第6話 急接近すぎるかな?
クロが目を覚ますとそこは見慣れた自分の家の天井だった。
「はぁ、全部悪い夢だったんじゃないか……?」
ため息をつく、ポンと横に手を伸ばすクロ、むにゅという感触に違和感を覚える。
「なんだこれ?」
むにゅむにゅと寝ぼけまなこでそれを掴む。
「……あん」
そんな声が漏れた、隣にいたモモコから。クロはモモコの胸を揉んでいたのだ。
「んなぁ!?」
飛び起きるクロ、何故か布団が二枚、狭い部屋に敷かれている。親はどーした親は! とクロは声を上げそうになるが、モモコを起こさないように抑える。
「……そういや親父はこーいう奴だった」
いわゆるシングルファーザーのクロの父親は自由奔放な性格で放任主義だった。中学の時、女友達を家に上げたクロ、父親はさも当然のように布団を二組用意した。
それ以来、その女友達とは疎遠になった。モモコは――どうなのだろう。平気、なのだろうか。
「おい、起きろよ、モモコ」
「んー? おっ、イイオトコー♪」
抱き着いてくるモモコ。クロは逃げ場を失う。
「馬鹿、やめろ!? 寝ぼけてんのか!?」
そのまま二人の顔が近づく。そして――唇がくっついた。いわゆるキスである。
「――!?」
それだけではない。舌を入れて来たではないか! とクロは驚く。
「んっ――」
「――んん!」
クロはなんとかしてモモコを引きはがそうとする。が、モモコが離れない、すると何か違和感があった。
(何か吸い取られてる!?)
思わず、モモコに頭突きするクロ、痛い。
「いてて、何すんだよクロ」
「お前こそ何すんだモモコ! なんか吸い取ってたろ!」
ついでにファーストキスまで奪っていったろ! と思ったが、そこまで言えなかったクロ。
「ああ、ちょっと寝惚けて精気を貰っちゃった」
「精気?」
「生命力」
「なんてことを!」
思わず頭を抱えるクロ、モモコは罰が悪そうに頭を掻きながら。
「悪い悪い、別に寿命縮んだりしないから……ただ今日はオ〇ニーとかしない方がいいかもな!」
「女の子がオ……とか言うな!」
今更、顔を真っ赤にするクロ。モモコは不敵に笑う。
「へぇ、そう言うの気にするタイプなんだお前」
「ぐっそれは……」
「でも今回はノーカンでいいよな! お前も胸揉んだんだし!」
「な、気付いてたのか!」
またも罠にかかった獲物を見るような顔になるモモコ。
「へぇ、揉んだんだ」
「クソッ!? ブラフか!」
頭をかきむしるクロ、モモコは大爆笑。
「意外と胸あるだろ? トランジスタグラマーって言うの?」
「知るか!」
「ちょっとは喜べよー、こんな美少女とキス出来たんだからさ☆」
「うっせー! 自分で美少女とか言うなー!」
しかし顔が熱い、モモコを直視出来ないのは事実だった。胸がドキドキする。クロは悶々とするこの気持ちのやり場に困っていた。
「もう、帰れよお前」
「お? オナるのか? やめた方がいいZE?」
「だーかーらー! オ……とか言うなー!」
どうすれば解決するのかこの煩悩は。クロは悶え苦しむ。
「はー、しゃーねーな」
がっちりとクロの頭を掴むモモコ、また顔が近づく。
「お、おい!?」
がっちりホールドされ顔が動かない。モモコの唇とクロの唇が触れ合う。そして再び舌が入って来る。絡み合う。
何かが吸われていく。しかしさっきと何か違う。
(あれ……? 落ち着いてく……?)
胸の鼓動が収まっていく。顔の火照りも消えていく。不思議と落ち着いていく。まるで母に抱かれているような……。
クロは早くに母親を亡くしている。病気だったそうだ。
クロはまだ幼く悲しむ暇も無かった。そんな記憶の奔流の中から、視界の端に桃色の髪の毛が入った記憶が混じる。
「ねーアオさん! ワタシはなんでここにいるの?」
「それはな?
「ワタシに出来るかなー?」
「出来るさ、お前にゃ才能がある」
青色のスーツルックの女性はまさしくアオさんだ、歳をとっていないように見えるが……。
「そっかー! じゃあワタシがんばる!」
「おお、ロックンロールで行け!」
「ロケンロー!」
キスが終わる。落ち着いたクロが冷静に聞く。
「今、何を?」
「お前の煩悩を吸い取った。
「役目?」
「御祓師ってのは使い魔の幸不幸をコントロールしとかないといけないからな。過度に不幸になられても困るし、幸運になられ過ぎてもまた困る。餌としてのバランスがあるんだ」
「バランス……」
どうやら禍魂にも好みの味があるらしい。
「じゃあもう一つ、アオさんって歳取らないのか?」
「お? ワタシの記憶を見たな?
「……何者なんだあの人」
まだまだ御祓師と禍魂の謎は多い。クロは頭を悩ませる。モモコは笑い飛ばし。
「ま、細かい事気にすんなって! じゃないとこの業界生きてけねーZE?」
「嫌な業界に入らされた……」
クロはため息を吐く。モモコはニコニコとしている。
「ていうか、マジで帰らないのか?」
「おう、親父さんには許可もらってるZE?」
「あの親父め……!」
なんとかしていつか親父には常識というものを学んでもらわねばと心に誓ったクロなのであった。
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