第7話 河童でマフラーを作るんだって!


 魔都TOKYOの外れ、河原。

 そこに夜、招集されたクロとモモコ。

 誰からか? 勿論、公安御祓局からだ。

「こんな河原になんの用だよー」

 むくれるクロ、恰好はいつもと変わらない黒一色にヘッドホンだ。しかし、そのヘッドホンが色とりどりのペンキをぶちまけたような柄になっている。 Rock 'n' Rollの印字、モモコの着ていたシャツと同じブランドである。

 

「俺のヘッドホン……」

「黒とかダサいから塗っといた」

 スプレー缶をぐるぐる振り回しながら言うモモコ。

 これは過去のお話、河原に来るまでの出来事。

「ダサいって……俺の事、全否定か……?」

「ジョーダン! 私とお揃いにしたかっただけだZE☆」

「そんな事言ってお前の恰好はなんだ!」

 今日のモモコは桃色の髪に似合わぬこじゃれたワンピースだ。

「あ、スカートの心配? だいじょーぶだよ? スパッツだから」

「んな心配してねー!」


 モモコがくいくいと手でクロを招く。なんだなんだとも忘れて迂闊に顔を近づける少年。少女は呟く。

「公安御祓局から通達♡」

「小声で言う事かそれ?」

「公安の秘密部隊なんだからトーゼン!」

「どうせ境界チャンネルは違う人間には見えないんだろ?」

「マーネ」

 鼻歌を歌うモモコ、そこで溜め息を吐くクロ。

「はぁ……分かったよ、どうせ行かなきゃ行けないんだろ。一心同体なんだから」

「一蓮托生!」


 そんな訳で(?)河原に至る。

 そこに。

「お、モモコじゃん? 男連れでどしたん?」

「あ、マシロさん!」

 歩み来る二人組の影。なんかとげとげしい。

「ん? また新キャラか?」

 暗がりから出て来た人影は、実にパンクな恰好をしていた。

「あん? 誰だそのオトコ? 俺の妹分に手ぇ出したら許さねぇぞ?」

 男と女、男の方にすごまれるクロ。

「ひぇ……」


「あー、違うっすよハクジさん。こいつワタシの使い魔っす。クロって言います」

 モモコがクロとハクジの間に入る。

「えー、マジ! モモコちゃんも使い魔ゲットしたんだー!」

 最初にマシロと呼ばれた女性が歓喜の声を上げる。

「……マジか、わりぃな脅かしちまって、俺ハクジってんだよろしくな。こいつマシロの使い魔やってる。けどマシロより先輩」

「……? 使い魔のが先輩?」

 そこでマシロが説明に入る。

「ハクジは公安御祓局に保護されてたの、そこでアタシがスカウトされて、相棒バディになったってわけ!」


「なるほど?」

 要は余り者同士という訳だ。とは口には出さなかったクロ。

「ハクジさん達も、此処に来るよう通達されたんすか?」

「そだよー、って事はモモコちゃん達も!? アタシ達、信用されてないのかなー。どう思うハクジー?」

「新人研修みたいなもんだろ? クロって言ったっけ? そいつに習うより慣れろしたいんだろ」

「なるほどー! 流石ハクジあったまいいー!」

「へ、褒めすぎだぜ……!」


 しかし、夜の暗闇に目が慣れてくると思わぬところに気づく、二人の恰好だ。

「……なんすかその骨」

「お? これが見えんのか。当たり前か使い魔って事は境界チャンネルが合ってるって事だもんな。これは禍魂マガタマの骨だ。魔除けだよ」

 とげとげしたパンク衣装の棘の一つ一つに骨が刺さっている。

「今回の獲物も楽しみだぜぇ!」

 いや、魔除けなら寄って来ないんじゃ……と内心思うクロだったが。そこで奇声が響く。

「キェェェェェ!!」

「何だ!?」

「アハッ! クロ! 河童の声だZE!」

「河童!? お前が俺に似てるって言ったあの!?」

「だからあれはジョーダン! いくよ!」

 クロのパーカーのフードを引っ張り河原の草むらに飛び込むモモコ。

 マシロとハクジの姿が見えない。


「おっし始めっか!」

「キェェェェェ!!」

 そこは土俵だった。を結んだ緑色の肌をした皿を乗せた人型が中心から少しズレた所に蹲踞そんきょしている。

 ハクジもまた。その反対側に蹲踞していた。

 その間に、マシロがいる。いつの間に、クロとモモコが気づく暇も無かった。

「白色規定、命じる、はっけよーい、のこった!」

 行司のように手を振り上げたマシロ。ハクジと河童ががっぷりおつに組み合う。


「これがマシロさんの超能力?」

 クロガモモコに問いかける。

「そうどんな人間でも禍魂マガタマでも命令を遵守させる事が出来る」

 そこでクロが首を傾げる。

「そうさ? きぃさんの黄色変性も人を腐らせる事が出来るし、アオさんの空色無式はどんなものでも無重力状態に出来る」

「なんでもありかよ……こえぇ」

 震えるクロ。モモコは少し悲し気に。

「ワタシも早くあのステージに立ちたいZE……」

 土俵の二人と河童を眺める黒と桃の少年少女。


「うおおおおお!!」

「キェェェェェ!!」

 ひたすらに叫ぶ二人、ジリジリと押していくハクジ。

「のこったのこった! のこったのこった!」

 盛り上げるマシロ。

「ロケンロー!」

 叫ぶモモコ。

「なんだこれ……」

 呆れるクロ。


 その時だった。

 ハクジが河童を土俵に叩き付けた。

「勝負あり!」

 マシロが手を振り上げる。

「ヨッシャー!」

 ハクジが雄叫びを上げた。

 そして河童に手を伸ばす。

「ん? 何だ? 助け起こすのか?」

 クロが首を傾げる。

 モモコがやれやれと首を振る。


「んな訳ねーだろ、ま、見てなって」

 そう言ってそっと土俵に近づく桃と黒の二人。

 白色の髪の毛の男女二人は寄り添い、そして。

「せーのっ!」

 河童の頭を掴み、

 血しぶきが河童の首から噴き出す。

「……は?」

 思わず腰を抜かすクロ、そのまま脊髄を引っこ抜くハクジ、それを二人で首に巻くマシロとハクジ。

「あったかいねー!」

「だな」

 首を肩に預けるマシロ、照れるハクジ。


「なにを見せられてるんだ俺は……」

「知らねーの? マシロコンビの脊髄マフラー」

「知る訳ねーだろ!」

 いつの間にか土俵も消えている。これも河童の境界チャンネルだったのだろうか。

 その日はそれで解散となった。

 後日、聞かされた事だが、それは結界テリトリーというらしい。結界テリトリーを持つ禍魂マガタマは強いんだとか。

 あの河童、そんな大物だったのか……。とクロはまた一つ賢く(なりたくもないのに)なったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る