第18話 カゲ、ヒナタに咲く その七
アオは倒れた。残されるはモモコとクロの二人。
「マズいクロ、アオさんがやられた。私等の手には負えない」
「待ってくれよ! 親父なんだよ! んでもってお前の中に母さんがいるってどういう事だよ!?」
「そんなの私が知るかよ!」
「痴話喧嘩はそこまでか?」
カゲが前へ出る、アオの身体を踏みつけて。
「野郎……!」
「おい、馬鹿親父! 状況をちゃんと説明しやがれ!」
「クロ、お前らはアオに利用されてんだよ。分かれよ」
「言葉少なすぎんだろ!!」
クロとカゲがぶつかり合う。互いに徒手空拳。接近戦にて分があるのはカゲだ。戦闘経験が違う。しかし――
「
「影色濃淡、捉えろ」
「黒色一蹴、散らせ!」
「クロ、お前のソレはただの蹴りだ」
あっさり影に捉えられるクロ。残るはモモコだ。
「ヒナタを返してもらう」
「返したらワタシはどうなる?」
「最悪、死ぬかもな、だがどうでもいい」
「ワタシが死んだらクロも死ぬぞ?」
「なにっ!? まさかお前ら……!?」
「ああ、使い魔契約をした」
カゲがよろめく、壁に手を突く。
「息子か妻か選べってのかよ……!」
その刹那。
「逃げるぞクロ!」
クロを担いで影から抜け出すモモコ。カゲの横を通り抜けて公安御祓局の外に出てTOKYOに躍り出る。
「この都心なら見つからな――」
そこで見てしまう、雑踏に紛れ込む、アカ、ムラサキ、ついでにぬらりひょん。
「あいつら、いつの間に……!」
今更のように公安御祓局の
アカ脱走、ムラサキ脱走、アオ昏倒、カゲ離反。
状況は混沌を極めた。百鬼夜行の続きの様だった。
クロを地面に降ろすモモコ。クロは困惑した様子で。
「俺の命と母さんの命……? それにモモコの命も……? どうしたらいいんだよ……」
「……ごめんクロ、まさかそんな事になってたなんて、でも今はアカさん達を追わなきゃ」
「……次から次へと」
雑踏に紛れ込む二人、なんとかしてぬらりひょん一行を追う。ぬらりひょんの性質は都会では発揮されない。室内でのみ発揮される。
モモコは一か八か叫んでみる事にした。
「ムーラーサーキー!」
反応は、あった。
「モモ、コ?」
「ちっ、厄介な」
「疾く帰るぞアカ」
「先、ムラサキ連れて帰れ、ぬらりひょん、あの二人は私が足止めしとく」
「承知」
ムラサキの手を引き、雑踏へ消えるぬらりひょん。
アカはナイフを取り出した。
「得物は得意じゃないんだけどさ、対人戦と言ったらこれよね」
「アカさん……本気なんすね」
「どうした落ちこぼれ、今更、泣きべそか?」
「モモコ、こいつさっさとやっちまおう」
激突する二人と一人。
「赤色遊戯、宿れ、ジャック・ザ・リッパー!」
アカに殺人鬼の魂が宿る。その身体能力が格段に上がる。
「桃色呼吸、
モモコも超能力で身体能力を強化する。それは今、完成させた技だった。
「これがヒナタの
「こっちも忘れんな!」
白銀に輝く眼球、クロの蹴りがアカの脚を捉える。ローキックだ。モモコが畳みかける、ナイフを持つ手に手刀、ナイフを叩き落そうとする。
しかし。
「効かない」
切り裂く、切り裂く、切り裂く。クロとモモコがズタボロに切り裂かれる。二人が血塗れになる。
「――!?」
「な、にを」
「ジャック・ザ・リッパーは正体不明の殺人鬼、
「試してみればいい……! 桃色息吹、消えろ――」
アカは一息にモモコを斬り捨てた。
「がっかりだよ、落ちこぼれ、結局、アンタはヒナタにもムラサキにも成れないんだ」
「さっきから人の相棒を落ちこぼれ、落ちこぼれっていい加減にしろよテメェ!」
クロが満身創痍で飛び込む。アカは見向きもせずに刃を振るう。突き刺さるナイフ。確認もせず、それは心の臓を捉えたと確信した。しかし――
「――なに勝った気でいやがる。アバズレ」
「なに?」
クロは腕で心臓をガードしていた。放っていたのは蹴り、腕はフリーだった。腕に食い込むナイフ、それを筋力だけで挟み込む。動かせない、抜けない。
「なんつー筋力……!?」
アカ以上のソレ、いやアカが衰えたのか。クロはそのままもう片方の足で蹴りを放つ。狙いはアカの顔面、それをナイフを持ってない方の手で振り払おうとするアカ、しかし。
(威力が――!?)
手のガードを貫いて顔面にヒットする蹴り、顎を捕らえ、脳震盪を引き起こさせる。しかし、そこで変化が生じた。アカの身体が倒れる寸前で不気味に脈動する。
「ヒャ、ヒャハハハハハハ!! 何年ぶりのシャバだぁ!?」
ピエロ化粧の顔になったアカ。意識を失った事で肉体の主導権がジャック・ザ・リッパーに乗っ取られたのだとモモコは理解する。
「こいつを祓うぞクロ……話はその後で」
「……りょーかい」
対アカ、第二ラウンド開幕。
不規則な動き、不可思議なナイフ捌き、意味不明な言動。全てブラフ。その一撃は全て致命傷狙い! ジャック・ザ・リッパーは踊り狂う!
「あーそびましょー!」
「
「桃色息吹、吹っ飛べ!」
弱体化の
「今だクロ! 臓物を引き抜け!」
「え? でも相手は人間じゃ……」
「覚悟はどこやった! 今のアイツは
「……了解!」
跳び上がるクロ。ジャック・ザ・リッパーと対峙する。手を伸ばす、目指すは臓物、腹の中。しかし、そこで切り落とされる腕のイメージが流れ込む。思わず手を引っ込める。
「ヒヒッ!」
ジャック・ザ・リッパーが嗤う。そのまま摩天楼の上まで吹き飛ぶ、いや自力で飛んでいる。浮かんでいる、風船のようにゆったりと。クロがすんでの所で届かなくなる。
「宿主が限界みたいだわー、まーたなー」
「逃げるな!」
叫ぶモモコ、摩天楼を駆けあがる。しかし、そこにピエロ化粧の女の姿は無かった。クロも遅れて駆け上がって来る。
「逃がしたな――」
その時だった。モモコの影から腕が生えた。その腕はモモコの胸を貫き、心臓を抜き取った。
「――モモコ!?」
「悪いなクロ、俺が愛したのはヒナタなんだ」
やがてクロの意識も暗転する。死――
それが二人を包み込んだ。
――しばらくして。
「あーあ、カゲの野郎、息子ごと殺しやがった」
アオだった。極光に飲まれ昏倒したはずのアオが健在していた。
「これで計画もおじゃんだ……仕方ない、空色無式、遡れ」
真っ暗闇、そこにクロは居た。
「どこだここ? 俺は?」
「クロ」
呼ばれて振り向く、そこに居たのは――
「母さん!?」
茶髪の女性、今まで気づいていなかったがモモコに似ている気がしたクロ。
「私とモモコちゃんはまだ少しだけど繋がっているわ」
「! そうだモモコは!」
「無事よ、アオの空色無式が間に合った」
「良かった……でも母さん、どうしてこんなところに、つーかここどこ?」
「此処は
そこでクロがヒナタへと手を伸ばす。
「母さんも帰ろう!」
「いいえ、ダメよ。貴方達はやるべきことがある。そのためには私の命は必要なの」
「そんな――」
「いい? 決してオハシラを顕現させてはダメ。それだけは阻止しないと人間にとって不幸な時代が来る。そのためにモモコちゃんは必要。だから守って、例え
「親父と戦う事になっても……」
クロは頭を思いっきり掻く。
「それが母さんの望んだ事なんだな!?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、分かった」
「よろしい! 花丸あげちゃおう!」
「そんな歳じゃねぇって……あれ?」
クロの身体が浮かび上がる。天へと向かって、地に足着いた母と離れていく。
「じゃあね、クロ、また会う日まで」
「きっと! またね! 母さん!」
こうして二人は別れた。
そして目覚めたのは、公安御祓局の医務室のベッドの上で、何故か横にモモコが居て、すやすや寝息を立てていた。
「こいつのために親父と戦って母さん犠牲にして、なんか残るもんあんのかな……」
正直、オハシラが顕現とかどうでもよかった。
問題はクロがモモコを好きかどうか、それだけだった。
母が混じった存在を好きというのはマズくないだろうかなんて疑惑が浮上してきた。
クロはいつぞやのキスを思い出して身震いする。
「はぁ……考えても仕方ないか……もっかい寝よ」
モモコと少し距離を離して寝る事にした。そしたらベッドから転げ落ちた。
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