第17話 カゲ、ヒナタに咲く その六
激突の後、アカには逃げられたアオ、ヒナタは無事だった。カゲは安堵した。ミドリの「緑色植樹、治癒」のおかげだ。
そして時は現在へと一瞬戻る――
今、激突しているのはカゲ対アオ、クロ、モモコである。
カゲは息子に手出し出来ないし、ヒナタを取り込んでいるモモコにも手出し出来ない。防戦一方であった。そんな時。アオが動く。
親指と人差し指で丸を作り瞳を通し見つめる。
「お前に真実を見せてやるカゲ、空色無式、遡れ」
「何を――」
時間にして一秒、カゲの脳内にアオの記憶が流れ込んだ。
「はぁ……あれ以来、アカもオハシラもムラサキも現れない、雑魚狩りも飽きた……」
カゲはヒナタと学生結婚、その後、子供をもうけ、カゲは公安御祓局の任務で海外出張に。
アオは暇を持て余していた。
そんなある日。
とある橋の下。少女が居た。黒ずくめの恰好、如何にも目立ちたくありませんと言った風貌、しかし桃色の髪の毛がそれを邪魔する。
「なにやってんだあの子……? 野良犬に餌でもやってんのか……?」
何か橋の下でもぞもぞと動いている。そこに居たのは。
「……ムラサキ!?」
半魂半人の少女、ムラサキであった。桃色の髪の子に懐いている様子。
「誰!?」
桃色の少女が振り返り叫んだ。ムラサキは震えながら。
「モ、モコ?」
とその少女を呼んだ。
一方、その頃、オハシラは。ちなみにこの記憶はアオも知らないしカゲも見ていない。
「何故、ムラサキを逃がした!? アカ!」
「わりぃなオハシラ、も少しアオと遊びたくなった。下準備は早い方が良いと思った」
「享楽主義者め……」
「落ちこぼれも付けてるし安心だろ? あんなムラサキとヒナタの出来損ないみたいなやつ、お目付け役にはぴったりじゃんか」
「あんな餓鬼にお目付け役など勤まるものか、せいぜいじゃれ合うだけじゃ」
若い少年の姿をしたオハシラが顎を撫でる。
「面白くない……今はただ
状況が分かったところで、アオに視点を戻そう。
(この子、器か? しかも超能力持ちだ)
シキョウの眼を貰ったアオにはそれが分かった。異能の流れを感じ取る、その名も
モモコには幸運が集まっていた。しかし、それを阻害するように超能力が発現していた。
「君、モモコちゃんって言うの? その子、ムラサキ……ちゃん、と何処で出会ったの?」
「……私達捨てられたの」
爆弾発言だった。
「見えちゃいけないものが見えてるお前らはいちゃいけないんだって最初の家を追い出された。孤児院でも腫れ物扱いされた。最後に着いたアカさんとオハシラ様のところでも、私達は認められなかった」
(アカがこの子らを見捨てた? んな馬鹿な……何かの罠か?)
思案するアオ、しかし。
「ねぇお姉さん。私達どうすればいい?」
懇願する瞳、アオはそれを拒めなかった。
「……おいで、公安御祓局は貴女達を歓迎するよ」
こうして二人は公安御祓局の管轄となった。
「どうして!? どうしてムラサキちゃんを鎖で繋ぐの!? どうして閉じ込めるの!?」
待ってた現実は甘くない。ムラサキは要注意検体として封印処置。
モモコは――
「強くなりな、モモコちゃん。そしたらムラサキは開放したげる」
「そんな――」
「モ、モコ……」
座敷牢の鉄格子から覗くムラサキの顔、モモコは決意する。
「絶対そっから出してあげる、待っててムラサキ!」
そこからは地獄の修行の日々だった。
身体から念動力を発するモモコは斬撃に特化していた。体術を覚えさせ、超能力のコントロールを覚えさせ、それをひたすら順繰りに繰り返した。
「はぁ、はぁ」
「まだ技、習得には至らないか」
「でもワタシ、
「そうだね……試しに任務に出てもらおうか」
それはクロが中学の頃、今が高校だから、約数年前。
まだ二人が知り合う前、クロが普通の不幸な少年だったころ。
ナマコ型の
血飛沫、
それを浴びて強くなった実感を得る。その時だった。
「私、綺麗?」
そんな言葉が耳に入る。
「へ?」
『口裂け女』現代妖怪の一種。対処法はいくつかあれど。知らなければ即死級の妖怪。
モモコは瀕死の重傷を負った。公安御祓局の非戦闘員に本拠地へと運び込まれた。
「……どうだミドリ、治せそうか?」
「駄目です……緑色植樹でも、限度があります……」
「貴重な器なんだ……どうにか……待てよ、器……?」
公安御祓局を飛び出すアオ、向かうはヒナタの住むアパート。
「あら? どうしたのアオ? 久しぶりじゃん!」
「悪いヒナタ、協力してくれ」
「へ?」
ヒナタの意識は失われた。アオが略色を使ったのだ。
次に目覚めたのは公安御祓局の緑の庭園。
「ううん、此処は……?」
「ヒナタ、頼みがある。この子を救って欲しい」
そこに横たわるのは重傷を負ったモモコ。驚くヒナタ、悲鳴を上げなかったのはその胆力ゆえか。
「どうして?」
「それがこれからの世のためになる」
「……アオが言った事に間違いなんてなかったよね。クロを一人にするのは寂しいけど。仕方ないね」
きっと分かってくれる。そう心の内でヒナタは願った。ごめんなさいあなた、とも。
「我、器として、彼女と契約する、我が幸運を彼女に分け与えん」
瞬間、ヒナタは光に包まれモモコに吸い込まれていった。アオはその様子を冷ややかに見守った。
モモコの傷は癒えていた。
「これで器は成ったな。後は超能力者として大成させるだけだ。それだけで
「カゲさんが黙ってませんよ」
「そんときゃ実力で抑え込むさ」
一秒経った。カゲの意識が戻る。
「結局、利用してんじゃねぇか! ヒナタの信頼に甘えて!」
そこでクロが目を見開く。
「母さんがどうしたって?」
カゲは言う。
「いいかクロ、今、母さんは、その桃髪の嬢ちゃんの中にいる。だから俺はそれを取り戻す」
「……は?」
「……アオさんどういう事?」
クロとモモコが困惑する。アオはため息を吐いて。
「子供に究極の選択を迫るなよ、ましてや親がさ」
「その状況に追い込んだのはどいつだ……!」
「さあね、オハシラか、アカ辺りじゃないかな、少なくとも私じゃない」
「しらばっくれるな!!」
困惑するクロとモモコは動けない。アオとカゲの一騎打ち。
「まだ形見は残ってる」
影から腕を取り出すカゲ。アオは驚き目を見開く。
「シキョウさんの……!?」
「ぶっ放すぞ……影色濃淡、
極光が通路を席捲する。アオはクロとモモコの前に出る。
「悪い、後は頼んだ、五色後光、十式――」
光に飲まれるアオ。その光はモモコ達までには届かなかった。
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