぬな」


 ピンピンとしているオハシラ。ダメージが入っている様子はない。シキョウが舌打ちをする。


十式最大出力でもダメか……どうする?」

「全員で一斉攻撃……!」


 カゲが答える。シキョウは黙って頷いた。アオとアカも同様だ。


「影色濃淡、形態パターン怪獣モンスター

「赤色遊戯、現れろ、不動明王!」

「空色無式、沈め」


 対するオハシラの反応は。


「●●●●、喰らえ」


 虚空から大口が開かれる。全ての技を飲み込みにかかる。しかし、その大口を不動明王をが切り裂く。そして怪獣王の影絵が熱光線を放つ。オハシラはそれをしかし、アオの技が老人を逃がさない。ヒナタはシキョウが避難させた。

 オハシラは熱光線に焼かれる。そこで初めて呻き声を上げた。


「たたみかける――五色後光、十式、放て!」


 シキョウがオハシラを捉える。現れる極光は今度こそオハシラの芯を捉えたかに見えた。しかし。しかしだ。

 それでもなお立ち続けるオハシラ。


「老害め……!」

「ホッホッホッ、口の利き方がなっとらんのう」


 互いに距離を取る御祓師サイキッカーとオハシラ。それぞれ様子を伺っている。先に動いたのは――


怪獣モンスター、放て」


 影絵の怪獣王は健在だ。ダメージが通ったのも確認している。カゲは総合的に加味して先手を仕掛けた。アオとアカもそれに合わせる。


「不動明王!」

「空色無式――」


 しかし、そこで。


「娘達や、こんなのはどうだ?」


 現れたのは褐色肌の少女、獣耳を頭に生やした異形。裸だ。


「!?」

「なんだお色気攻撃か?」

「アカ、思春期のカゲをいじめるな」

「お前ら真面目にやれ」


 オハシラが顎を撫でる。


「名をムラサキと言う、お前らの求めた、アカとアオの混合体じゃよ」

「!?」

 

 今度、驚いたのはカゲではなく、アオとアカだ。


「クローン人間かよ、気色悪わりぃ」

「神なら何でもありか」

「……確かに人間と神の混合体は悲願だが、お生憎様、アオとアカで間に合ってる」

「そうか、さぁムラサキ、吠えろ」


 ムラサキと呼ばれた少女が頷く。


紫色混濁、爆ぜろワン


 辺りが弾けた。爆発だった。シキョウの腕が吹き飛んだ。アオの片目が潰れた。アカの臓器にダメージが入った。カゲが吹き飛んだ。

 オハシラは笑う。


「ホッホッホッ、どうじゃどうじゃ、一鳴きでこの威力、欲しいじゃろう?」


 シキョウはアオに近づく。小声で何かを呟く、オハシラに聞こえないように、それを察してアカがダメージを負ったまま陽動に出る。カゲは吹き飛んだ位置から元の場所へと駆ける。


「私の片目をやる。それで五色後光が使えるはずだ」

「シキョウさん……?」

「私は此処で死ぬ、次の主任はお前だアオ」

「シキョウさん!」

「二人でトドメを刺すぞ」


 不動明王とオハシラがかち合う。しかし、オハシラが膂力で勝る。そこに追いついたカゲの怪獣が加勢する。オハシラを押さえ込む。

 アオに片目を移植したシキョウ、片目の眼窩がんかから血を流している。


「一緒に行くぞ」

「s……はい」

『五色後光、十式、放て』

 

 二筋の極光。押さえ込まれたオハシラを捉える。消し飛ばした――

 かに見えた。


「もう止めにせんか人間」


 オハシラは半身を焼き捨ててまで、平穏を装う。苦虫を噛み潰したような顔をするシキョウ。カゲ達も同じだった。

 ムラサキはピンピンしている。


「そこの坊主だけは厄介だから殺す」

「は?」


 狙いがカゲに移った。選択眼リモコンアイを見破られた。都合の良いものしか見えない境界チャンネルを合わせる瞳。

 それがオハシラにダメージを与えた要因だった。


「●●●●、穿て」


 虚空から何かが刺突される。そこに割って入る人影――

 ヒナタだった。腹部を貫かれる。そこで刺突は止まりカゲには届かない。


「つうっ!?」

「ヒナタ!? 馬鹿野郎!」


 急いでヒナタを受け止めるカゲ。オハシラも驚いている。


「いかんいかん、器を殺しては、儂が顕現出来なくなる」

「カゲ、使

「……ヒナタ?」


 器とは他人に幸運を与える拡張器ブースターになりえる。その事は、皆知っていた。だけど誰もそんな選択肢を選ぶ気は無かった。皆、優しいのだ。それをヒナタは我慢ならなかった。


「私、足手まといになりたくないよ」

「……分かった、この戦いが終わったら開放する。そしたらミドリちゃんに治してもらおう」

「うん、分かった」

 

 カゲは一つ深呼吸する。


「我、器と契約せし者、その運気、力として受け取らん」


 光が放たれる。ヒナタが光輝きその光はカゲへと伝播する。


「シキョウさん、腕借りる」

「ああ、いいよ」


 吹き飛ばされたシキョウの腕を拾い上げるカゲ、その腕を使って影絵を作る。


「合わせろ、アオ、影色濃淡、形態パターン四凶シキョウ、放て」

「五色後光、十式、放て」

「私もまだ撃てるぞ……略色、放て」


 三色の極光。オハシラへと向かう。逃げようとするオハシラ。しかし。


「不動明王はまだ無事だぜ親父ぃ!」

「アカ……お前はこっち側にいるべきじゃ」


 光に包まれる。終わった。


「急いで、ヒナタをミドリちゃんのとこに!」

「分かってるよ……ったく静かに死なせてくれよ……」

「シキョウさんは私が見届けるから行って来な」

「ありがとうアオ」


 ヒナタをお姫様抱っこして公安御祓局へと駆けこむカゲ、シキョウが瀕死のこの状況で薄情だと思うだろうか。それほどまでにカゲはヒナタを愛していた。

 アカがアオに迫る。


「わりぃアオ、私、親父につく事にするわ」

「……は?」

「今回の件で器の強度が分かったんだと。。だから作戦変更、禍魂マガタマ使って地道に幸運集めるんだと。それなら親父についた方が、こっちより私の活躍の場ありそうじゃん」

「本気で言ってんのか?」


 片目から血を流したアオが睨む。アカはその傍らのシキョウの亡骸を眺めながら。


「目標も死んじゃったし、五色後光も奪われたし、此処に居る意味はないかなって」

「だったら此処で死ね」

「満身創痍でよくやるよ」


 激突の音だけが響いた。

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